会員・会友レポート

世界遺産とピアノ [後編]世界遺産・富岡製糸場の「幻のピアノ」を求めて 第4回

2017/06/22
連載 ピアノプラザ群馬訪問 後編
第4回:ブリュナ夫妻のピアノについて判っていること
スタインウェイ社製アップライト「ブードワーモデル」

競売にかけられた2台のピアノのうち、史料から型がおおむね特定された楽器がこちらのアップライト・ピアノです。

写真(提供・撮影:中森隆利氏)

この楽器は現在、スタインウェイセンター高崎に保存されています。これは1874年にニューヨークのスタインウェイ社で制作されたピアノで、「ブードワーモデル」という名称がつけられています。「ブードワーBoudoir」とは、婦人のプライベートな部屋のことで、女性の私的な部屋に置かれることを意図した呼称といえます。高さも121cmと小さめで、鍵盤の数も85鍵、つまり88鍵を装備するこんにちの一般的にはピアノよりも3鍵少ない仕様となっています。見ての通り、このピアノは前面のレースのような装飾が特徴的です。これは、単なる装飾ではなく、前面の板に装飾を彫ることで音が前に飛ぶようにするための工夫です。
 なおこのピアノは、NHKエンタープライズで制作され、来年上映される映画『富岡製糸場物語 ~紅の襷~』で使用されるとのことです。

プレイエル社のグランド・ピアノ

競売にかけられたプレイエル社のグランド・ピアノについては、ほとんど何も客観的な手がかりや情報がつかめていないそうです。中森氏が推察するところによれば、このピアノは父の形見としてエミリーが受け継いだものだろうとのことです。確かに、これはありうる仮説です。エミリーは1871年の結婚当時、母と暮らしていました。母の家には当然、父のピアノがあったはずです。また、母は歌手ですから、彼女自身もピアノを所有していたはずです。父ルフェビュール=ヴェリーは1869年に亡くなったばかりでした。誰も使わなくなった父のピアノを、父からピアノ作品も献呈されているアマチュア・ピアニストのエミリーがもらい受け、来日する折に持ち込んだ可能性はじゅうぶん考えられます。エミリーはじっさい、来日後もピアノを練習し、人前でも弾いていました。エミリーが公式の場で演奏した機会として記録されているのは、1873年6月6日、明治天皇の妃である昭憲皇太后(皇后)・英照皇太后一行が富岡製糸場に行啓した折に行われた御前演奏です。中森さんの調べによると、この機会に、エミリーは父の作品を含むプログラムで演奏したそうです。この時に使用された楽器が、おそらくプレイエルのグランド・ピアノだったのでしょう。

写真富岡製糸場、国宝「東置繭所」の二階。繭が袋詰めにされて保存されていた。
写真製糸場内部の様子

ピティナ編集部
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