会員・会友レポート

日々雑感~レッスン現場で思うこと その2 調には特徴がある

2013/03/15
日々雑感~レッスン現場で思うこと
その2 調には特徴がある

先日のレッスンでのことです。中学生のHさんが、バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻第3番を持ってきました。この曲は嬰ハ長調。まだ譜読みがおぼつかないところもあり、フーガのテーマを歌ってもらいました。すると①のようになってしまいました。(赤字に注目)たしかに「ミのシャープ」というのは抵抗があります。「ファ」と歌いたくなるのもわからないではありません。今度はこのテーマをこの「ミの♯」に気持ちを入れて弾いてもらいました。すると、テーマの持つリズム、キャラクターがはっきりしてきました。
photo300.jpgこのフーガのテーマは、最高音に抵抗のある「ミの♯」を使うことにより、曲のキャラクターをはっきりさせているといえます。ちなみに応答テーマも最高音が「シの♯」でありドのナチュラルと異名同音です。どちらも♯がついても白鍵です。バッハはこのフーガのテーマをこのような方法で、キャラクターを明示しているのでしょう。



譜例

②嬰ハ長調の音階を見ると、第3音と導音が、「白鍵の♯」です。これは興味深い。というのも音階の第3音は長調か短調かを規定する音で第4音(下属音)と半音の音程なので、第3音から下属音への上昇志向が認められます。また、導音は主音に行こうとする力を持つ音です。②つまり「上に行こう」とする音、音階のキャラクターをはっきり規定する音が「白鍵の♯である」ということです。


譜例

③ 確か、国内の某出版社の楽譜に、この曲がオリジナルの嬰ハ長調と付録で変ニ長調に書き換えられている楽譜を目にしたことがあります。変ニ長調には、いま述べたようなことは起きていません。
シャープやフラットの位置関係などによって、その調固有のキャラクターができる可能性があるということです。前にも述べましたが、ベートーヴェンが変イ短調(変ハ長調という最も扱いにくい調の平行調)で「葬送行進曲」(ピアノソナタ第12番)と「嘆きの歌」(ピアノソナタ第31番)を書いていることも、このような調号の位置関係から来るキャラクターを使っているのでしょう。 このようなことも含め、音楽を考え、演奏していくと、演奏そのものも変わってきます。

※本稿は大竹道哉先生がご自身のfacebookページに掲載された文章を加筆修正のうえ転載したものです。


※この記事のご感想をこちらにお書き下さい。(Facebook登録者限定)
東京音楽大学付属高校、大学、研究科を首席で卒業。読売新人演奏会出演。第53 回日本音楽コンクール入選。87~90 年ベルリン芸大留学。優等を得て卒業。井口愛子、弘中孝、野島稔、山口優、クラウス=ヘルヴィヒ各氏に師事。ベルリン自由放送、NHK-FM 出演。ベルリン交響楽団、大阪音楽大学ザ・カレッジオペラハウス管弦楽団・モーツァルト管弦楽団と共演。兵庫県明石市在住・全日本ピアノ指導者協会(PTNA)正会員。ピティナ・ピアノコンペティション審査員。 07年にはじめてのCD、「バッハ・ピアノリサイタル」(ライブ録音)を発売、 11年2枚目のCD「シューマン・子供の情景・クライスレリアーナ」を発売。 楽譜「ヴェーベルン:ピアノ曲全集」をプリズム社より校訂 出版する。 92 年より大阪音楽大学非常勤講師。 音源サイトでは100曲を超える演奏を公開する。
ホームページ :http://www8.ocn.ne.jp/~m-ohtake/
▲ページTOP

ピティナ編集部
【GoogleAdsense】
ホーム > 会員・会友レポート > > 日々雑感ᦉ...