電子ピアノを考える

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2015/07/24
電子ピアノを考える

最初のピアノ「クリストフォリ」登場から約300年。
「モダン・ピアノ」と呼ばれる楽器が現れてから約150年。
いま、ピアノは最大の転換期を迎えているかもしれません。そこには「電子ピアノ」の存在があります。
グランドピアノやアップライトピアノ(以下「アコースティックピアノ」と呼びます)と「電子ピアノ」は原理的にまったく成り立ちの異なる製品。比べれば多くの違いがありますが、見た目や操作の感じはよく似ています。多様な習いごとがある現代、高価で重量のある「アコースティックピアノ」を習い始めから買おうと決心できる人が、どれだけいるでしょうか。普及とともに発達も著しい「電子ピアノ」、そして「アコースティックピアノ」の将来をどう考えれば良いのか。これは指導者、学習者のみなさんとともに、深く考えたいテーマです。

電子ピアノをめぐる声
斉藤浩子先生
斉藤浩子先生豊洲CANALステーション代表

500人もの生徒を抱える大教室を運営する斎藤先生。生徒さんには個々の事情があります。ピアノを習うのであれば「生ピアノ」は必須と考える斉藤先生ですが「電子ピアノ」しか持つことができない生徒さんの事情も汲み取って対応されています。

まず、クラシックのピアノを弾こうという目的があるなら、アコースティックのピアノを持つことが必要だと考えています。お子さんたちはレッスン室で30分も弾けば、美しい音が出せるようなるものです。でも家(電子ピアノ)で弾いてしまうと、手首や腕を使っても音が変化しないので、次のレッスンまでに元に戻ってしまいます。音大のピアノ科を卒業した方でも、電子ピアノしか触れない期間が長いと演奏力が落ちてしまうというケースをいくつか知っています。電子ピアノがピアノの練習に使うとすれば、いわゆる「譜読み」までに留めた方がでしょう。その先の響きを作っていく段階には、やはり対応できません。お子さんが最初に触れる楽器は特に重要ですから、できることなら最初から、アコースティックのピアノで練習していただきたいです。
とはいえ様々な事情により電子ピアノしか持つことができないということもあるでしょう。既に述べたようにクラシックならではの表現を目指すならアコースティックピアノでの練習は必須ですが、電子ピアノしかもっていない子供たちに、レッスンができないわけではありません。腕の使い方など、体を動かす際のメカニズムを丁寧に説明してあげることで、アコースティックピアノに対応する技術を身につけさせることは可能です。
また鍵盤に親しむだけでも、様々な楽器や音楽に対応できるようになります。「ソナチネ」あたりを目標として譜読みできる力を身に着けておけば、広く音楽を楽しむことができるようになるでしょう。ピアノならではの表現よりも音楽知識を身に着けることを重視する内容に変えていく、という選択肢もあるのです。

佐々木邦雄先生
佐々木邦雄先生メディア委員会副委員長、船橋KSMステーション代表

ピアノ・レッスンと並んでソルフェージュのレッスンを重視している佐々木先生の教室では、電子ピアノを最大限活用していると言ってもよいでしょう。長年の経験に基づくお話を伺いました。

ソルフェージュ等のグループレッスンでは講師を含めて最大13人という大人数でレッスンを展開することがあります。そのレッスン時間内に各個人で練習することができますし、皆が参加するアンサンブルに使うこともできます。いずれの場合も電子ピアノを使うのが便利です。グランドピアノとアップライトのサイレントアンサンブルピアノも含め、一部屋(16畳)に計13台の楽器を並べています。
電子ピアノの弱点としては、耐久性が低く、我々のように頻繁に使うと、数年で色々な箇所が壊れてくることですね。一方で、調律いらずの便利な点もありますね。
電子楽器はその使い方次第で、有効な活用法がありますから、私はその点に注目して実践しているつもりです。

澤谷夏樹先生音楽評論家

「電子ピアノだからこそ、できることもある」というコメントを下さったのは、「電子ピアノ」からいちばん遠そうにも見える古楽に造詣の深い、音楽評論家の澤谷夏樹先生(ピティナ研究会員)。深く楽しく音楽的な体験を提供してくれる貴重なツールとしての、電子ピアノの一側面を語って頂きました。

電子ピアノでは標準的な12等分平均律から、数々の古典音律へ調律を切り替えることができます。基準音の変更も可能です(※)。ですからドビュッシーを基準音440Hzの平均律で、ショパンを430Hzのヤング律で、バッハを415Hzのキルンベルガー律でといったように、当時使われていた調律法を試すことができます。異なる調律法で同じ曲を弾いてみても面白いかもしれません。 時代様式という考え方も重要ですが、少し肩の力を抜いて、単純に自分好みの調律法を探すというのも楽しそうです。「生」の楽器では非常に手間のかかることを一瞬でかなえてくれるのは、電子ピアノならではと言えるでしょう。音楽好きにとっては心強い味方ですね。

  • 古典調律を設定する機能の有無は電子ピアノのモデルによります。廉価なモデルでは機能がついていないこともあります。メーカー各社のカタログ等をご参照ください。
武田真理先
武田真理先生メディア委員長、東京音楽大学教授

「電子ピアノ」シンポジウムを主宰するメディア委員長の武田真理先生にもお話を伺いました。

先日、電子ピアノメーカーのローランドさんのショールームで、最新機種を見せて頂きました。これまでも電子ピアノに触れる機会は少なからずありましたので、楽器そのものに対して、大きく印象が変化したということはありません。しかし今回はメディア委員の先生方と同行したこともあり、「電子ピアノ」について考えを巡らせる良い機会になりました。
電子ピアノはあくまでピアノの代用品だと思ってきました。タッチや音には依然として生のピアノとは差があると感じますから、場合によってはそのとおりと言えます。

ただ、それで練習するのが良くないかというと、そうとも言い切れません。確かに、電子ピアノだけの練習でピアニストになるのは難しいかもしれません。国際コンクールの上位入賞者でも「アップライトしかもっていない」「ピアノは所有していない」というピアニストがいます。ですからこの先「電子ピアノしかもっていない」人が、ピアニストとして活躍するかもしれません。電子ピアノで人を感動させる演奏も、可能だと思います。「同じ演奏を生ピアノで聴きたかった」と思ってしまうかもしれませんが。また「電子ピアノならでは」の機能もいろいろあります。
生ピアノと電子ピアノは別物として、共存していく道を選びたいものですね。
皆さんで接し方、使い方を考えていきましょう。

11/4(水)シンポジウム

上でご紹介したさまざまな「声」からも明らかになったように「電子ピアノは是か非か」という議論をする時期は終わりました。そこにある「電子ピアノ」をどう考え、どう使えばよいのか。アコースティックピアノの魅力は何で、どのように伝えれば良いのか。白熱した議論が期待されます。今回の特集でインタビューに答えてくださった方々の一部も「プレゼンター」として登場。電子ピアノ時代のレッスン方法にお悩みの指導者にとっても貴重な内容になります。

日時 11月4日(水)10:30~12:30
会場 文化シヤッターBXホールアクセス
料金 ピティナ会員・学生:4,000円、一般:4,500円
概要 冒頭20分程度は電子ピアノを取り巻く環境に関する調査報告から。11時ころからはパネリストからのプレゼンテーションを行い、最後の20分は、会場の皆様との質疑応答の時間を予定しています。
出演者
(予定)
パネリスト:斉藤浩子、今井顕、佐々木邦雄、その他
コーティネーター:飯田有抄
問合せ先 ピティナ本部事務局:ジツカタ 03-3944-1583

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