今月、この曲

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山田耕筰作曲・稲森訓敏編曲「赤とんぼ」
ミュージックトレード社『Musician』2015年6月号 掲載コラム

 暦では6月を「水無月」と呼び、梅雨が明けて水の涸れる時期と解釈されます。一方では、田んぼに水を張る時期であるため「水張月」という説もあるそうです。約20年前に、自然に囲まれた千葉県の片田舎に越して以来、季節を肌で感じる生活を楽しんでいます。田んぼに水が張られる風景を見ては、初夏の訪れを感じるようになりました。
 向日葵の群生はこの辺りの夏の風物詩。太陽の光を浴びて黄色に輝く向日葵畑は、それはそれは見事なものです。向日葵の大輪が盛りを終える頃になると、田畑には「赤とんぼ」がすいすい飛び交い、収穫時期の到来を告げるのです。
 このように、四季のはっきりと分かれた風土で育まれた日本の唱歌。日本の歌には季節感を感じさせる作品が多くあります。演奏会の合間やアンコールに日本の曲を演奏すると、お客様にとても喜ばれるのは、世代を超えて共有できる郷愁の想いがあるからでしょうか。
 しかし、だからと言って原曲にシンプルなコード伴奏をつけて演奏しても、そう簡単に関心を抱いてはもらえません。現代人の共感を誘うには、それなりに洒落たアレンジでなければ、食指は動かないというものです。
 弾いても聴いても楽しめる、日本歌曲のジャズ風アレンジ曲集『日本の歌inジャズピアノ』をご紹介します。是非、楽譜をお手にとって弾いてみてください。中でも、山田耕筰の「赤とんぼ」はお勧めです。耳にすれば「うるうる」っとする情感豊かなアレンジが素晴らしいのです。
 余談ですが......、シューマン作曲の「ピアノと管弦楽のための序曲と協奏的アレグロ」op.134では、「赤とんぼ」のメロディが幾度となく繰り返されます。先ず、ピアノソロが「赤とんぼ」を奏で、フルートやオーボエなどの木管がメロディを追います。1886年生まれの山田耕筰が、1853年に作曲されたシューマンの「序曲とアレグロ」を聞き知っていたかどうかは定かではありませんが、面白いので聴いてみてください。

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