今月、この曲

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ドビュッシー『亜麻色の髪の乙女』ミュージックトレード社『Musician』2018年8月号 掲載コラム

 この季節にふと譜面をひらきたくなるのが、ドビュッシーの名曲「亜麻色の髪の乙女」。夏の強い日差しが感じられるにもかかわらず、曲のすみずみにまで行き渡る清涼感。穏やかで静かな空間から始まる単旋律のメロディーは聴き馴染みがある以上に素朴で愛らしく、音が生まれたその瞬間からこの曲の空気や風、光や香りが体中に広がります。

 幼い頃は、この曲がとても大人びて感じられました。髪が長くて小さい鼻が品よくつんとしていて、少し肌の透ける涼しげな半袖の白いワンピースを着て遠くを見ている横顔の女の子の記憶と風景...。時はゆっくりと過ぎ、自分と少女の心を重ね合わせる年頃になり、そしてこの曲の存在が少し遠のいた時期を経て、いつのまにかすっかり大人になってしまうと、この曲を神秘的に感じすぎていたり。

 知ろうとすることを素通りしていた無知な私は、愚かにもルコント・ド・リールの詩の存在も知らず、それまでの人生『亜麻色の髪の乙女』を想像し続けていました(それはそれで映画化される前の書物を読んでいる時間のようで楽しかったですが)。ある時、ルコント・ド・リールの"Poemes antiques"を手にし、『亜麻色の髪の乙女~スコットランドの歌』を辞書を片手にフランス語のできない私なりに読んでみました。両手にしっくり収まるサイズでいつも持ち歩きたくなるような、白くてフランスの書物っぽいシンプルなイラストのある表紙の詩集です。

 私は幼い頃から何となくこの少女に心を合わせてきていたように思いますが、亜麻色の髪の乙女に片想いする男性の愛の詩...?でした(汗)。だけど、最近は想像を膨らませていた若い頃を懐かしく思いながら弾いている自分もいたり。ドビュッシーが書いた39小節のこの曲を形を変えながらずっと好きでいることを少し嬉しく思っています。みなさん、是非、改めてこの曲の魅力を感じてみて下さい。

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