ロンドンレポート

ギルドホール音楽院『コネクト』 第4回 ~自分で作ったお話を音楽にすると?

2009/07/14
ギルドホール『コネクト』 日本語English
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第4回 ~自分で作った音楽をお話にすると?「World In Motion」~

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イースター休暇に行われたもう1つのワークショップ、『ワールド・イン・モーション(World In Motion)』。リーダーも参加者もがらりと変わったこちらでは、どんなメンバーでどんな音楽づくりが展開されるのだろうか?


- - アクティビティ情報 - -
■名称:World In Motion
■日時:2/16-20(Latin),4/14-16(UK sounds),5/25-29(African beats)
■リーダー:Detta Danford(フルート), Natasha Zielazinski(チェロ), Maxwell Golden(ゲスト)
■対象:8-14歳
■参加費:無料
30名の小中学生と詩人のゲストリーダーを迎えて

今回の『World In Motion』のリーダーはデッタとナターシャ。2人とも、昨夏にギルドホール音楽院のリーダーシップコースを修了し、ワークショップの活動を始めている。この春の『World In Motion』では、2月にラテン、4月にイギリス、5月にアフリカの音楽をテーマにアクティビティを行う。それぞれの回に2人の他にゲストリーダーを迎え、今回は詩人・ミュージシャン・ワークショップリーダーとして活躍するマックスウェルが2人とともにリードにあたった。

『World In Motion』に参加した子たちは『Urban Sounds』よりも少し年齢が若く、日本でいう小・中学生が対象。ヴァイオリン5、フルート4、チェロ4、ヴィオラ1、ドラム2、クラシックギター2、クラリネット4、サックス2、パーカッション1、ピアノ3、ヴォーカル3という、約30名の子どもと3人の学生が集う、大アンサンブルとなった。この年齢の子どもたちは1人1人のエネルギーが大きく、また1歳ごとの身体や精神年齢の違い、個々の音楽経験や能力の違いも大きい。このような年齢の大人数の子どもたちを相手に、どのように全体をまとめ、一つの音楽を作り上げるのだろうか。

音楽の要素を取り込んだウォーミングアップ

初日の午前中は、たっぷり時間を使ってウォーミングアップ。マックスウェルが中心となって、まだ人見知りをして大人しい子どもたちの心と身体をほぐす。全員で輪になって、1人ずつ自分の名前に振りをつけて自己紹介、それを全員がまねする。また、ペアになって交互に1、2、3、1、2、3とカウントし、途中で「2」の部分だけ自分で好きな言葉と振り付けに変えて続ける。次は相手が「3」を考え、最後には「1、2、3」が全く別の言葉とアクションになって2人の間を3拍子で交互に駆け巡る。簡単な自己紹介やカウントのゲームにも、ちょっとした工夫で他の子と違うオリジナリティのある表現を即座に考えて披露し、他人のアイディアを注意深く見聞きし、その音とリズムと動きを再現する、という音楽的な要素が組み込まれている。


少人数や全員での短いアクティビティは次第に大規模になっていく。「プロデューサー・サンプラー」と名付けたアクティビティでは、まずプロデューサー=作曲家が短いフレーズを作り、サンプラーへ伝える。サンプラーが覚えたフレーズを声に出して歌い続ける間、プロデューサーは今度はサンプラーとして、次のプロデューサーの新しいフレーズを覚えて、前のフレーズに重ねて歌いだす。すると、メロディにベースのリズムがついたり、別のメロディが掛け合ったりと、その場だけのアンサンブル音楽が出来上がる。最後には30人が30通りの音楽を重ねて歌う大合唱ができあがった。

ゲストリーダー:
マックスウェル

「色々なアクティビティを通して、一緒に何かを作り上げる時には、お互いがサポートし合って初めていいものができるということを感じて欲しいんだ。」とマックスウェルは言う。「今は自分の番じゃないからとおしゃべりするのではなくて、今メインとなっている子にちゃんと注意を向けて雰囲気を作ることや、アンサンブルの音楽は色々な要素がサポートし合って初めてそのサウンドが出来ていることなどを自然と感じてくれれば。」実際子どもたちは、自分の前に出来てきたアンサンブルの音色を注意深く聴きながら、自分が関わるイメージを描きながら音楽の中に飛び込んで行くようだった。

みんなで作ったお話を音楽にすると...?

お昼休みに外で元気に遊んだ後は、輪になって座って、全員でお話を作る。1人が「あるところに池がありました。」などと短いお話の切れ端を話し、次の人がそれを気に入ったら「Yes! and...」と次のお話を考えて続ける。気に入らなくて「No」と言われたら、別のアイディアを提案。全く個性の違う子どもが少しずつ話をくっつけていくので、話は思いもかけない方向へ行ったり、子どもたちは次の展開に興味津々。最後には、「男の子が精神病院へ行き、出たところでパーティに参加し、ウサギを追いかけて池に落ちると、池の底の洞窟で人魚に出会って恋をするが、実はその人魚は邪悪で、いい人魚に助けられ脱出してハッピーエンド」というものになった。


そのお話をいくつかのシーンに分け、グループに分かれて担当するシーンのお話を表す音楽を作ることに。洞窟から脱出するシーンを担当したグループでは、弦楽器の子が「だんだんよじ登っていくけれど失敗して落ちてまたトライするのを、指をすべらせて上がったり下がったりするのはどう?」と提案すると、それにあわせてピアノの子が高音から低音へ音をジャンプさせたりと色々と実験。別のグループでは、「身動きが取れなくなった時の不安なメロディに、ドキドキした鼓動みたいな音を少しずつ早くしてつけてみるのは?」「それいいね!この音でどう?」とアイディアを出し合っている。

急に与えられた話ではなく、自分たちがお話を作りながら描いてきたイメージだから、お話を作る過程で「次はどうなるんだろう?」というドキドキ感、「今どんな様子かな?」というイメージ、「こう来たか!」という驚き、などの感情を既にそれぞれが持ち、共有している。従って、誰もがそれをどう音楽にしていくかについて、対等にアイディアが出し合えるのである。イメージをクリアーに持っている証拠に、出来上がってきた音楽は、単なるメロディやリズムの組み合わせではなく、それぞれに「緊張」や「興奮」「ほっとした気持ち」「愛情」などが、生き生きと表現されたものとなっていた。

自信と満足感に溢れて拍手を受ける

リーダー:ナターシャ

2日目には、それぞれのパートの音楽がつなぎあわされ、人魚とのラブソングも作られた。いよいよ最終日、これまでに作った音楽や歌詞を復習し、全体のステージプランも作られ、その日の最後に家族に披露するため練習に励む。オープニングは、からっぽのステージへ外から子どもたちが「毎日同じ...」と歌いながら入って来てステージ上をさまよう、精神病院の演出。ばらばらと全員が持ち位置に着くと、急にパーティの賑やかに音楽へと転換。それぞれのグループが作った音楽が全体の音楽になり、時にソロが入り、最後には全員が歌いながら前に出てきて、約20分ほどの大作が出来上がった。家族の前で晴々と笑顔で拍手を受ける子どもたちの顔は、満足感と自信に満ち溢れていた。

「子どもたちが、私たちが言わないでも自然とお互いに助け合っていたのが印象的。」とナターシャ。「年齢の上下など関係なくて、昨日いなかった子に年下の子が教えてあげていたり、本番で歌のソロの歌詞が予定したいた拍より余計にかかってしまった時も、誰もそのまま始めようとしなくて、全員がその子に注目して、終わるのを待って音楽を続けたのにはびっくりしたわ。」

リーダー:デッタ
「こうしたお話をベースに音楽を作っていく方法は今回が初めてで、私たちにとっても刺激的な経験。」とデッタ。「音楽と歌詞を作るという方法はやっていたけれど、皆で1つのお話のコンセプトを共有して音楽を作るというのには、まだ違った効果があったと思う。」マックスウェルも

3人のリーダーたち
「自分はこのセクションの音楽をやる、というエゴだけじゃなくて、全体の中の一部となってそのイメージや感情をどう描写しよう、という欲求が大きかったね。」と付け加える。「演劇やヒップホップや詩など色々なジャンルのワークショップをやってきたけれど、表現する手段や出来てくる作品が音楽というだけで、ベースや精神は共通する所が多いし、コラボレーションで生まれるものも大きい。これからももっとコラボレーションが進むといいね。」
素材を生かす力、殻を破る力、それが創造力
東瑛子さん
(リーダーシップコース在籍)

このプログラムには、日本の神戸女学院からの留学生、東瑛子(あずまえいこ)さんもヴァイオリンで参加していた。グレゴリー先生が来日された際のワークショップに感銘を受けて渡英、昨年秋からリーダーシップコースに在籍している。「参加したワークショップで、今子どもたちが感じているように、'自分のアイディアが音楽になっちゃった!'という嬉しい衝撃を自分自身が感じたんですね。その思いが一番のきっかけだったと思います。」と東さん。

留学してからの授業はほとんどが実践的なもの。「クラシックしかやってこなかった人間にとって、ある音楽のマテリアルを'種'に、あらゆるスタイルの音楽言語や即興を通して成長させ、今までに聴いたこともないような音楽を出現させる、その展開の自由さがセンセーショナルでした。こんなやり方もあったんだ、と。」いくつも実践を重ねるにつれたくさんのことが見えてきた。「まず最初の10分が勝負ですね。子どもが持っているものを出しやすくする雰囲気を作ること。そしてそれぞれの子どもが何をやりたいか、何ができるかをよく見て、子どもが投げてきたものを何でも受け入れ、ちゃんと打ち返してあげることが大事ですね。この子の言っていることをどう音楽の中で生かすか、あの子の言っていることは今ここで使うべきか後で使うべきか、同じ瞬間に色々なことを考えることが必要です。」

「シャイな日本の子どもたちは、全く同じやり方で同じものが出てくるとは限らないけれど、工夫をすることで日本でもできると思います。創造性というのは、ただ音楽が作れるということではなくて、何か一つのことがあったら、そこで終わらずにそれをどう生かして発展させていくかのアイディアを持ち、実践していく力だと思うのです。それがなければ、教科書の内容をインプットしてもそれを生かす術を失ってしまいますよね。そして、自分のできることの限界を作らずにトライする機会にもなると思います。日本の子たちは、自分のできる範囲というものを固く決めてしまいがちです。やってみれば自分のできることはもっと広いかもしれない。その時に、殻を外から破ってもらうのではなく、自分で内側から破る力、強さというのが、創造力だと思います。音楽、アートにはそれを養う力がある。それを伝えるのが私の目標です。」

(次回は総仕上げ、7月1日のバービカンセンターのコンサートをレポート予定。)

(取材・執筆 二子千草)


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