ホーム コンクール ステップ セミナー コンサート 指導力アップ ピアノ教室紹介 ピアノ曲事典 読み物・連載

19世紀フランスの音楽雑誌とピアノの楽曲解説~第1回
掲載日:2013年9月5日

 みなさんはピアノの曲を勉強するときに、ピティナの『ピアノ曲事典』にあるような楽曲解説を参考になさっていることと思います。このような楽曲解説は、いつの頃から書かれるようになったものなのでしょうか。昔のピアノの学習者は、どのような楽曲解説を読んで勉強していたのでしょうか。ここでは、楽曲解説の歴史を紐解いてみたいと思います。

*   *   *

 図は、19世紀のフランスで刊行された音楽雑誌『ピアニスト』の1頁です。この雑誌は1833年、ちょうどリストやショパンなどが活躍していた時代に、パリで創刊されました。この『ピアニスト』の頁をめくると、ピアノの学習者に向けて書かれた数多くの楽曲解説が、誌面を飾っています。フランスの音楽雑誌のなかで、この
ようにピアノ作品の解説が重要なコンテンツになっていた雑誌は、それ以前には見られないものでした。

図:19世紀のフランスで創刊された音楽雑誌『ピアニスト』。図は創刊準備号からの1頁。雑誌の内容や編集方針についての説明が記されている。



 編集者は、なぜこのような雑誌を作ったのでしょうか。図はこの雑誌の創刊準備号ですが、編集者はここで、雑誌の内容や編集方針についての説明を行っています。ピアノの楽曲解説を掲載することについては、次のように書かれています。

『ピアニスト』誌は、ピアノの愛好家に難しい研究――それはしばしば実りのないもの、不完全なものに終わってしまう――を免除して、正当性があり明快である[作品の]評価を示すつもりです。音楽の学問を全く知らない愛好家や、少ししか知らない愛好家は、そのような評価を必要としているのです。


つまり編集者は、初歩的な学習段階にあるピアノの愛好家には、独力で作品を理解するための手助けとなる楽曲解説が必要であろうと、考えたのです。さらにこの創刊準備号には、次のような説明もあります。

[楽曲解説の]このような利点は、地方に住む愛好家や教師にとって、とりわけ大きな価値を持つものとなることでしょう。彼ら・彼女らは、首都で日々生み出される作品の長所や欠点についての情報を全く持っていません。そのため、不適切な作品を購入し、興味を持つに値する作品の購入を諦めてしまうという、二重の不便にさらされているのです。


編集者は、作品を選ぶための情報が不足しているという地方在住の人々の悩みを、感じ取っていたのです。そして楽曲解説が、そのような問題の解決に大いに役立つだろうと考えたのでした。
 この時代のフランスでは、新興のブルジョワ層でピアノを嗜む人が増加し、ピアノの出版譜が次から次へと大量に出回るようになっていました。1840年代には、パリ市の約30万世帯のうち5軒に1軒の割合でピアノが置かれていたと言われています。ピアノの楽曲解説が書かれるようになった背景には、ピアノの学習者の増加、そして、学習者のあいだで出版譜の情報に対するニーズの高まりがあったのです。
*   *   *
 次回は、この時代に書かれた楽曲解説がどのようなものであったのか、いくつかの例を実際に見ていくことにしましょう。
(塚田 花恵・音楽学)
 次の記事へ
【19世紀ピアニスト列伝翻訳シリーズ】 ~ジョン・フィールド 第2回
掲載日:
 前の記事へ
【モーツァルトのソナタを2台ピアノで弾く】
掲載日: