今月、この曲

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魂の響きミュージックトレード社『Musician』2015年2月号 掲載コラム
小久保素子 小山ステーション

 今年、2015年はガブリエル・フォーレ生誕170年記念の年です。19世紀フランスサロン文化の香り高い作品を残しているフォーレは、1845年5月に南フランスのパミエに生まれました。パリから1時間のフライトでトゥールーズへ、そこからまた1時間ほど電車に揺られて行くパミエは、フォーレが生まれた頃と今もそれほど変わっていないような穏やかな佇まいの田舎町です。早春には遠くにピレネー山脈の雪が明るい陽ざしに輝いて見え、スペインはすぐそこであることがわかります。フォーレは9歳の時にパリのニデルメイエール古典宗教音楽学校へ入学し、卒業するまでの11年間に作曲、オルガン、ピアノのほか文学、宗教、語学など様々なことを学びました。
 今月紹介する曲はフォーレが学生時代に作った最初のピアノ曲といわれている「3つの無言歌」です。題名にメンデルスゾーンの影響がみられますが、作風にはすでにフォーレの特徴が表れています。1曲目はAs-dur 3拍子。「アール・ヌヴォー」風な長くくねるような旋律とシンコペーションの伴奏で始まり、そこにカノンが加わります。短い中間部はチェロの様に歌って直ぐに最初の旋律へ戻り、次にオクターヴで熱く歌われた後、低くなり次第に優しく終わります。
 2曲目はa-mollでありながら、ヴァイオリンソナタNo1(A-dur)を予感させる作品です。旋律はソプラノ、内声、バスを上下に移動し、その間を16分音符が不安定な響を伴って縫うようにめまぐるしく動きます。青春の魂の不安、あるいは喜びの震えが聴こえるような曲です。
 3曲目は再びAs-dur。連弾「ドリー組曲」の子守歌を思わせる序奏に優しい歌が続きます。陰陽を揺れ動く短い中間部のあとは初めの歌がカノンで内声にも表れます。穏やかに締めくくられる終曲からは、明るい南仏の陽ざしを浴びて静かな中庭に遊ぶ幼き日のフォーレが見えるようです。
 これらは60曲近いフォーレのピアノ曲の世界の入り口として最もふさわしいと思われる曲です。

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