100のレッスンポイント

083.他の芸術にふれよう

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2011/07/15

演奏には、その人の心や性格が映し出されると思っています。すばらしい演奏を目指すには、色々な経験をして心を豊かにする事が不可欠だと思います。

美しい物を見聞きして、素直に感動できる心、美しいものにあこがれる心も必要です。悲しいこと、寂しいこと、嬉しいこと。さまざまな経験に対する心の反応が、人間を創っていくと思います。そこに弾くという技術があれば、その心はピアノに反映されるはずです。

同じように、人間が努力して創った他の芸術作品に出会い、感動する事はステキな経験であると共に、ピアノ力にも必ず反映されてくることだと思います。

インドには7世代にわたって山を彫り続けて造った寺院の遺跡があります。エジプトには、はるか昔にどうやって作ったのか?と思わずにいられない、ピラミッドとスフィンクス。一方、ドイツの田舎にある小さな教会に、リーメンシュナイダーという作家のすばらしい細かな木彫作品があります。 ヨーロッパのお城もそうですが、日本のお城、お寺、神社などの建造物も同じく、当時の人が作り残した、すばらしい芸術です。

自分がちっぽけに見え「あまり小さなことにくよくよしなくて良い。」といわれているような気がしてきます。挙げていくときりがないですが、過去のすばらしい遺産です。

それらが作られる過程と同じで、ピアノの曲を仕上げていく時も、少しずつ、磨いていきます。出来ないところが弾けるようになり、ゆっくりしか弾けなかった曲が、その曲にふさわしいテンポになり、ようやく弾いている本人自身も、演奏していてワクワク嬉しくなったり、陶酔できるようになり、人に感動を与えられるレベルに仕上がっていきます。

その完成したときの価値とすばらしさを知っているからこそ、努力することができ、芸術作品が出来上がります。

音楽、美術や書などには、心を込めて作り上げたものからもらえる、感動とパワーがあります。「感じる」心を持って、たくさんストックしていきたいものです。

子供たちには演奏会だけでなく、美術館などにも足を運んで、他の芸術に触れて欲しいです。

絵を見ることによって、色使いや形を純粋に美しいと感じてもよいし、空想の世界に入ってもよいですね。特に小さな頃、そういった経験をたくさんしていると、演奏に必ず反映されます。

私の言い方で「夢見る夢子さん」ほど、面白い表現力を持っており、演奏にも出ます。悲しいことに、成長と共に、だんだんその感じが薄れることもありますが。

ピアノを弾いている時、心の中では、自分が、その当時の貴族のお姫様になっていたり、ふわふわと漂う雲のようだったり、さわやかな風であったり、して良いと思うのです!
そのためには、特に、すばらしい人の手で作った芸術作品にたくさん触れ、心の中に、ステキなもののストックを増やすと良いと思います。
 本当に心豊かな人間を育てたいと思う時、是非、ピアノと共に、色々な他の芸術作品にも触れさせてあげたいなと思います。

★エピソード

私の主人は彫刻家です。無から作品を創る芸術家です。そのおかげで、たくさんの本物の芸術に触れる旅もでき、心の中に、忘れられない感動がたくさんあります。

ときおり、「彫刻家ってかっこいいですね!」などとも言われます。
しかし、ピアノを弾いている人にはお分かりのように、一朝一夕に作品が出来上がるわけではありません。粘土を「つけては削り」を果てしなく繰り返します。

全ての細部を創りこむことがよいわけではなく、全体のバランスがとても重要で、作品の価値が決まってくるように思います。

ピアノの作品作りととても似ていますよね。

そして、創る事が本当に好きでないと、こういう努力(たぶん本人は努力とは思わない)と時間はかけられないだろうと感心します。

やはり、「人間」が作品に出るのだと思います。性格が音に出るのと同じようです。一つの作品を見るとき、その背景にある物語性や、その時の想いを想像すれば、より、作品が語りかけてくるように思います。
生の音楽は、一瞬にその存在が消えていく分、さらに感動を強く伝え、心に残る事ができるのでしょう。


池川 礼子(いけがわ れいこ)

武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。

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