ピアノ連弾 2台ピアノの世界

第08回 タイユフェール≪コラール変奏曲≫世界初演

2009/11/10

私たちは、2006年3月のコンサート≪エレガンス・パリ≫で、タイユフェール≪コラール変奏曲≫(Choral et variations, 1979)の世界初演を行いました。今回は、タイユフェールの音楽の魅力をご紹介致します。ジェルメーヌ・タイユフェール(Germaine Tailleferre, 1892-1983)は、1920年代に世界を席巻した≪フランス六人組≫の女性メンバーとして広く知られています。タイユフェールの才能をいち早く見いだしたのがエリック・サティであったことや、彼女を≪耳のマリー・ローランサン≫と評したジャン・コクトーの言葉も有名です。タイユフェールの音楽を≪誠実な音楽≫と評価したのはストラヴィンスキーでした。タイユフェールは、各界の錚々たる著名人と広く交友を持ったいっぽう、私生活では、家庭不和や経済苦の悩みの絶えない、波風の多い人生を歩んだ人でもありました。一人の女性作曲家のたどった稀有の軌跡は、その卓越した音楽性ともあいまって、現代の多くの研究者が関心を寄せるところとなっています。

2001年に現在の形で活動を開始する以前から、私たちはタイユフェールの音楽に長く愛着を寄せてきました。特に、初心者用の美しい4手連弾曲≪初めてのお手柄≫≪気まぐれな組曲≫は多くの友人、知人と折にふれ演奏する機会を持ってきました。それだけに、2004年7月のコンサート≪フランス音楽アラカルト≫で、ようやくタイユフェール≪小舟が一艘ありました≫(オペラが原曲、作曲者自身により2台ピアノ用の組曲に編曲されたもの)を取り上げることができたときには、長年慣れ親しんできた念願の作曲家の2台ピアノ作品をレパートリーに加えることができたことで、安堵の気持を覚えたものです。

ところで、1990年代以降、タイユフェールのお膝元フランスでは、彼女の音楽の再評価が着々と進んでいました。特に、新興の音楽出版社 Musik Fabrik社が、並み居る大手の老舗出版社を尻目に、タイユフェールの未出版作品を次々に積極的に出版していく快進撃ぶりは誠に目覚ましいもので、同社の発信する記事や新刊情報には、私たちとしてもおさおさ注視を怠ることのないよう心がけてきました。タイユフェールの幻の2台のピアノ作品と言われてきた≪コラール変奏曲≫の出版譜を私たちがついに手にしたのは、2005年の秋のことでした。この作品の放つ独特の輝きを確信した私たちは、2006年3月のコンサートの掉尾を飾る楽曲に据えることを決断し、Musik Fabrik社にその旨を知らせたところ、直ちに同社のPaul Wehage氏から「あなたがたの演奏が、この作品の世界初演になります」と思いもよらない御返事を頂いたのです(初演記録のページ)。自分たちの取り上げる曲がいちいち「日本初演であるかどうか」などということには既に頓着しなくなっていた私たちですが、さすがにこの折のWehage氏からの報せには大いに驚いたものです。氏は、言にたがわず、すみやかに同社ウェブサイトに私たちのコンサート情報を掲載した上、世界初演であることもしっかりと明記して下さいました。コンサート当日は、≪コラール変奏曲≫の簡素さの中に秘められた高潔さ、奥行きの深い美しさに、御来場のお客様ともども接することが出来たように思います。私たちがかねてよりひとしおの愛着を寄せてきたタイユフェールの楽曲、しかも、彼女が87歳という最晩年、明鏡止水というべき境地に到達してつむぎ出し得たこれほど美しい楽曲の世界初演に携わることが出来たこと、その不思議なめぐり合せと晴れがましさは、今でも忘れることは出来ません。

このコンサートの後も、私たちは折にふれタイユフェールの作品をコンサートで取り上げてきました。2006年7月の≪ロマンティック・パリ≫では≪魅惑のパリ≫を、2007年4月の≪現代フランスの音楽≫では≪2台のピアノのためのソナタ≫を、2007年10月の≪ネオクラシック・アンソロジー≫では≪インテルメッツォ≫を、2008年2月の≪モダンバレエによせて≫では≪新しい愛の島≫を、2009年7月の≪フレンチ・ライト・クラシックス≫では≪ファンダンゴ≫を演奏致しました。これらの2台ピアノ作品は、各々に全く異なる曲想を持ち、一人の作曲家が書いたとは思われないほど多彩で豊かな世界が広がっています。

アンリエット・ピュイグ=ロジェ女史とタイユフェールとの深い関わりについても、ここで是非ともご紹介しておかなくてはならないでしょう。・・・「ジェルメーヌ・タイユフェール、ふんわりした白髪の、碧い眼のわが友ジェルメーヌ。恵まれたデビュー、恋愛結婚の後、作曲家として生きるために困難な状況の中で何年もの間まれなる能力を発揮しました。家族の生活を支えるために彼女は91歳で亡くなるまで働かなければなりませんでした」・・・女史はこのように印象的な言葉で述懐され、その音楽性について「彼女の音楽は印象主義の反動であると同時に、同時代の対位法的なドイツ音楽とも対立するものです。彼女の音楽は知的というより自然発生的であり、フレッシュな、若々しい、陽気な音楽です。新古典主義という言葉は彼女の音楽には厳格にすぎます」と的確に評されています。ピュイグ=ロジェ女史は、日本で、ドビュッシーラヴェルメシアンばかりを演奏されていたのではありません。タイユフェールのような作曲家を日本の聴衆に積極的に紹介された意義を、私たちは日本人として今一度よく考えてみたいものです。

私たちの演奏するタイユフェールの楽曲に、海外から好意的な御感想をお寄せ下さる方も少なくなく、世界中に存在するタイユフェールのファンの層の厚さと拡がりをあらためて実感しているところです。私たちは、今後もタイユフェールの作品のご紹介を続けてゆきたいと思っています。タイユフェールのピアノ作品には、ソロ、連弾、2台ピアノのいずれも、初級者や中級者にも取り組みやすいものが多いうえ、レッスン、発表会、コンサートにも適していますから、是非みなさまにも積極的に演奏されることをおすすめ致します。

エレガンス・パリ
(PDF:2.56MB)

動画
TAILLEFERRE "CHORAL ET VARIATIONS" for 2 PIANOS

ホームページ http://www16.ocn.ne.jp/~pccpiano/
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