アンサンブル力を鍛える

第08回 新倉 瞳さん(チェロ)

2009/07/15
新倉瞳さん 第8回 新倉瞳さん「自分の楽器と同じくらい他の楽器も好きになれれば、音楽がより楽しくなる」
Q.チェロという楽器について教えてください。

チェロは、もともとヴァイオリンを伴奏する楽器として、ヴィオラとともに生まれた楽器ですが、音域の幅も広く、メロディーも伴奏も両方担当できます。ソロにアンサンブルに、魅力を発揮できる楽器だと思います。一方でテクニック的に難しいところもあります。弦も太いし、体力・精神力など色々気を使わないといけない楽器です。室内楽的にはヴァイオリンに比べると音が少ない、また速い音が少ないというのもあるので、アマチュアの方も取り組みやすく、お年を召してから楽器を始められる方も多いと思います。

Q.アンサンブルの際に気をつけていることはありますか。

まずリハーサルに行く前までに、自分の意見を持つようにしています。自分をはっきり持った上で、リハの時にはそれに固執するのではなく、相手をどれだけ受け入れられるかというのも重要になってくると思います。お互いが近寄れないと喧嘩みたいなアンサンブルになってしまうんですよね。もちろん音楽と音楽がぶつかって良いものがうまれるというのもあるかもしれませんが、基本的には自分の意見を持った上で相手を受け入れるように心がけています。

Q.ピアノとアンサンブルをするときの特徴は?
第8回

ピアノが支えて下さる分、通常の自分の役割を任せることになるので、役割が入れ替わったときにチェロが溶け込んでしまうということがあります。ですからチェロの音色や方向性みたいなものを汲み取って演奏して頂けると非常にやりやすいです。あと、音楽の意見が合わないとき、「何でそう思うのかな」というような疑問を持つことも大事だと思います。言わないとダメですし、言える雰囲気を作らなきゃいけない。アンサンブルでは「どっちがエライ」というのはなくて、とにかくバランスが大事だと思っています。

Q.初対面の時から相手の「方向性」というものは分かりますか?

大体1回で分かりますね。もちろんソロの演奏を聴いて魅力的だなと思ったり、アンサンブルを聴いて価値観が合いそうだなと思って、一緒に演奏したいということもあります。最初は警戒もしますが、「自分は自分」というスタンスで行くと、相手から返ってくる・返って来ない、などありますね。音を出してみないと分からないですよね。もちろん合わせをするまでの連絡がスムーズであれば、すごい楽しみになりますし、そういう意味で相手に不安を与えさせるようなことは好きではありません。

Q.ピアニストに知っておいて欲しいことはありますか?

私はチェロ譜を見て演奏しますが、本当はスコアを見て演奏したいんです。だから見落としがちなところをピアニストに指摘して頂けるとありがたいです。ピアノはオーケストラにも代わる楽器だと思うので、ピアニストは指揮者でいて欲しいというのはありますが、できれば二人で指揮者でいたいというのが理想です。曲の最初から最後まで、一緒に景色を見渡せた状態でいたいんです。
気楽に聴けるような小さなコンサートとなると、準備も気楽にという演奏者がいらっしゃるときがあるんですね。簡単な曲ですし。でも手抜きすると伝わってしまうんです。そうなるとテンションが落ちてしまう。だから短い曲でも大曲でも、景色を見渡せた状態で望んで頂けたらな、と思います。そうして初めて音の会話ができるのかもしれません。

第8回
Q.他の楽器から学ぶことはありますか?

たくさんありますね。例えば同じ曲を違う楽器に編曲するというパターンがありますが、この楽器だと簡単に出来ることが他の楽器では難しいというようなことも学べます。自分の楽器と同じくらい他の楽器も好きになれれば、音楽がより楽しくなると思います。

Q.新倉さんにとって「伴奏者」とはどういう存在ですか?

人間です(笑)。伴奏者という言い方は嫌いです。「ピアニスト」だと思います。共演を重ねるほど阿吽の呼吸になって、音を出すだけでしっくり来るようになると思います。それと同じ形が弦楽四重奏。お互いが好きで信頼し合っているからチームとして密度の高い演奏ができるんです。オーケストラになると100名の人間全員が信頼し合うというのは大変だと思います。「嫌い」というような負の気持ちもぶつかってこそのミックスされた音色なのかな、とも思います。人数が少なければ少ないほど信じて、同じ方向を向いていて欲しいですよね。

Q.もし一緒に共演するピアニストにわがままを言えるとしたら?

「わがままでいて下さい」という感じでしょうか(笑)。そうじゃないとつまらないですよね。

Q.チェロの作品で譜読みしておいて損はない曲は?

ベートーヴェンのチェロ・ソナタを何番でも良いから譜読みをされると良いと思います。合わせて弦楽カルテットや交響曲も是非聴いてみていただきたいです。あとはシューベルトのアルペジオーネ・ソナタですね。単純な伴奏に聞こえますが、弾き方一つでものすごく雰囲気が変わってしまうので、シューベルトの歌曲などと合わせて勉強されると良いのではないでしょうか。

第8回
Q.ピアノがお好きだそうですが、どういう部分が好きなんですか?

和音が出せるところですね。ジーンとくる和音を一人で出せるわけじゃないですか。私はピアノは下手ですが、チェロで和音を出せない分、ピアノで和音を出すときだけは音色にこだわって弾きます。そうすると、チェロと向き合うときにより和音を意識できるんです。一緒に弾くときも、和音にこだわって弾いていただけると嬉しいです。

Q.新倉さんにとってアンサンブルとは?

信頼ですね。信じないと自分の意見を言えないし、信じている人だから意見を受け入れられます。1回目の合わせから信頼関係は築けると思います。音楽家として、人として、周りの意見に流されずに、自分と相手の信頼関係を築いていきたいですね。

新倉瞳
新倉 瞳(チェロ)
8歳よりチェロを始める。ドイツにて、ヤン・ヴィミスリッキー氏に師事。11歳で帰国後、毛利伯郎に師事。2001年桐朋女子高等学校音楽科に入学。室内楽を、原田幸一郎、徳永二男に師事。IMA音楽賞受賞。アスペン音楽祭に奨学生として参加。第9・11・12・13回宮崎国際音楽祭、鎌倉芸術館ゾリステン、プロジェクトQなどに出演。これまでに、飯守泰次郎指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団をはじめ、プロオーケストラ、アマチュアオーケストラと多数コンチェルトを共演。2006年8月、東芝EMI(現「EMIミュージック・ジャパン」)よりアルバム 「鳥の歌」を、また2008年12月にはセカンドアルバム「トロイメライ」をリ リース。各音楽雑誌や新聞、TV等で取り上げられ、好評を得ている。室内楽にも精力的に取り組み様々なアンサンブルで活躍している。今後も各地でリサイタルなどの演奏会が予定されており、期待される若手チェロ奏者の一人として注目を集めている。2008年桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業。皇居桃花楽堂新人演奏会にて御前演奏を行なう。10月チェロ・グランド・コンサートに最年少で出演。現在同大学研究科2年在籍、堤 剛に師事。http://www.emimusic.jp/classic/niikura/

ピティナ編集部
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