さて,お正月と言えばウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサート。かくいう私も去年までは元日の夕方にウィーンの楽友協会から生中継される映像に心を躍らせていました。せっかくウィーンにいるのだから生で聴いてみたい!とはいえチケットを入手するのは地元ウィーン人にとっても至難の業,どうにか入手できたとしても超高額,とあっては学生の身分としてはおとなしく引き下がるしかありません。さらにテレビのないアパートでは中継を観ることもできず,どうしたものかと案じていましたが,市庁舎前の巨大なモニターで生中継されることを知り,繰り出すことにしました。
市庁舎広場(Rathausplatz)に,深夜,大晦日のカウントダウンイベント時には大量の人でごったがえしていたのにくらべれば少ないですが,それでもモニターの前には多くの人が集まって,ニューイヤーコンサートの中継を楽しみに待っていました。見たところ年越しをウィーンで迎えようと集まった観光客が多い印象でした。私もその人垣に加わって,開演を待ちます。
ニューイヤーコンサートの生中継を観に市庁舎前に集まるひとびと
午前11時15分,生中継がはじまります。元日のウィーンは冷え込みが厳しく,屋外でじっと立ち見しているとダウンジャケットを着ていてもあっという間に身体が冷えてゆきます。まわりのひとびとも身体をゆらしたり震わせたりして,寒さに耐えている様子でした。
休憩をはさみ,コンサートも佳境にさしかかった頃,それは起こります。曲はヨーゼフ・シュトラウスのワルツだったでしょうか,なにやら後ろのほうで歓声が聞こえます。ふとそちらを振り向くと,広場の一角で数名がワルツを踊っているではありませんか。
ワルツを踊るひとびと
もともと舞踏会で踊るための音楽なのですから,かしこまって聴くよりも,体を動かしながらのほうが楽しいに決まっています。寒空の中でじっとしているとただただ冷えてゆくだけですが,ワルツのリズムに合わせて踊れば身体も暖まります。このワルツが終わった時,ウィーンフィルではなく踊っていたひとびとに盛大な拍手が贈られたのはいうまでもありません。
そしてこれ以降,みな自由に身体をゆらしながら,思い思いに残りのプログラムを楽しむようになりました。踊っていない人でもポルカやギャロップのような速い2拍子の曲では身体を上下に動かしてビートを刻み,ワルツでは身体を横に揺らしながら。そして最後の「美しき青きドナウ」になると,今までよりもずっと多くの人がペアを組んでワルツを踊りだしたのです。まさにウィーン市庁舎前広場が舞踏会場になった瞬間でした。
(このシリーズでは,現在ウィーンで資料調査にあたっている中川が,「音楽の都」ウィーンに息づく音楽文化のさまざまな様子を不定期でお伝えします。)