アンサンブル力を鍛える

第09回 南部 やすかさん(フルート)

2009/10/27
南部やすかさん 第9回 南部やすかさん「アンサンブルでもソリストとしてアプローチするのがお互い楽しいと思います」

楽器について

─ フルートという楽器について教えてください。

音域が高く、柔らかくて鳥のようなイメージというのが一般的な考え方だと思います。実際演奏するにあたっては、強い表情や深い低音など色々な表情が出せる楽器です。オーケストラの中ではメロディを吹くことが多いです。指も速く動くので、速いパッセージも結構こなせます。素材としては、金と銀と木管があり、銀が一番一般的で、明るくていわゆる「フルート」という音が出ます。金はもうちょっと丸く、柔らかく甘い音で、かつ音量が出ます。木管は少し木のぬくもりのある、かすれたような音が出ます。音域は結構高くて、ピアノでいうと真ん中のドから3オクターブと半ほど出ます。高くなるほど音量が大きく強い音が出るので、合わせる時は高い音は出していいけれども、低い音は周りの方に調整して頂くことになります。

第9回
─ ピアニストが知っておいたほうが良いフルートの特徴はありますか?

まずはブレスですね。どうしても必要になるので、一緒に感じて頂くのが一番嬉しいですね。ただ待つのではなく、一緒にブレスをして頂くと一緒に入れるので。人によっての特徴が違うと思うので、ブレスも含めてその人の音楽性を感じてもらえたら良いなと思います。私も一緒にブレスを感じて頂く人と、ただタイミングを見計らって一緒に入る人では感じ方が違います。音楽を一緒に作っていく上でも、流れの中で一緒に感じていただけたら嬉しいです。
あとは音量。構造的に下の音が出にくい楽器なんです。もちろん下を大きくできますし、上も小さく吹けるけれども、一般論としてはすごく難しいし、限界もあります。同じ強弱の記号があっても、高い音の時と低い音の時とバランスが変わってくるわけです。あとは、タンギング(短い音)を吹くときは、音量が少し小さくなるというのもあります。

アンサンブルについて

─ どんなタイプのピアニストが演奏し易いですか?

二通りに分かれると思っています。一つは本当に「伴奏者」を好む人で、自分が常に一段階優位に立つリードする感じのソリスト。もう一つは一緒に同等にやっていきたいタイプですね。そういったソリストの気持ちを分かって頂けると嬉しいです。私はどちらかというと後者のタイプなので、音量も出してほしいしソリストとして演奏して頂きたいし、どれだけぶつけてお互い高めあっていけるかということを求めています。フルートのパートは見なくても良いくらい、自分のパートをしっかり準備してほしいです。「伴奏」だけの曲を自分だけで練習するのはつまらないかもしれないけれど、それがピアノの土台となって、私は自分の技術がフルートの土台となるので、それがしっかりしていないと、その上に行けない。「ここは曲のクライマックスだ」とか、私と違ってもいいから、まず自分の考えを持ってほしいです。その上で何か作り上げていきたいなと感じます。1+1が3にも5にもなれるのが理想的ですね。

─ ソロとアンサンブルの違いはどういったところにありますか?

フルートの場合はメロディしか吹けないので、一人でやるとなるとメロディを弾きながら聴く方にはベースラインも和音も想像させて、というようなことをしなければいけないので、テクニックとしては難しいです。私が100%出したところで100しか出ないけれども、他の人がいたら200、300とどんどん増えていく、そこがアンサンブルの醍醐味でしょうか。逆にピアノの方って他の楽器と合わせる時は「伴奏しなければ」という意識の方が多いみたいですが、そうではなくて、普通にソリストとしてアプローチするのがお互い楽しいのではないかと思います。100の力があるのに、伴奏だから50しか出さないのはもったいないじゃないですか!(笑)

経歴について

第9回
─ 南部さんはアメリカでお勉強されて、途中で指揮の勉強もされていますよね。

そうなっちゃったんです(笑)。何をやっていくにしても、音楽のことを一番勉強できるのは指揮じゃないかと思ったので・・・。
指揮者になりたいという希望は全くなかったんですが、スコアを勉強するのは大好きです。指揮する上では、その曲に出てくる全ての楽器の特徴と音のキャラクターを勉強します。歴史的背景だとか、ありとあらゆる時代の社会的なことだとかを知らなければならないので、ものすごい勉強になりました。フルートを演奏する際にも、室内楽で他の楽器と合わせるときも、楽器の特徴を一通り勉強しているのでやりやすいですね。今にして思えば、あの時習った知識を今使っていることが多いです。

レパートリーについて

─ フルートのレパートリーの特徴を伺いたいのですが、重要な曲、演奏頻度の高い曲を教えてください。

ピアニストの方が大学でアンサンブルのコースをとって、多分フルートと一番良く習うのはプロコフィエフとプーランクのソナタだと思います。プロコフィエフはフルート版が原曲の、フルート奏者にとっては大変重要な曲なんです!とにかくプロコフィエフを知っていれば、フルートもヴァイオリンも出来るのでピアニストにとっては便利かな。
フルートで多分一番多いのが近代フランスのレパートリーです。フォーレ、プーランクなどのフランスものを好きになっていただくのが良いと思います。バロックでしたらバッハとヘンデルがいくつかフルートのために曲を書いていますが、クラシック時代はモーツァルトくらいであまりレパートリーがないんです。ロマン派も数は少ないですけれども、例えばフランクのアレンジや、ライネッケなど一般の音楽史から見たらちょっとマイナー系の作曲家が多くなるかな。あとは良く演奏される曲としては、ドップラーの「ハンガリー田園幻想曲」などでしょうか。

─ 各国を回られて演奏環境の違いなどありますか?

一番気づいたのが、日本では受ける曲が喜ばれるということです。例えばモンティの「チャールダッシュ」やジュナンの「ヴェニスの謝肉祭による変奏曲」だったり、聴いて分かりやすい曲、すぐ掴める曲ですね。悪いわけではないけれども、他にも色々な表現の曲があるということをもっと知ってもらいたいです。華やかだからそれだけが良いというわけではなくて、色々な表情がもっとあればいいかなぁ。日本人にしか分からない繊細な表現とか、そういうのもあると思うので、うまくミックスしていけたら理想的だと思います。

第9回

ミニコンサートについて

─ ミニコンサートの経験を重ねていらっしゃいますね。

やっぱり自分がこれだけ好きな音楽なので、好きなお菓子を分けるのと同じで、こんなに楽しいんだよっていうのを一緒に楽しみたいと思っています。そういう意味では丸ビル35コンサート(※) のようなコンサートは貴重だと思います。演奏家にとっても楽しく、いろんな方と出会えて、聴いていただけるから。音楽に興味を持ってない人も足を止めてくださるのが嬉しいです。
丸ビル35コンサート=丸の内・丸ビルの35階で行われているトーク付無料のロビーコンサート。

─ トークもとてもお上手ですよね。

鍛えられてます(笑)。最初は相当緊張しました。神戸港から出ている「コンチェルト」という船でのミニコンサートを3年間やったことがあって、20分のステージが1日で6回から8回ほどあるんですが、トークも必要だったので相当鍛えられました。その時思ったのが、そういうのをするのが好きな音楽家と、静かにきちんとしたリサイタルでいい人と分かれているということです。個人的に言えば、どこでやっても音楽は楽しいですし、聴いている人も楽しければそれが一番じゃないかと。

第9回
─ お客さんと会話やコミュニケーションをすることの楽しさはどんなところでしょうか?

自分で曲を選んで、ある思い入れがあって演奏しているので、それを分かっていただきたいですね。コンサートでは1対1で話ができないので、マイクを持つしかないんです。何でこの曲を選んだのか、どういう思いで演奏するのかとか、どうしてもわかってもらいたいことがある。私が観客だったらやっぱり色々知りたいと思いますし。演奏するときも話すときも、相手は限られた人生の一部をわざわざ使って、私のために費やしてくれているので、それに見合うだけの何かを感じてもらいたいですし、私もわざわざ自分の時間を使っているので、自分の伝えたいことを伝えたいです。演奏家なので、演奏を通じてそれを伝えられたらそれが一番嬉しいです。

南部さんにとって、アンサンブルとは?

出会いと楽しさ。自分ひとりでは絶対できないことで、音楽の気持ちを通じ合える人との出会いと、自分が一番好きな、一番楽しいと思っていることを分かち合える、そういう機会ですね。


南部やすか
南部やすか(フルート)
アメリカとドイツでフルートと指揮法を学ぶ。日本フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団と共演。NHKテレビ「ぐるっと関西プラス」、NHK-FM「名曲リサイタル」、Junko Koshinoファッションショー出演など活動は幅広い。第13回びわ湖国際フルートコンクール第2位入賞。平成21年度神戸市文化奨励賞、平成20年度坂井時忠音楽賞、平成19年度大阪文化祭賞奨励賞、神戸新人音楽賞最優秀賞受賞。
ラジオ関西「街とくらしとミュージック」(毎週日曜日 8:15~8:45) パーソナリティ。
http://www.yasuka-nambu.com/index.html

ピティナ編集部
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