【インタビュー】第12回: 多喜靖美先生 「アンサンブルでレッスン革命!」

文字サイズ: |
2006/10/27

taki_yasumi.jpgアンサンブル楽譜の出版や指導法の研究、そして、アンサンブル曲をステップに取り入れる試みなど、教育面に力を注ぐ一方、ご自身も様々なアンサンブルグループと共演されている多喜靖美先生。今回は、講座のお話を軸に、アンサンブルの楽しさ、メリット、効果などについて色々とお聞きしてきました!

ピアノを学ぶ人って、他楽器に比べて圧倒的にアンサンブル未経験者が多いと思います。そんな中、ピアニストがアンサンブルを学ぶことの最大のメリットとはなんだと思われますか?

「ピアノって、他の楽器に比べても、すごく特殊で、不思議な楽器だと思うんです。それなのに、みんなそのことを意識していない。ピアノといつも何時間も向き合って練習しているような人でも、自分の楽器がどうやって音を出しているか、なんて、あまり知らないんですよ。そこで、ピアノの特殊性や長所、短所について一番よく知るには、ピアノを、いっぱいある楽器の中のひとつ、という視点から見るのが一番だと思うんです。例えば、海外に住んでいると日本のことがよくわかるのと、同じことですよね。そして、こういったアンサンブル経験は、演奏が楽しいということももちろんですが、最終的に自分のソロ演奏に生かせる、ということが大きなメリットだと思います。」

そうですね。ただ、アンサンブル演奏って少し特殊...というか、難しそうなイメージがあって、中には敬遠されている方も多いと思います。

「私自身はピアノを始めた3歳の頃から、お隣に住んでいた、ヴァイオリンを習っていた子と、いつもアンサンブルで弾いていました。学生時代も、音大の仲間とだけでなく、アマチュアの人達と、かたっぱしから遊びで色々な曲を弾いたり、オーケストラの中でピアノを弾くなど、アンサンブルは自分に取ってはずっと、当たり前のことでした。 

ただ、その土壌が出来ていない人にとっては、アンサンブル演奏って、敷居が高く感じられたり、演奏仲間を探すのが難しかったりしますよね。そこで数年前、私は『はじめの一歩』という初心者向けの室内楽の楽譜を出版に携わり、以来ピティナ・ピアノステップにも積極的に取り入れてきました。バイエルやバッハ、ブルグミュラーやバスティンなどのソロ曲に、別の楽器のオブリガート(助奏)のパートを合わせた、厳密には室内楽とはいえない曲なのですが、この楽譜は、他楽器と合わせることの楽しさを知るいいきっかけとなるのでは...と思います。

またこういった機会に、他の楽器の演奏を側で見ながら一緒に弾くことは、ソロの演奏にも役立ってきます。例えば、弦楽器と合わせて弾く時に、弓や弦の動きと合わせる為に、演奏に入る時に打鍵のスピードを落とすことを経験すると、ソロ曲を弾いているときでも、『ここは、あの時のチェロと同じような出方で弾いてみよう』と思うようになったり...。また、アンサンブルで他の楽器と合わせる時、みんな一生懸命、相手の演奏を聞こうとしたり、自分のやりたいことを伝えたりしますね。すると、最終的にソロをやった時に、それまでは独り言の様に勝手にピアノを鳴らしていたのが、『次はこういう音を聴かせたい』という風に、自分自身の演奏、そしてその向こうにいる聴衆を意識出来るようになる。

ピアノは、オーケストラをイメージしながらその全部が弾ける楽器です。だからこそ、アンサンブル経験によって、ピアノソロの楽譜も、捉え方が違ってくるのです。ピアノの楽譜は、一人の人が10本の指で弾くのに適した書き方をしてあるけれど、アンサンブル経験者は、『オーケストラだったら、この16分音符は分業で弾く』とか、『ここの部分は色々なパートが組み合わさって出来ている』ということが、見えるようになってくる。ですので、私は自分の生徒には必ずと言っていいほどアンサンブルを経験させますし、ソロの曲でも、右手のパートを生徒が両手で弾いて、左手を私が両手で...といった形でアンサンブルしながらのレッスンをしたりもします。」

他楽器との共演のみならず、「~『おはなしとピアノ演奏』からのアプローチ~音楽表現の指導法」では、ピアノ朗読とのコラボレーションついてもお話されてますが、これはどういったものですか?

「これはもともと、とある病院で患者さん達向けのロビーコンサートを開いて欲しい、と頼まれたときに思いつきました。子供向けの内容を、ということで、当時、幼稚園生だった息子のお友達のお母様で、朗読に関しては全く素人の方に、『ヘンゼルとグレーテル』の童話を読んで欲しい、とお願いしました。そして、物語の合間に私が、皆が知っているようなピアノ曲を弾く、という形でコラボレーションしたんです。ピアノと朗読、まったく違う分野に思えますが、朗読の方は、私のピアノで次をどういう風に読むかのイメージを膨らませ、私のほうも、自分ひとりで演奏しているのとは全然違う空気と意識の中で演奏出来ました。子供にも大人にもこの試みは大好評でした。それ以降は現在に至るまで、息子の朗読などで、色々なお話しに様々な音楽を付けた形でのコンサートを行っています。

それから、各地の勉強会などで、こういう形で、自分のオリジナル作品を作りませんか、と呼びかけたところ、素晴らしい作品がたくさん出来ました。既存のお話や曲を使っていても、出来上がる作品は全部違うので、子供達にもこういったことをやらせることによって、先生に言われた通りに弾くのではなく、自然に自分なりの表現を考えて表せます。こういった理由から、講座では、是非皆でどんどんオリジナル作品をを作っていって欲しい、と呼びかけています。11月3日に行われる大阪中央11月地区ステップでは、今年5月に行った講座の成果を、ステップの中で参加者が披露する、という初めての試みが実施されます。ステップの一つの部を使って、お話しとピアノ演奏によるオリジナル作品が公開されるのです。今回は、同じストーリー、同じ選曲を、朗読と演奏者を替えて二つのパターンで発表して、その違いも楽しもう、ということになりました。とても楽しみです。」

そういった経験が、また自分のピアノ演奏の肥やしになっていくのですね。

「はい、もちろんです。
というのも、ピアノという楽器ひとつで聴衆に伝えられることは、非常に抽象的で、限られていますよね。人間の感情の起伏や、抑揚を音楽で表す、といっても、実際にどうしていいかわからない人は多い。しかし、お話と組み合わせて演奏することで、恐い気持ち、悲しい気持ち、楽しい気持ち...というものが、ピアノでもちゃんと表現出来るんだ、ということを、演奏者も聞く側も実感出来るんです。

特に、『ピーターと狼』や『ヘンゼルとグレーテル』などの、元々お話に曲がついている既成の作品ではなく、自分達がいつも弾いているようなチェルニーやブルグミュラーなどの曲を、簡単なお話の様々な場面に当てはめて弾いてみると、お話に関連した気持ちや情景を音楽で表現することの効果を体感できます。『表現力』というものを直接教えてあげなくても、この方法は、表現の力を自然に身につけるには最適だと思います。」

ピアノの他楽器との共演と言うと、どうしても「伴奏」が思い浮かんでしまって、苦手意識を持つ人が多いかと思うのですが、他楽器と、他分野と、色々な形の共演があるんですね!

「アンサンブルというのは結局、一つの作品を作り上げるバランスが問題で、例えば伴奏のパートであっても、だから陰で弾け、というわけでもないと思います。複数名で一つの作品を作り上げていくという意味では、伴奏も、デュオもトリオもコンチェルトも全て、本質的なところは同じだと思っています。ソロも、それを一人で全てやる、というだけで、やることは全く同じなのです。ただ、そういう意識になかなかならないのは、アンサンブル体験が少ない所に要因があると思いますので、そういう意識を変えていきたい。その上でピアノを自由に操れるようになってほしい、ということを、講座でも伝えていきたいと思っています。」

ありがとうございました!

取材中、「先生は他の楽器は演奏されるのですか?」と尋ねてみると、「本当はヴァイオリンがすごく好きで弾いてみたいんですが、想像の中の自分の名演奏と現実とのギャップに耐えられなくて、実際には全然弾けないんですよ」と笑って答えてくださいました。ピアノ専門でありながら、自分の楽器だけにはこだわらず、他の楽器の魅力も熟知している、そんな視野の広さがピアノ指導者にも必要なのだと思いました。

⇒多喜先生のプロフィールはこちら
⇒11/17熊本で講座開催!詳細はこちら


【GoogleAdsense】
ホーム > ピアノセミナー > ニュース > 03インタビュー> 【インタビュー】第1...