会員・会友レポート

FACPカンファレンス(韓国釜山, 2018年11月1日~4日) 参加レポート

2019/02/06
FACPカンファレンス(韓国釜山, 2018年11月1日~4日) 参加レポート

安藤 博(正会員)(2018年12月記)

FACP(Federation for Asian Cultural Promotionアジア文化芸術促進連盟)カンファレンスは第一回目が1981年にマニラで開催。以来、2度ほど隔年開催があったが、その他は毎年開催され、今回が第36回目である。「連盟」という堅固な組織に裏打ちされているとはいえ、37年間ほぼ毎年、しかも各国持ち回りで会議が開催されているというのは、私的機関としては世界でも稀に見る存在といってよいだろう。

  • 同会議については、過去にも下記のレポートがあるので、併せて参照いただきたい。
ホテルエレベーターから見える海雲台ビーチ

会場となったのは釜山の美しい海雲台ビーチを臨むHaeundae Grand Hotel。今回の総合テーマは「文化産業の新しい地平A New Horizon for Cultural Industries」というもので、会議は4日間(11月1日~4日)の日程で行われたが、初日はGovernor’s meetingとWelcome Receptionそして最終日はClosing Ceremonyだったので、実質中2日間が会議ということになる。

会場となった海雲台グランド・ホテル
会議場コンヴェンションホール入り口のパネル

平昌オリンピック式典演出を行ったSeung-Whan Song氏とアスペン音楽祭の実行責任者Alan Fletcher氏による2つのキーノート・スピーチに続いて、5つのパネル・ディスカッション合計16名によるプレゼンテーションが行われた。発表者の国籍も韓国をはじめ、中国、モンゴル、インド、フィリッピン、ベトナム、香港、台湾、日本さらにアジア以外からも米国、ドイツ、オーストラリアなど実に多彩だ。

福田専務理事とJaffer Nick(オーストラリア), Brinda Miller(インド)の両氏

筆者がこれまでに参加したことがある国際会議の多くは学術会議のため、出席者のほとんどが個人資格で参加しているものだが、FACPの参加者は音楽マネージメント、音楽祭主催者、オーケストラやオペラ・カンパニーなどの音楽関連団体の代表者たちが大半である。そのため、プレゼンテーションの多くは、プレゼンターが所属する団体の活動内容や問題点さらにその解決方法を紹介するものだった。しかしこれら多くが、各々のお国の事情は異なるものの、むしろ共有すべき問題点が多く、そのため自らが抱えている問題点を異なった視点から掘り下げることにも通じるため、解決策を見出す様々なヒントを得ることにもなる。

実行委員会会議

ここでは、とくに興味深かった2つのプレゼンテーションをご紹介しておこう。 ひとつは、日本の「金沢21世紀美術館」副館長黒澤伸氏による、金沢市の取り組みについて。 文化的に豊かな伝統をもつ金沢市において、伝統を維持するだけでなく、なぜ、そしていかに刺激的で創造的な文化活動を繰り広げていく必要があるかという内容。

  1. 伝統×リノベーション=!?
  2. 文化活動を誘発する施設と組織
  3. 都市:芸術家を育成するところ
  4. 都市:創造的成功をもたらすステージ
  5. 挑戦
  6. 見通しと可能性

発表は、以上の6つの視点から、音楽、美術、伝統工芸、映画、演劇、ダンスなど広範囲な芸術活動について行われていた。具体的な事例も豊富で、何よりも現状に満足するのではなく、常に新しい試みにチャレンジすることが大切であり、また芸術によって人々の生活が豊かになり、さらには個々人の人生が変わることすらありうる・・・そうした現場を築き上げたいというお話。しかもこうした活動に必要な施設を新しく建てるのではなく、既存の廃校施設や工場跡を有効利用するなど、隅々にまで知恵が巡らされている。こうした金沢市の取り組みは、都市単位だけでなく、たとえば、高等教育機関などにとっても様々なヒントが得られる事例であろう。

メイン会場発表風景

もう一つ紹介したいプレゼンテーションは、高等教育機関における、従来の教育カリキュラムと社会情勢の急速な変化との間に生じているギャップについて発表されたものである。
発表者は韓国釜山市にある慶星大学教授Won-Myung Kim氏。
教授がまず紹介されていたのが、ジュリアード音楽院の事例。
1994年の卒業生について10年間にわたって、進路などを追跡調査したところ、多くの卒業生がその間に本来考えていたキャリアを諦めていたという。この要因は明らかで、多くの音楽大学が長い間旧態依然のカリキュラムにより技術教育偏重に陥っており、その結果卒業生たちが現代社会の急速な変化に適応できなくなってきているためである。そうしたことから、米国の多くの大学では、音楽における「アントレプレナーンシップ(企業家精神Entrepreneurship)」という視点を重視し、学生たちが音楽家としての自己の能力を最大限に活かし社会に適応できるよう教育することを始めた。
同様の問題は韓国の音楽大学にもあり、カリキュラムが急速に変化する社会の要請に追いついていない。 その要因は明らかで、旧態依然の演奏技術教育に重点が置かれたカリキュラム、教員も多くが演奏系であり、教育の多様性が欠如している・・・。
さらに韓国においては、人口減少に伴い、とくに地方の音楽大学空洞化が問題となっており、そのことは、当然大学の財政危機にもつながっているという。
以上のようなお話は、そのまま日本にも当てはまる事象であることはいうまでもないだろう。 アメリカで10年以上前から言われているアントレプレナーンシップEntrepreneurshipはこれからの音楽大学のキーワードになっていくだろう。

カヤグム・アンサンブル、演奏曲は伝統曲ではなく、ポピュラー曲の編曲だった。
モンゴル・オペラの歌手とダンサー

以上の他、モンゴルの国立オペラ劇場の活動内容について報告されたMunkhzul Chuluunbat氏の発表(私はお恥ずかしながら、モンゴルに西洋オペラをレパートリーの中心とするオペラ劇場があることすら知らなかった)や、いかにして助成金を多く獲得するかについての方法論について発表されたGlobal Philanthropicアジア・パシフィックセクション理事長のJaffer Nick氏(オーストラリア)のお話など興味深いプレゼンテーションがいくつもあった。

F1963アートライブラリー

最後に、会議運営について一言。とても残念だったのは、会議スケジュールにはパネル・ディスカッションとして5つのセッションが行われるよう記載されていたが、それらが、すべて個々のプレゼンテーションのみとなり、ディスカッションはおろか、フロアからの質問の時間も一切なかった点である。そのため、発表者への質問は個人的にするしかなかった。こうした質問もフロアからできれば出席者同士で共有できることが多々あったはずである。 FACP会議の目的の一つは、単なる情報交換だけでなく、各国を代表する発表者から問題点と解決点を共有し、自らのヒントを得ることにあると思う。そうしたヒントを得ることが真の文化プロモーションにつながるのではないだろうか?

安藤 博 (Ando Hiroshi)
東京芸術大学楽理科卒業
前 国立音楽大学演奏部事務室・学長事務室室長
現在、タイ・バンコク市近郊のマヒドン音楽大学(College of Music. Mahidol University)客員教授。
ピティナ正会員、日本音楽学会正会員

ピティナ編集部
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