ピアノステージ

Vol.03-3  <ピアニスト>が育つ家庭の3つの視点 根津昭義さん,栄子さん,理恵子さん

2007/03/31
<ピアニスト>が育つ家庭の3つの視点

 そうと語るのは、ヨーロッパと日本で活躍中のピアニスト・根津理恵子さん。NHK交響楽団のヴァイオリニストである父・昭義氏と、ピアノ指導者である母・栄子先生との3人家族は、いつも笑顔が絶えない。音楽一家に育ちながら、理恵子さんが自由に、そして生き生きとピアノの道を歩んでこられたその秘密に迫る。

視点その1・自分が色々経験してこそ、子供への気持ちの余裕が持てる

根津昭義さん
根津昭義さん
東京大学卒業後、一転して音楽の勉強のため東京藝術大学に入学、その後NHK交響楽団のヴァイオリニスト就任と、異色の経歴を持つ昭義さん。教育パパなのかと思いきや、「本当にのほほんとしてる。私ののんびり病は父譲りです」(理恵子さん)「ぜんぜん厳しくない。自分の好きなことばかりやってて、とにかく楽しい人生」(栄子先生)。写真や車など、音楽以外でも多趣味な昭義さんだからこそ、自分と同じ分野に進むことを決意した理恵子さんに対しても余裕を持って見守ることが出来るのかもしれない。

 「受験勉強も音楽も、本質さえはずさなければ大した時間を要さない。自分の受験勉強の経験からもそう思いますし、音楽に関してもそのことを身をもって理解するのに長い期間を要しました。僕自身は小さい頃からスパルタ教育(笑)で育ったので、『弾く』ということを方法論・技術論に時間を費やすことでマスター出来る、とずっと勝手に思い込んでいました。しかし、海外の方の演奏などを聴いていると、技術的には完璧でなくても、『こう弾きたい』という思いがあることで『良い演奏』が成立することがわかってきました。我々自身が色々な経験をして初めて、子供にも本当に必要なことだけ必要な分やらせて、人生の他の面でも充実させてあげることが出来るのだと思います。
あるひとつのことを『こうしなければ出来ないよ』と追い詰めて、ぎりぎりの状態で目標達成させてしまうと、子供はいざそうなった途端に気が抜けちゃいます。目標が次なる目標へのきっかけではなく、ゴールになってしまうんですね。だから、子供が間違えた時も『才能がない』なんて言って追い詰めるのではなく、ある程度は許してあげないと。失敗の波って必ずあるから、そうなった時に一段階引いて見守ってあげるだけの気持ちの余裕って、すごく大事だと思います。」

視点その2・時には逆の発想で、怒らないですむ方法を

根津栄子さん
根津栄子さん
「すごく子供の導き方がうまい」(昭義さん)という栄子先生は、園芸が趣味。根津家の庭は、一年中その季節のお花に彩られ、レッスンに来る生徒さんの心も和ませている。「花を育てるのと、子供や生徒を育てるのって本当に似てると思います。悪いところを見つけたらすぐにつまんであげる。それは何千・何万個ってあるかもしれないけれど、ちょっとでも怠ると種ができちゃって花が咲かないんです。かと言って肥料をあげつづけても枯れてしまう。このように手がかかるからこそ、園芸も生徒・子育てもすごく楽しいのだと思います」

「教育に関して『こうあるべき』という型にはまったポリシーは全く持っていませんが、ひとつだけ気をつけていたのは、絶対に怒ったり叱ったりしないということ。怒っても子供の成長が止まってしまうだけなので、逆にどうすれば怒らなくてすむかを常に考えていました。
娘がピアノの練習しなかった時も、『そんなに練習しないのなら、お母さん出ていっちゃおっかな』と荷物をまとめて家を出て行くふりをし、影からずっと様子を見ていたことも。自分が追い出されるよりもプレッシャーがあったみたいですね(笑)。本人がピアノを弾きたそうな時以外は、『練習しよう』とは絶対に言いませんでした。本当はそう言いたい気持ちもあったのですが、それだと言われないとやらない子になってしまうので。普段の練習はタイマーやおはじきなど子供の興味を引く道具をゲーム感覚で取り入れ、いかに『練習したい』と思わせるかという工夫にいつも頭をめぐらせていました。
自分は小さい頃練習を楽しいと思ったことがなかったので、子供にはいつまでも楽しく弾き続けてほしいと思っていました。無理にピアノを続けさせたり、練習させたりは出来ないので、小さいお子さんをお持ちのお母様方にも、是非子育てを楽しみながら成長を見守っていただきたいなと思います。」

視点その3・何も禁止されなかったからこそ、自然と道が開けた

根津理恵子さん
根津理恵子さん
「特に反抗期はなかった」という理恵子さん。ふんわりとした雰囲気が印象的だが、非常に力強くポジティブな一面も。「いつも次にどんな新しいことをやろうかなと考えていました。昔、ピアノを辞めようかと思った時期がありましたが、もしあの時辞めていたとしても、戻ってきた時は3倍ぐらいの力で進めるはず。絶対取り返せていたと思います。人生に手遅れってないと思うので、大人になった今でも、やりたいことが出来たらチャンレジしていきたいです!。」

「両親から何かを禁止されたことって、一度もなかったと思います。留学先を選ぶときも、皆がパリやベルリンに行く中で、『マイペースな勉強を優先したい!』とポーランドを選んだ私に、両親は何も言わず『好きなところに行きなさい』と言ってくれました。ピアノの練習も、練習しなさいって言いたいのに我慢していたのが、子供心にもわかっていましたね(笑)。私はのんびりした性格なので、本当のところ母は心配もしていたようですが、何も言わずに決めるまで見守ってくれて感謝しています。
中学まではバスケや水泳も習っていましたし、勉強に関しては、『授業だけはよく聞いていなさい』としか言われませんでしたね。ピアノも、続けるのを強要されたことはありませんでした。実は一度、大学に入る前に、ピアノを辞めて栄養学を勉強したいと思っていた時期がありました。それで両親に相談したら、『じゃぁとりあえずはあと3ヶ月やってみて、それでもやめたかったらやめなさい』と言われました。でもいざその時期が来てみて辞めていいよ、って言われると、結局は好きだったから、続ける決心をしたんです。今は、趣味の延長のようにピアニストとしてお仕事が出来ることをすごく幸せに感じています。」

Vol.3 INDEX


2007年3月31日発行
教育の未来を考える(1)
今は子どもがどんどん自分でやりたいことを設定していく時代
寺脇研さん
ピアノのある生活(3)
竹馬の友によるデュオ 「団塊の世代の人達に、励みにしてもらいたい」
林智雄さん&古澤洽一さん
<ピアニスト>が育つ家庭の3つの視点
何も禁止されなかったからこそ、自然と道が開けた
根津昭義さん、栄子さん、理恵子さん
ステージが育てる不思議な力(3)
親はどう対応?~3つの心構えとは~
渡部由記子先生
調査レポート(1)
どうすればピアノを続けられる?
~中高生の「継続」と「両立」に必要な5つのキーワード~
ステージえとせとら(2)
ピティナ40周年記念コンサート ほか

ピティナ編集部
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