ホーム コンクール ステップ セミナー コンサート 指導力アップ ピアノ教室紹介 ピアノ曲事典 読み物・連載

【クイズの解説】 拍子記号「C」の起源
掲載日:2012年11月3日

【クイズの解説】

昨日のクイズ「4分の4拍子」を表す「C」の記号の由来は?の答えは、「拍子を円形で表す古い記譜法のなごり」でした。



「古い」というのはいつ頃のことでしょうか。それは14世紀です。 厳密には、この時代にはまだ近代的な拍節の概念がなかったので、「拍子」という言葉を解答として用いるのは不適切なのかもしれません。しかし、現代の私たちが理解している概念から出発したほうが、昔のことも理解しやすいので、まずは「拍子って何?」という方のために中学校で学ぶ音楽の内容をざっとおさらいしておきましょう。もう大丈夫!という方は次の●項目は飛ばしてください。

● 単純拍子と複合拍子
 拍子はリズムを規則正しく秩序づけ、結果としてメロディーや和音の流れにまとまりを与える時間分割法の体系です。ここでは、まず近代の記譜法に基づくもっとも基本的な拍子を解説します。
 基本的な拍子には、大きく分けて単純拍子と複合拍子があります。 

1. 単純拍子
 単純拍子には、一般的に2拍子、3拍子、4拍子が含まれます。単純拍子にはさらに、「偶数拍子」と「奇数拍子」に分類することができます。偶数拍子は行進曲の2拍子やその二倍の4拍子などです。奇数拍子はワルツやメヌエットの3拍子などです。4拍子については、2拍子を二つ合わせた複合拍子とも解釈することができるのかもしれませんが、現在の楽典では一般に単純拍子と理解されています。


図1 単純拍子

2. 複合拍子
 これに対し、複合拍子は、基本的に一小節内の拍数が3の倍数になる拍子です(ただし3拍子を除く)。6/8拍子や9/8拍子などがその典型的な例です。例えば、6/8拍子では、一小節の中に八分音符が6つ入るので、|♪♪♪+♪♪♪| 、数え方は「1、2、3、4、5、6」です。この6拍は、ちょうど真ん中、すなわち「1、2、3」と「4、5、6」で分けられます。ということは、6拍は全体で大きな二つの組に分かれるので、マクロには「2拍子」のように感じることができます。これと同じように、9/8拍子は9拍が3つずつのグループに分けられるので9拍子でありながら「3拍子」のように感じられます。これが複合拍子です。


図2 複合拍子の例

 さて、普段から楽譜を読むことに慣れている方は以上のことは、とうの昔に理解されていることと思います。ここからが多くの人にとっては「未知の領域」です。

● 拍子記号としての 「C」の由来
 クイズで問題になった「C」の記号は、現在4/4拍子を示す記号として用いられます。この由来は、14世紀のフランスにさかのぼります。その昔、13世紀までは異なる音同士を別個に表記し、それぞれの相対的な音の長さ(=音価)を記譜する体系は十分に発達していませんでした。
 当時の記譜体系は聖歌の保存という文脈のなかで、教会において発展しましたが、現代の私たちの記譜法とはかなり異なるものでした。例えば「ネウマ」と呼ばれる中世の記譜では、音程や抑揚を表す種々の曲線的な記号が用いられてました。あるいは12世紀から13世紀中葉にかけては、パリのノートルダム司教座聖堂で「モード・リズム」という体系が培われ、音符の組み合わせによって聖歌の歌詞の韻律に即した特定のリズム・パーターンを表現する高度な試みがなされました。

● 計量記譜法の出現
 現代の私たちの記譜法の知識で比較的理解しやすい記譜体系は、13世紀に遡ります。すなわち、異なる音を異なる音符で表記し、それぞれの相対的な音価が計量的に記譜されるようになったのです。計量記譜法を最初に理論化したとされるのはフランコ・デ・コローニャという人物が1260年頃に著した『計量の技法』という書物です。この理論では、図3のように、二倍ロンガ、ロンガ、ブレヴィス、セミブレヴィスという音符とその分割法が提案されました(フランコ式記譜法)。



図3 フランコ式記譜法の分割法

彼は歌われる音のなかで最小の音価をもつ音符を最小単位とみなし、三分割法に基づいて上位の音価が決定される方法を提示しました。現代の感覚で言えば、3/8拍子や6/8拍子に見られる音符の3分割に似ています。この3分割法は、2分割に対してより完全な分割(完全分割)とみなされましたが、それは三位一体の象徴であったからだと考えられています。ただし、ロンガと二倍ロンガの比は例外的に2です。

● 計量記譜法の発達
音楽史上で「アルス・ノーヴァ」と呼ばれる時代(14世紀前期~後期)になると、計量記譜法体系がさらに複雑化します。神学校だったパリのソルボンヌ大学では、数学者のヨハンネス・ド・ムリスが1322年に『音楽技法の知識』という論文を発表し、不完全とされていたリズムの2分割(不完全分割)を有効化し、更に細かいリズムの分割法を提示しました。図4のように、アルス・ノーヴァの計量記譜体系では、完全分割と不完全分割が二通りの分割法として提示され、ブレヴィスの下位に更に細かい「ミニマ」、「セミミニマ」が置かれました。これらの音符は単独でも用いられますが、しばしば互いに連結された特殊な記号(リガトゥーラ)によって、様々なリズムパターンを表現することができました。


図4 アルス・ノーヴァの音価分割法

3分割と2分割の双方が使用されることによって、音楽の記譜可能性は大きく開かれることとなりました。楽譜上には二分割リズムと三分割リズムが混在するようになったため、これを即座に見分けられるように、二分割の際は音符を赤色で表記するなどの工夫が取られました。

● 近代的な拍子記号のルーツ
 さて、ここでようやく拍子記号の話が登場します。アルス・ノーヴァの時代には、二分割法と三分割法が混在していたわけですから、近代の一貫した「拍子」という考え方はまだ通用しません。しかし、異なる音価の二分割と三分割の組み合わせによって、近代のいくつかの拍子に対応する4通りのパターンが可能になりました。これを説明するために、まずそれぞれの相対音価の分割段階に、特別な名前が与えられていたことを知っておく必要があります。その名前を下記に挙げますので、図4と対応させながら説明をご覧下さい。

1.a 完全マクシモードゥス:マクシマとロンガの完全分割関係のこと
  b 不完全マクシモードゥス:マクシマとロンガの不完全分割関係のこと

2.a 完全モードゥス:ロンガとブレヴィスの完全分割関係
  b 不完全モードゥス:ロンガとブレヴィスの不完全分割関係

3.a 完全テンプス:ブレヴィスとセミブレヴィスの完全分割関係
  b 不完全テンプス:ブレヴィスとセミブレヴィスの不完全分割関係

4.a 大プロラツィオ:セミブレヴィスとミニマの完全分割関係
  b 小プロラツィオ:セミブレヴィスとミニマの完全分割関係

 さあ、だんだん話がややこしくなってきましたが、あと一息です。このうち、いまは最後の3と4、すなわちテンプスとプロラツィオだけに注目してください。完全/不完全テンプスと大/小プロラツィオという4つの関係を互いに組み合わせると、面白いことに、現代の拍子にも対応する4つの拍子が導き出されます。図5と対応させながら説明をご覧ください。


図5 4つの相対音価の分割段階とそれらの関係

1.完全テンプス+大プロラツィオ
 この組み合わせは、次のことを意味します。
 一つのブレヴィスが、3つのセミブレヴィス(完全分割されたブレヴィス)で構成され、そのセミブレヴィスが更に完全分割されたミニマによって構成される。分かりにくければ現代の記譜法に即して考えましょう。一つのブレヴィスは「一小節分の音価」と理解してください。これが3つの音符に分割されるのですから、一小節の中に付点四分音符が3つある、と想像してください。さらに同じ小節内で、付点四分音符が3つに分割されるのですから、これら3つの付点四分音符は9つの八分音符に分かれます。
 さあ、どうでしょう。一小節の中に、3つで1組になった八分音符が3組、計9つの八分音符があることになります。そのような拍子を、現代ではなんと呼びますか?そう、複合拍子の9/8拍子ですね。この組み合わせは、アルス・ノーヴァの時代には○の中心に点を一つ付けた記号で表されました(図5)。

2.完全テンプスと小プロラツィオ
 これも、上と同じような手順で考えてください。一つのブレヴィスが3つのセミブレヴィスで構成される。この後がちょっとちがいます。今度は不完全分割(2分割)の小プロラツィオですか、セミブレヴィスはそれぞれ二つのミニマに分割されます。これを現在の記譜法に即して理解するなら、一小節(=ブレヴィス)の中に3つの四分音符があり、それぞれが2分割されるのですから、最小音価の音符となる6つの八分音符で構成されます。一小節に2分割される4分音符が3つある拍子、これはそう、3/4拍子ですね。これは、○の記号で表されます。

3.不完全テンプスと大プロラツィオ:ここまでくればもう詳細な説明は不要でしょう。2分割の不完全テンプスと三分割の大プロラツィオを組み合わせれば、6/8拍子に相当するパターンができます。こちらは○の中心に点を打つ「1」の記号をちょうど半分に割った形で表現されます。

4.不完全テンプスと小プロラツイオ:そして最後に、すべて2分割に基づく組み合わせは、2/4拍子で、「2」の○のかたちを半分に割った左側、ちょうど「C」のような形で表現されます。

● 拍子記号の「C」は不完全テンプスと小プロラツイオの関係を表す半円だった
 ここで登場した4つの記号は図5に示されている通りですが、このうち○は3拍子の記号としてバロック時代まで使用されていました。バッハもこの記号を用いています。一方で4はいつしか4拍子(不完全分割系の拍子であることには変わりありません)に用いられるようになり、それがアルファベットの「C」のような文字として今なお使用されているということです。

● 筆者所感
 私たちは普段楽譜に接しながら、2分割を基本に考える傾向がありますが、もともとは三分割することのほうが重要だったというのは面白いですね。よく、日本人は農耕民族だから偶数表紙が多くて、ヨーロッパ人は狩猟民族だから(?)三拍子も使うことができたのだ、などと耳にすることがありますが、もともと西洋音楽の記譜体系は「3分割」を重視していたのですから、わざわざ古の生活様式の違いに遡らなくても、3拍子系の音楽がヨーロッパで発達したのは当然のことです。さらに余談になりますが、時間のある方はこの記事の知識を踏まえた上でWikipediaの「拍子」という項目の「複合拍子」の欄をご覧下さい。次の引用は2012年11月3日現在の記述です。

「西洋音楽の楽譜における音符は2等分系で作られているため、拍を3等分するリズムは3連符を使って記すことになり、表現が煩雑になりがちであるため、拍を3等分するリズムによる曲では1拍の音価を3等分しやすい音符で表すことが考案され、付点音符を付与されるようになった。」

 これは八分音符を一拍の単位とする6/8や9/8がどのようにして生まれたか、ということ書いていますが、本当にそうなのでしょうか?3等分系を基礎として発展した西洋音楽の記譜体系では、むしろ3等分系の記譜は初期の近代的な記譜においても存在していたのではないでしょうか。私は記譜法の歴史の専門家ではないので、ここでは疑義を述べておくにとどめますが、歴史を学ぶと俗説に対する「?」が沢山出てきます。学びをとおして「正しさ」を深く、誠実に追求し、お互いに議論を重ねながら新しい地平を拓く、これが学びの醍醐味ですね。(上田)
執筆者:上田 泰史 
 次の記事へ
「音楽史」と、どう向き合う?
掲載日:
 前の記事へ
【クイズの答え】 2012/11/2
掲載日: