100のレッスンポイント

092.時間の大切さ

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2011/09/16

昔から、お金で買えない大切なものは「時間」と「子供」だと感じていました。

子供に関しては、努力してもかないませんでしたが、その代わりたくさんの弟子に恵まれています。

時間の方はどうでしょうか。「絶対的な時間」は変わるはずもなく、1日は24時間、一週間は7日、一年365日から動かしようがありません。

ところが、気持ちの持ちようによって短くも長くも感じます。出来ることなら、価値のある長い時間が欲しいものです。

年を重ねてきて、ここ最近は特に時間が短いと感じます。あっという間に1日は終わり、季節は変わり、一年が過ぎます。確実にあの世にいくまでの時間が減って行いくのですから、「やりたいこと」や山積みの「やらなくてはいけないこと」を消化していくには、時間を作り出さなくてはなりません。

寝る時間を少なくして、とは思いますが、眠くなるのは、以前より早くなったようです。ここを削ってしまうと、更に寿命を短くしそう、と考えると―勝手な理屈かもしれまえせんが―1日の行動時間は変えられません。

どうにかして、限られた時間を有効に過ごしたいものです。

時間は、感じかたで長さが変わる錯覚に陥ります。

たとえば学校で嫌な授業を受けているとき、その50分がなかなか進まず、「まだ後10分もあるの?」と、長く感じた記憶があります。

今のレッスンは、「え!?まだやることいっぱいあるのに次の人が来る!どうしよう!?」の毎日です。とても一時間が短いです。

生徒はと言うと、中学に入り、忙しいことを理由に時間がとれないと言います。よく聞くと、難しくなって、難しいところが来ると、やりたくなく、弾けないままつまらなくて終わってしまう、という繰り返しだそうです。ピアノはやめたくない。

「それなら、今は簡単な曲ばかり弾いていればいいよ!すぐ弾ける小学生になった頃の曲とか。この曲も80才まで続けていたら弾けるようになるよね。」

「だけど、指導者というのは、あなたを向上させていくためにいます。右上がりに階段を上がっていくように上達させるために教えてるの。あるところで、平行線か、下降線になるような導きかたをするつもりは、私はありません!」

中学生になってこの向上心のなさは、少し幼過ぎると思いますが、小さなうちはそういう子が多いです。

「弾けるようになった曲は喜んで弾くが、新しい曲は弾きたがらない」という小さな子の場合、その原因はたいてい読譜力のなさにあることが多いです。そこを工夫してドンドン楽しく読めるようにしてあげ、少しずつ解決します。

「楽譜を読めるけれど、他の色々なことに興味も出てきて、お勉強もしなくてはならないし、後回しにすると、弾けない時間帯になる」という人は、次の段階で増えてきます。
このあたりから素敵な曲が増えてくるのに残念でなりません。

色々なケース、共通解決策は前回の「向上心」を持たせることはもちろん、練習時間確保のために努力する事と思います。

小学生の頃、1日が長く感じていた、そのなかの1時間から2時間ほど(低学年なら30分でも)ピアノの練習が継続できないでしょうか?それは「生涯の宝」を作る時間になるはず、と思います。

その時間を確保できているかを見守るのも、指導者の役目かもしれません。「練習をしてくるのは大前提」などということは、今では夢のような理想になっています。

さて、先ほどの中学生。

私が今後教える条件として「毎日1時間半練習をして、メールで報告をすること」ということにしました。

彼女は「毎日1時間練習して報告します」
「なぜ1時間なの?」
「確実な約束は1時間かと思って」と正直に言うのですが。
「それは困ります。出来なかった分は週末に取り戻して下さい」と納得させて、開始しました。

実は、今日で5日目です。

1日目、好きなテレビを諦めて頑張れた。練習時間90分!
2日目、今日はすぐには弾かない。今日はいつもより凄く眠くなった。明日は早めにやろうと思います。練習時間90分。
3日目、今日は塾もあり、の練習30分。後の1時間は、明日の朝やります。
4日目、朝、6:10~50弾きました。昨日の分としてトータル70分。
また学校から帰ってすぐ弾きました。練習時間は90分。
今日は40ページから43ページを中心に復習と通しました。大分弾けてきて、譜読み中のところ以外は、割りとテンポ通りに弾けてきて、通すと楽しかったです。
時間もあっという間でした\(^o^)/(母より、練習のまとめで通して弾いた時、だいぶスムーズになってきたので、私まで嬉しくなり最後抱き合いました)

ピアノは「弾ければ誰でも楽しい!」というのが持論です。そこに到達するまでの努力や苦労も財産です。
時間は変えられませんが、価値のある時間は、モチベーションや目標設定で産み出せるようです。

同じ90分でも、彼女の言葉のように、「あっという間でした」となるように、練習が楽しいものになると良いですね。

一緒に抱き合って喜んでくれる人がいるとなおさら良いですね。ショパン・スケルツオ2番の完成が楽しみです。

時間は短く感じる方が良いようです。1日があっという間にすぎているのは幸せなことでしょうか!?しっかり充実させた楽しい1日を過ごしたいものです。


★エピソード

随分前ですが、高校3年生の音大受験の時の話です。

彼女は、当時の自分のレベル以上の音大を目指しており、大学の先生からは「一浪覚悟で」と言われていました。私は地元で支えてほしいと頼まれて、レッスンを見ることになったのですが「さすがにたいへんかも!」と思っていました。

上京するたびに他の人との差に驚き、「たくさんの受験生の中で一番下手だった」と、落ち込んで帰って来ます。昔からの生徒なら、叱り飛ばすような場面ですが、彼女があまりにも落ち込んでいるので「がんばればなんとかなるよ!」と、励ますばかりでした。

でも彼女は努力家で、聞くこと新しく、試みて欲しい練習方法を必ず試してくれていることがはっきりわかりました。
受験直前の2月になると、「家庭学習」という名目で登校が自由になるようです。

随分上達し、指も小さいのに「弾けるようになった!」と喜んでいましたので、どのくらい弾いているのか訪ねてみました。

「1日12時間」

私は絶句し「すごいね!」というと、
「やることが多くて、12時間でも足りないんです!」

感動して「みんな必死で練習してるけど、毎日12時間弾いている人ってそうはいないと思うよ。絶対受かるよ!」
と激励しました。当然、見事合格!

12時間練習しても、まだ足りない、まだやりたい。それは12時間という時間がとても短く感じられ、価値のある時間を過ごせたということです。そして、それにふさわしいご褒美があったということでしょう。
「かける時には集中してかける」という時間の使い方も、時には必要と思います。


池川 礼子(いけがわ れいこ)

武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。

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