今月、この曲

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モーリス・ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」 ミュージックトレード社『Musician』2015年9月号 掲載コラム

 この夏も暑いですね。さて、前回はフランスバロック時代の作曲家ジャン=フィリップ・ラモーの作品をご紹介させていただきました。今回も同じくフランスの作曲家モーリス・ラヴェル(1875?1937)の作品『亡き王女のためのパヴァーヌ』をお薦めしたいと思います。
 私がこの曲と最初に出会ったのは大学生の頃だったと思います。それまで学習してきた作品とは全く違う色彩豊かなハーモニー、個性的で独特の作風。その音楽は言葉では形容しがたい程美しく魅力的で、胸がドキドキしたことを覚えています。数十年経った今もこのドキドキ感は失われていません。
 1871年、普仏戦争終了後のフランスでは、ラモーやグルックなどフランスバロック時代の作曲家たちの作品演奏や楽譜出版など、過去の音楽復興を目指していました。ラヴェルはドビュッシーとともに20世紀前半のフランス音楽に多大な貢献をした作曲家です。この作品はパリ音楽院在学中に書かれたもので、後に自ら管弦楽編曲もされています。
 「パヴァーヌ」とは16世紀ころに流行したイタリア起源のゆったりとした宮廷舞曲で、当時彼が古い伝統的形式に強い関心を持っていたことが分かります。ト長調4拍子のこの曲は、2つのエピソードを挟んだ単純ロンド形式(A-B-A-C-A)の構成から成ります。ゆったりとしたリズムの流れの中に、抒情的でエキゾチックな雰囲気を持った主題が歌われます。五度、七の和音の響きや旋法性などにより独特の世界を作り上げています。
 諸説によれば彼がルーブル美術館を訪れた時に、「マルガリータ王女」の肖像画からインスピレーションを得たと云われています。今は演奏することが難しいと思われる方でも是非この作品の音源を聴き、楽譜を手に取っていただければ近い将来(?)演奏する夢が生まれてくることでしょう。
 さて、この高雅で美しい音楽からあなたはどんなインスピレーションを受けますか?

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