アドバイザーは手で語る vol.9 金子一朗先生

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2009/08/05
 

連載第9回目は、中学・高校の数学科の教師をしながら、2005年ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリに輝き、以後ピアニストとして活躍中の金子一朗先生をお迎えします。金子先生のピアノ人生を変えたのは、39歳のときの左手人差し指の怪我だったとか。「二度とピアノが弾けなくなるかもしれない」という危機感が、再度ピアノに熱中する転機となりました。金子先生のピアノとの向き合い方と演奏へのアプローチ、そしてステップアドバイザーの魅力についてうかがいました。

金子一朗先生 東京都生まれ、早稲田大学理工学部数学科卒。早稲田中・高等学校数学科教諭。2005年ピティナ・ピアノコンペティションソロ部門特級において、グランプリ(金賞)および聴衆賞、ミキモト賞、王子賞、日フィル賞、文部科学大臣賞、読売新聞社賞、審査員基金海外派遣費用補助を受賞。これまでに、東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、NHK交響楽団と共演。国内では、2006年1月、8月にソロリサイタルを開催。同年2月にはイタリアのトリノ、ボローニャの2都市でもソロリサイタルを開催。また2007年8月よりドビュッシーのピアノ作品全曲を取り上げるコンセプトでソロリサイタルを展開しており、それぞれ好評を得る。2008年8月にはデビューCD『ドビュッシー12の練習曲』をリリース。レコード芸術誌にて準特選盤に選出され高く評価される。また当協会ホームページにて『ドビュッシー探求』と題する楽曲分析と演奏の連載を担当。これまでにピアノを角聖子、神野明、北川暁子、K.H.ケンマーリンク、森知英、秋山徹也、田部京子の各氏に師事。音楽理論を故・中村初穂氏に師事。

楽譜を忠実に読むほど、演奏は自由になる

_ 金子先生と言えば、まず徹底的な楽曲分析をしてから、ピアノ演奏に入る、というのは有名なお話です。「通勤中に楽譜を読んでいる」というエピソードも印象的ですね。金子先生が考える音楽のつくり方についてお聞かせください。

「楽曲分析というのは、音楽の根幹となるものを決めて、その方向性を見つけるためのものだと思っています。その間は、ピアノを一切弾きません。例えば、楽譜にクレッシェンドが書いてあってその直後にppの指示あったとします。「何故そのような表現になるのか?あぁ、ここで調性が変わっているからなのだ。」と気づけば、それはただ音量の指示なのではなく、ニュアンスの違いを表現したいのだということがわかります。このように楽譜を正確に読むことができれば、ある程度の演奏に近づくための最も近道になるのではないかと思っています。楽譜のルールを理解し、守るべきところを守り、その作品の本質を理解するほど、表現の自由度は増していくのです。そこから先は私は『情念』で演奏するのだと思っています。この『情念』とは、聴く人の心を動かし、メッセージ性のあるものです。私が大学生の頃は、それこそ「思うがままに」演奏していました。その後は、楽曲分析をしてより理知的に、理論的な演奏を追及するようになったのですが、今は『情念』の部分をより大事に考えるようになりました。簡単に言うと右脳左脳のバランスをとるというのでしょうか。ですから、私の場合は楽曲分析が終わってから、本番までに演奏を熟成させる時間がたくさん必要なんです。」

_ 曲を仕上げるには時間が必要ですよね。数学教師という本業もあってさぞお忙しいと思いますが、どのように時間を捻出されているのでしょうか?

「僕のポリシーとしてひとつあるのは、『どこででもできることは、なるべく劣悪な環境でやる』ということです。例えば、ピアノの練習は「ピアノのある場所」で「ピアノの音を出しても良い時間帯」に弾くしかありません。ですから、ピアノを弾く時間を少しでもとるために、どこでも可能な『楽譜を読む』時間は通勤中に確保したり、学校へはなるべく早朝に出勤し、朝の静かな時間帯に仕事をするようにしています。 私がどのようにピアノに向き合い、どのような練習法を編み出したのかについては、春秋社から出版する本「挑戦するピアニスト 独学の流儀」に書きましたので、お読みいただければ幸いです」

ステップほどおもしろい演奏会はない

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_ 金子先生は、ステップアドバイザーをする中で印象深い演奏などありますか?

「ピアノを習い始めて間もない、幼稚園生くらいの子どもの演奏ですね。まだ何の色づけもされていない、本人が感じるまま表現した演奏です。それは『原始の感性』とでもいうのでしょうか、それはある意味、人をくぎづけにする魅力を持っています。 私たちは教育を受けることによって、形を整えていきますが、この『原始の感性』の魅力は、残念ながら減っていってしまうのですよね。それをいかに保ちながら、成長していくにはどうすればよいのか?それは私たち教師の一番の課題です。それはピアノの練習をしているだけでは身につかないもので、絵画でも建築物でも文学作品でも景色でも、素晴らしいものに触れることで少しずつ増やしていけるのではないかと思います。心を揺さぶられる経験、例えば恋愛したり、失恋したりすること、そういう経験も大事じゃないかなと思います。」

_ ステップについての印象を聞かせてください。

「ステップアドバイザーは、とにかくおもしろいですね。参加者の年齢層や演奏レベルの幅広さ、演奏曲の多種多様さという点で、こんなにも多彩な演奏会はないですからね。様々な地域の演奏を聴かせていただきますが、子どもたちの演奏レベルは、地域差はあまりありません。全国すみずみまで同レベルの教育を受けられるようになってきているのでしょうね。アドバイザーが3名いることもステップの良さのひとつです。他の先生方の書かれたメッセージを読むと、見るポイントは様々だなと実感します。3枚のメッセージ用紙を併せて読むと、結果的に多角的なアドバイスを得られることになると思います。」

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