100のレッスンポイント

091.向上心

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2011/09/09

以前、新聞に興味深い記事が載っていました。ある少年鑑別所の所長さんの話です。

少年院に来る子供と他の多くの子供で最も異なる点が「向上心」があるかないかだそうです。「何をやっても自分はできない!」何をやってもダメだと言われるので、投げやりになってしまい、何もしたくない。「希望」というものを持たない子供たち...というような内容でした。

ピアノを習っている子供たちは、まずそれなりに家庭環境に恵まれて、最も大切な「心の豊かさ」を育てたいという意識が高い家庭であることが多いです。
でも、そんななかでも、ピアノに対する「向上心」の高い人と、そうとは思えない人とがいます。

お金を出して習っているのですから、上手になろうという気持ちがもっとでても良いのではないか、と不思議に思う事があります。ただなんとなくレッスンに来ているのです。

「今週はこういう理由で練習不足だ」と、レッスンの初めは必ず言い訳から入る人がいます。 毎日の練習は、その時間を捻出する必要がありますから、意欲なくしてはたいへんだと思います。
弾かないと新しい曲は弾けません。指が強化されないと、弾きたい曲も弾けません。ましてや感動させる演奏など、その気になって取り組み、長い年月、練習を重ねた努力あっての上のことです。

しかし、そこに音楽を楽しむということがあるから続けられます。努力すれば弾けるようになることも、嬉しいことです。弾きながら「素敵な曲だなあ」「素敵な音だなあ」と聴いてワクワクしたり、それが嬉しい事を知っているとどんどん練習自体が楽しくなるはずですよね?

そんな風に生徒を導ける事が、良い指導者なのでしょうが、なかなか、じっくり理想的に時間をかけた練習をさせるには、今の子供たちは忙しすぎるようです。

練習不足で、足が重くなるレッスン。なんとなくその日がやってくるレッスンではなく「薔薇色のレッスン!」とならないでしょうか?

向上心を持って、何事にも楽しく挑戦する事が、ピアノを通じてできないでしょうか?

いつでも、その気になれば変わると思います。

「少しでも自分を高めたい!」「知らないことは知りたい!」「勉強も出来るようになりたい!」「ピアノも上手になりたい!」

そういう想いを持つことは自由です!想うだけなら、疲れもしません。それならまずは、理想を持つ事です。それをまとめて一言で言うなら「向上心をもつこと」です。

今より少しでも良くありたい!

それを行動であらわすには、やはり努力が必要です。挫折することもあるかも知れません。しかし、自分を成長させる喜びを知り、少しでも向上出来たことを幸せだと素直に感じる毎日であるよう願いたいです。

ピアノは、ちょっとした努力で美しさが増したと感じられ、進歩を実感できます。言わば結果が早くわかりやすいものです。ピアノに対する向上心を持つ事から、何事にも向上心を持つ人になって欲しいと思います。


★エピソード

「向上心のない」子の話をします!

練習しない、しても嫌々させられているのでいつまでたっても下手。様子をみていると、どうやら何についても同じ調子らしいのです。

「めんどくさい!だるい!」が口癖。
何とかならないかと、怒ったり、おだてたり、説得したり、、、

「そんな、何でも面倒がって、努力もしないとろくな人間にならないよ!」というと、「いいもん!ろくな人間でなくて」。「生きて行けないよ!」と言うと、「行けるもん」と口答え。

真剣に頭にきながら言い合いましたが、一向に改善されず。

本当に困ったものです。きっとお勉強もつまずいているに違いないです。ピアノがすらすら弾けると、頭が「あたりまえに良くなる」と言い続けていますが、彼女はその回路がうまくできていなくて、ピアノも他のものへも向上心がもてず、残念です。

でも一方で「上手く弾こう」という気がないので、とても楽に弾きます。その結果、とても良い音なのです。

面倒くさくてしかたのないピアノも9年続いています。コンペも出続けています。きっと嫌々来ているうち、私とのバトルも快感になっている(?)のか、毎回ほんの少しの曲を持ってきて「もう一回弾いて!」と言うのに対して「何で!」などという始末ですが、結構居心地が良いようです。

根比べです。

どう育つか絶対見届けたい。実は大好きなキャラクターで、なくてはならない存在なのです。 「向上心」を持つこと、少しでも伝わっているとしたら、嬉しいです。


池川 礼子(いけがわ れいこ)

武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。

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