音楽における九星

第一部<第21回>まとめ━フレンチピアニズムの系譜

2018/05/31
◆ 第一部
<第21回>まとめ━フレンチピアニズムの系譜

ここまで九星の相性・比和・相尅、及び十二支の支合・三合・冲などのあらましを述べてきました。ここで復習を兼ねて、前回の安川加壽子氏をモデルに、活動とその系譜を九星の視点から辿ってみましょう。

安川氏は六白金星の戌歳です。この点で一白水星であり、しかも午歳で三合に当るショパン、シューマンが中心的レパートリーとなったのは当然といえます。ドビュッシーも三合、ラヴェルも相生です。

ベートーヴェンも相生かつ三合でした。元よりフランス風なベートーヴェンだったとしても、相生していたのです。しかし、相尅するバッハがプログラムの中心を占めることは少なかった筈です。

安川氏の師、ラザール=レヴィもショパン同様、一白午歳ですが、1月生れのため、二黒巳歳となります。安川氏にとって「親」と「子供」の双方を備えていることから、師弟の絆の深さが伺えます。

ラザール=レヴィは実際優れたピアニストであり、コルトーに一歩も引けを取らないばかりか、作曲家としても魅力的でした。

コルトーとラザール=レヴィは同じルイ・ディエメール門下ですが、両者ともディエメール(四緑卯歳)とは相尅していた点で、師について肯定的な評価をしていません。このためディエメールは時代遅れのつまらないピアニストであったかのように伝えられがちですが、これはとんでもない誤解です。

率直に言って、ディエメールの演奏の魅力は圧倒的で、コルトーとでは役者が違います。勿論、私はコルトーの見事なショパンやフランクの名演を知っていますが、ディエメールとコルトー、あるいはラザール=レヴィとの違いは、作曲家たちの彼らへの作品献呈数の歴然たる差が証明しています。上には上があるのです。

そのディエメールの師が、ビゼーやドビュッシーの師でもあった、アントワーヌ・マルモンテル(四緑子歳)です。四緑の比和は親和しやすいので、師弟関係は良好だったと考えられます。ショパンの実演を間近に見ているマルモンテルは、演奏と作曲双方において、ショパンから大きな感化を受けていたことは疑えません。マルモンテルにとって、ショパンは「親」にあたります。

さらにマルモンテルの先生が、ピエール・ジョゼフ・ヅィメルマン(八白巳歳)で、四緑と八白の特殊関係により、やはり良好です。

このヅィメルマンの、パリ音楽院ピアノ科教授の後任ポストをめぐって、アルカン(七赤酉歳)とマルモンテルの確執が生じた話は有名です。ヅィメルマンから見れば、アルカンの方が相生かつ三合で、親密度が勝っていたことが分かります。

しかし、実際に後任の指名権を持つ、院長のダニエル・フランソワ・オーベールは三碧丑歳(二黒の一月生まれ)でした。アルカンとは三合ながらも尅気、マルモンテルとは友好的な比和関係に加えて、子と丑の支合が働きます。これではアルカンに勝ち目はありません。

もし、アルカンが教授に任命されていれば、その後の引き籠りはあろう筈がなく、従ってそれがもたらした後期の傑作の数々も、恐らく無かったことになります。

このように、九星や十二支をキーワードに史実を眺めてみると、そのシナリオの原理が読めるだけでなく、それらが歴史や評価を創出する起動力であることがわかります。

因みに、この半世紀ほどで再評価が進んだアルカン復興運動は、その大部分がアルカンと相生もしくは三合に当る人々の意志と働きによるものです。
≪第一部・完≫(2018.5.16)


◆この連載について
作曲家でピアニストの金澤攝氏は数千人におよぶ作曲家と、その作曲家たちが遺した作品を研究対象としています。氏はその膨大な作業に取り組むにあたって、「十二支」や、この連載で主にご紹介する「九星」を道しるべとしてきました。対人関係を読み解く助けとなる九星は、作曲家や、その人格を色濃く反映する音楽と関わるに際して、新たな視点を提供してくれるはずです。「次に何を弾こうか」と迷っている方、あるいは「なぜあの曲は弾きにくいのだろうか」と思っておられる方は、この連載をご参考にされてみてください。豊かな音楽生活へとつながる道筋を、見出せるかもしれません。 (ピティナ読み物・連載 編集長)
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