ラヴィーナが世紀前半に出した3つの練習曲集(作品1、3、14)のうちの第3集。1840年代にはいると、練習曲というジャンルは卖に三度やオクターヴといったテクニック上の難しさばかりでなく、歌唱的な旋律のフレージング・繊細な強弱の変化をいかに表現するかという点にウェイトが置かれるようになる。実際、この曲集には多くの強弱記号に加え、イタリア語による楽想用語が入念に書き込まれている。《様式と向上の練習曲》というタイトルは、音楽院の先輩にあたるF. カルクブレンナーが作品143で用いたのがおそらく最初である。このタイトルは、曲集の内容から察するに、バレエ、ロマンス、行進曲といった様々な曲種をそのスタイルに応じて引き分ける能力とそれぞれに様式特有のテクニックを向上させることを意図してつけられたものである。説明の便宜上、ラヴィーナの曲集の各曲のスタイルを表にすれば次のようになる。
| 1 | バレエ | 7 | ファンファーレ、速歩行進曲 |
| 2 | 歌曲(ロマンス) | 8 | 歌曲(ロマンス) |
| 3 | バレエ | 9 | ワルツ |
| 4 | 歌曲(オペラ・アリア) | 10 | カプリス |
| 5 | 歌曲(シャンソネット) | 11 | 歌曲(オペラ・アリア) |
| 6 | 器楽(ピアノ・弦楽器特有の動き) | 10 | 行進曲 |
「バレエ」ではスタッカートの飛び跳ねる動きに特徴があり、「歌曲」では様々な音型で旋律・伴奏型が用いられ、各パートの繊細な弾き分けが要求される。第7曲目はロッシーニ風の序曲で、ラヴィーナが若い頃編曲して親しんだ《ウィリアム・テル》序曲を思わせる。マルモンテルの回想によればロッシーニはこの若きピアニストの才気に感じ、しばしば自作のピアノ小品をラヴィーナに演奏させたという。ラヴィーナは後に「高名なわが友、ジョアキーノ・ロッシーニ」に傑出した《祈り―音楽詩》作品51を捧げている。彼は40年代から50年代初めにかけて、人前で自作の練習曲を弾いた記録が残っているが、おそらくこの曲集からもいくつかが演奏されたことであろう。なお、この練習曲集は先立つ大作《12の演奏会用練習曲》作品1と同様、パリ音楽院の教材に採用された。