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バッハ  :  平均律クラヴィーア曲集 第1巻
Bach, Johann Sebastian  :  Das wohltemperierte Clavier, 1 teil, 24 Praludien und Fugen  BWV 846-BWV 869
ピアノ独奏曲 [piano solo/ 曲集・小品集

作品概要

楽章・曲名 演奏時間
1 第1番 ハ長調  /  BWV846  C-Dur 前奏曲 1分 10秒 フーガ 1分 40秒 譜例
2 第2番 ハ短調  /  BWV847   c-moll 前奏曲 1分 12秒 フーガ 1分 40秒 譜例
3 第3番 嬰ハ長調  /  BWV848   Cis-Dur 前奏曲 1分 21秒 フーガ 2分 30秒 譜例
4 第4番 嬰ハ短調  /  BWV849  cis-moll 前奏曲 2分 40秒 フーガ 4分 20秒 譜例
5 第5番 ニ長調  /  BWV850   D-Dur 前奏曲 1分 10秒 フーガ 1分 50秒 譜例
6 第6番 ニ短調  /  BWV851  d-moll 前奏曲 0分 52秒 フーガ 2分 00秒 譜例
7 第7番 変ホ長調  /  BWV852  Es-Dur 前奏曲 4分 20秒 フーガ 1分 40秒 譜例
8 第8番 変ホ短調  /  BWV853  es-moll 前奏曲 3分 00秒 フーガ 5分 20秒 譜例
9 第9番 ホ長調  /  BWV854   E-Dur 前奏曲 1分 20秒 フーガ 1分 30秒 譜例
10 第10番 ホ短調  /  BWV855   e-moll 前奏曲 2分 20秒 フーガ 1分 40秒 譜例
11 第11番 ヘ長調  /  BWV856   F-Dur 前奏曲 1分 10秒 フーガ 1分 14秒 譜例
12 第12番 ヘ短調  /  BWV857   f-moll 前奏曲 1分 40秒 フーガ 4分 30秒 譜例
13 第13番 嬰ヘ長調  /  BWV858  Fis-Dur 前奏曲 1分 30秒 フーガ 2分 10秒 譜例
14 第14番 嬰ヘ短調  /  BWV859   fis-moll 前奏曲 1分 40秒 フーガ 2分 20秒 譜例
15 第15番 ト長調  /  BWV860   G-Dur 前奏曲 1分 00秒 フーガ 2分 50秒 譜例
16 第16番 ト短調  /  BWV861   g-moll 前奏曲 1分 40秒 フーガ 2分 00秒 譜例
17 第17番 変イ長調  /  BWV862   As-Dur 前奏曲 1分 20秒 フーガ 2分 30秒 譜例
18 第18番 嬰ト短調  /  BWV863   gis-moll 前奏曲 1分 40秒 フーガ 2分 40秒 譜例
19 第19番 イ長調  /  BWV864  A-Dur 前奏曲 1分 30秒 フーガ 2分 40秒 譜例
20 第20番 イ短調  /  BWV865   a-moll 前奏曲 1分 20秒 フーガ 4分 40秒 譜例
21 第21番 変ロ長調  /  BWV866   B-Dur 前奏曲 1分 10秒 フーガ 1分 50秒 譜例
22 第22番 変ロ短調  /  BWV867   b-moll 前奏曲 2分 10秒 フーガ 3分 00秒 譜例
23 第23番 ロ長調  /  BWV868   H-Dur 前奏曲 1分 10秒 フーガ 2分 20秒 譜例
24 第24番 ロ短調  /  BWV869   h-moll 前奏曲 3分 00秒 フーガ 6分 00秒 譜例
59分 59秒
作曲年:1722
出版年:1801
初出版社:Simrock, Hoffmeister & Kühnel, Nägeli

楽曲解説

演奏のヒント 2017年3月  執筆者: 大井 和郎
第2番 ハ短調 BWV847  

プレリュード:
 テクニック的にも音楽的にもわりとやっかいなプレリュードです。このプレリュードのように、分散和音が並んでいる曲の場合、分散和音を分散させずに1つの和音として弾いて見ると構成がよくわかります。例えば1小節目、非和声音はDとし、この小節はC Es G で構成されていると仮定します。2小節目は、C F As、3小節目は、H D F As、4小節目は再びC Es Gです。和音記号で表すと I. IV vIIo7 I. になりますね。そこでこの4小節間のダイナミックを決定することができます。すなわち、4小節目の主和音は、3小節目の減7の解決ですから、弱く弾きます。あとは、2小節目と、3小節目ではどちらがテンションが高いかなどを考えて、この4小節間のダイナミックを決定します。

 後にシークエンスが続き、音は小節毎に2度ずつ下行して行きます。21小節目辺りから徐々に上行して28小節目のprestoに達します。後にはカデンツになります。その下行の仕方ですが、例えば、5小節目のメロディー音であるEsは6小節目に至りDに下行します。7小節目のメロディー音Dは、8小節目に至りCに下行します。このような2小節単位のシークエンスを辿りながら徐々に下行しますが、2小節単位では、後ろの方の小節のメロディー音が前の小節のメロディー音よりも大きくならないように、できることであれば小さくなるようにします。そしてその2小節間の秩序を守りながら、徐々にディミニュエンドをして21小節目に達します。

 その他注意点としては、34小節目のカデンツです。これはピッタリと4分の4拍子で書かれています。余計なリズムは一音としてありません。奏者は、2拍目、4拍目、をしっかり把握して、最初は音価の通りに演奏し、慣れてきたら即興的に、メトロノームのようにはならないように弾くのですが、最初にそこに書かれてあるリズム=音価を理解した上での話ということを忘れないで下さい。

 音楽的な解釈ですが、c-moll(短調)とは言え、決して暗い雰囲気ではなく、むしろ活動的に、楽天的に演奏しても良いと思います。

フーガ:
 このフーガはズバリ初心者に最適なフーガです。シンフォニアを終え、平均律に入る学習者はこのフーガから入ると楽です。

 アーティキュレーションは主に2種類考えられます。冒頭1小節目をご覧下さい。1拍目裏拍の16分2個はレガートで、2拍目の8分音符2つはスタッカートにします。次に3拍目でオプションが分かれます。3拍目に書かれてある、8分音符+16分音符2つのパターンはこれ以降、多く出てきますが、この8分音符をレガートで16分に繋ぐアーティキュレーションと、8分をスタッカートにしてしまうアーティキュレーションがあります。どちらを取っても構いませんが、一度決めたのであれば、終始そのアーティキュレーションを守ると、素材の存在がハッキリします。技術面において、簡単なアーティキュレーションは、8分もスタッカートにしてしまうほうが後々楽になります。

 さて、3声ですのでそれぞれの声部は独立していなければなりません。せっかく3声が異なった声部で書かれてあるのですから、それが秩序を持たずしてごっちゃまぜになるような演奏ではいけません。故にアーティキュレーションはどのような状況においてもしっかり守らなければならないのですが、例えば、8小節目をご覧下さい。1-2拍間、16分音符は左手に出てきますので、これは単純にレガート、そして2拍目をスタッカートで簡単に演奏できますね。ところが、3-4拍間、アルトの声部に16分音符があり、それはレガートに処理したいところなのですが、ソプラノが同時にスタッカートで登場しています。3拍目、ソプラノはスタッカート、アルトは、16分をレガートにしなければなりません。コツとしては、究極にゆっくり部分練習をします。3拍目裏拍のCとFをまず同時に弾き、Fを伸ばしたままでCを短く切るようにします。Fを押さえたまま、Cを短くスタッカートで切る練習をしてみて下さい。

 教師の皆様は、このフーガを典型的なフーガとして指導するにあたり、合唱団に例えると良いかもしれません。仮に、3声の曲が3部合唱であるとして、声部が増えて行くに従って音量も大きくなると仮定すれば(歌う人数が増えるので)、7小節目に至って始めて3つの声部が一緒になる部分では、ダイナミック的に大きくして良いと指導します。故に、1小節目2小節目は、さながらパイプオルガンの高音域のように静かに始まり、3小節目で2声になるので少し音量を上げ、7小節目でフォルテくらいに持って行くようなダイナミックで良いと思います。

 3声が一緒になった後は、9-10小節と2つのシークエンスを経て、11小節目においてEs-durに転調します。Es-durのセクションでは、C-mollよりも柔らかく、軽いカラーで良いと思います。その後、13-14小節と再び2つのシークエンスを経て、15小節目においてG-mollに転調します。各調によって音質を変えるようにするのですが、G-mollは割とテンションの高い、鋭い音で良いと思います。アーティキュレーションは16小節目においても厳格に守ってください。

 20小節目に至った後はC-mollが最後まで続きます。29-31のcodaは左手にオクターブのCがありますね。ここはパイプオルガンで言えば、最も太いパイプが鳴っていると思ってください。
演奏のヒント 2017年3月  執筆者: 大井 和郎
第15番 ト長調 BWV860

プレリュード:
 技術的に困難なプレリュードです。特に手の小さな学習者にとっては非常に弾きづらいプレリュードになると思われます。このプレリュード、テンポは速ければ速いほど良いと思いますが、少なくとも4分音符が85位は欲しいところです。8分音符の連符は全てスタッカートにして、leggieroで、しかし十分なダイナミックの幅の中で演奏したいところです。

 さて、このプレリュードを速く演奏しようと思うと色々な問題が出てきます。例えば5小節目の左手です。最初の16分音符3つのグループ、D Cis Dは、どうしても521という指使いしか考えづらいのですが、DからCisの7度がとても広いので、5から2という指使いは特に手の小さな人にとっては大変困難になります。そこで、このようにリーチの問題で無理があるユニットに関しては、右手で助けてあげるのも1つの方法です。最初のDは左手の5で取り、あとの2つの音を右手で演奏する方法です。次のE Cis D も厳しいですので、この2つのユニットくらいは右手で取っても構いません。まともに弾いたとき、粒ぞろいが崩れる場合は検討してみて下さい。

 このプレリュードの形式はとても単純で、ピークポイントは11小節目になります。ここに向かって進んでいき、そこから衰退していくことを念頭に置きます。

 13小節目以降、左手は忙しくなりますが、必ずしもレガートで弾く必要はありません。むしろディタッチで軽く弾き、一つ一つの音符は鮮明に、しかしleggiero で演奏し、1つの音から次の音へ繋げる必要はまったくありません。

フーガ:
 86小節もある長いフーガです。ピークポイントはいくつかあると思いますが、基本的には曲が後半に入ってからの方が盛り上がりが多くあります。後半に入ってくると例えば55小節目に32分音符が出てきたり、64小節目や69小節目のような長いトリルが出てきたりします。極めつけは79小節目で、全声部が主題を同時に奏でるというとてもテンションの高い部分があったりします。

 シークエンスは3小節間、1小節ずつ3つのシークエンスが登場することが多くあります。ダイナミックコントロールを必ず付けて、3つのシークエンスが平坦にならないようにすることが重要です。

 全体のテンポは、後に出てくる32分音符が無理なく聞こえるテンポで良いと思いますが、例えば、コーダに出てくる多くの32分音符は、この部分だけ少しブローディングして、遅めに、大きく演奏すると良いでしょう。このコーダをインテンポ通りに演奏するととても機械的で不自然に聞こえます。

 それでは冒頭から解説をしてみましょう。冒頭、8分音符はスタッカートのアーティキュレーションで、あまり速すぎなくleggieroでスタートします。2小節目のゴールの音は4分音符のCですので、このCには少しアクセントを与えます。続いて3小節目はゴールの音がEになりますが、2小節目よりも大げさにほんの少しだけ間を取ってたどり着くと良いでしょう。5小節目アルトが出てきます。11小節目、バスが出てきてやっと3声が一緒になります。17,18,19小節と、1小節単位のシークエンスが来ますが、これは下行していますね。故に、16小節目でクレシェンドをかけておき、17にたどり着くようにします。

 20小節目、インヴァージョン(反転)G-durのテーマがアルトに来ます。24小節目、ソプラノにD-durのテーマが来ます。28小節目、バスに再びG-durのテーマが来ます。31小節目から次のテーマが来る38小節目までシークエンスやエピソードが続きます。38小節目のテーマはe-mollで来ますので、奏者の考えに従い、クレシェンドでたどり着く、あるいはディミヌエンドでたどり着くなど、e-mollが自然に入れるようにダイナミックをコントロールします。e-mollのセクションでは、38小節目にソプラノ、43小節目にアルトが出ますが、47小節目はバスが入ってきて、音量的にも大きくなる部分です。次に待っているシークエンスも下行形ですので、47小節目に向かってクレシェンドをかけていきます。

 48-50小節間のシークエンスの後、51小節目にて、h-mollのテーマがソプラノに、52小節目でストレッタになり、バスにテーマが入って来ます。60小節目、アルトにD-durのテーマが入ってきます。この辺りが恐らく、ダイナミック的には最も大きくなる部分と思われますので、テンションをどんどん高めていきます。

 恐らく65-67小節間のシークエンスが最もダイナミック的には大きなシークエンスになると思います。69小節目のテーマを終え、77でG-durのテーマに入りますがここも相当テンションが高いです。そして79小節目、3つの声部が同時に1つのテーマを演奏します、82小節目、少しだけテンポを緩めて、83小節目のコーダに入ります。前述しましたように、このCodaは全体のテンポを緩めたまま終わります。
演奏のヒント 2017年3月  執筆者: 大井 和郎
第13番 嬰ヘ長調 BWV858

プレリュード:
 絶大な美しさを持つプレリュードです。このプレリュードを機械的に演奏するほどもったいないことはありません。たっぷり歌い上げて良いプレリュードであることは間違いありません。このプレリュードは下手をすると縦割りの音楽になってしまいがちです。横に流れる工夫が必要になります。ところが左手の付点8分音符は拍の頭を非情に刻みます。この「4拍子の表拍を刻む付点8分音符」が縦割りに聞こえてしまう原因となるのですが、それだけではありません。右手の声部が伸びている場所に限って左手が拍を刻むように書かれています。そうすると、右手の声部の伸びが聞こえなくなり、よって縦割りに聞こえてしまうのですね。

 このような、左手と右手の音符がが互い違いに出てくる状況の曲で気をつけることは、どちらかの声部の音量をかなり落とすことにあります。例えば2小節目をご覧下さい。右手には(ト音記号には)、3つの8分音符が1-3拍間にあります。各8分音符は次の16分音符まで、鳴らし続けていたいのですが、そのタイミングに左手が入ってきますね。そしてその左手を大きな音で弾けば、右手の声部を消すことになります。

 故に、左手は音量を落とし、奏者、学習者は、右手の8分音符が「伸びていることを確認」しながら、音を耳で聴き続けながら演奏すると良いと思います。

 ここから先は主観的な話になります。各セクション毎の説明に移ります。1小節目に登場する、右手のアルペジオの主題とそれに掛け合う左手の主題は、このプレリュードの中で何カ所か書かれています。最初に一区切りつける場所は4小節目の最初の右手の音であるAisです。この音は前の小節のHが解決した音と見なしますので、消えていくように、pで弾きます。その前は、2小節目で右手がDisに達していて、恐らくここが最も音量が大きなところではないかと思います。あとは、バスが下行してくるようにdiminuendoをかけ、4小節目のAisにたどり着きます。4小節目からは今度は、バスは上行し、少しテンションを上げますが、5小節目に至ってカデンツとなり、6小節目でCis-durに転調します。

 Cis-durに転調したら、少しFis-durとは雰囲気を異ならせてみましょう。Cis-durのほうがよりきらびやかで芯の強いイメージがあるかもしれません。主題の後の下行するバス(7-9小節間)や、後に上行するバス(11小節目)などは先ほどのFis-durの例と同じです。しかし今回は短調に転調しますので雰囲気も異なります。Cのダブルシャープが出てきますね。これがDis-mollの導音となり、12小節目に至ってDis-mollの主題になりますが、すぐに今度はAis-mollに転調します(15小節目)。そしてGis-mollと、以降、めまぐるしく調が変わります。奏者は各調のムードを異ならせ、異なったカラーを与え、いつも自分は山のどのあたりにいるのかを把握してください。

フーガ:
 こんなに楽しいフーガも珍しいはずなのに、何故か暗く弾かれてしまうことが多いフーガです。

 7小節目以降、16分音符の音型を見て下さい。この音型はフーガ全体に延々と続きます。とても落ち着きの無い楽しさとでも言いましょうか、決して元気の無い演奏にならないように注意します。

 テーマは1小節目から始まり、3小節目の最初の音である8分音符のAisまでとします。以降、このテーマの断片が頻繁に登場します。最初の区切りは恐らく11小節目の3拍目の表拍ではないかと思います。20小節目では、テーマはバスでDis-mollに転調します。その他、シークエンスを繰り返し、最後にFis-durのテーマに戻り(31小節目)、終わります。

 この16分の音型に関してですが、12小節目を例にとって説明をします。ここではバスにその音型が登場しますね。2拍目をご覧下さい。音は、Ais Fis Fis Ais ですが、次の拍には、H Fis Fis H 、次の拍にはCis Fis Fis Cis と音程が徐々に広がっていきますね。この場合、ダイナミックは当然音程が広がるほどクレシェンドになって然るべきだと思います。

 そしてアーティキュレーションは、表拍から2つずつ、レガートをかけ、1拍に2つのユニットができるようにします(Ais-Fis, Fis-Ais, H-Fis, FIs-H etc)。
演奏のヒント 2017年3月  執筆者: 大井 和郎
第18番 嬰ト短調 BWV863

プレリュード:
 一見単純なプレリュードに見えますが、層の厚いポリフォニーで書かれており、場所によっては急に4声体になったりします。故にポリフォニー的な注意が必要なプレリュードです。冒頭から見ていきましょう。1小節目、右手の主題はEをゴールとし、そしてEを境に衰退して2小節目のHにたどり着きます。よって、2小節目最初の音であるHにはアクセントは付けてはいけません。ところが、2小節目、ソプラノは高いGisまで上がり、Fisisに降りてきます。このFisisにアクセントは付けません。Gisよりも弱く弾きます。しかしながら左手は、1小節目の右手がそのまま1オクターブ下から始まっているだけに過ぎません。よって2拍目のEは頂点と考えますので、左手は2拍目表拍を大きく、右手は小さくします。その他、2拍目の左手Disは次の小節までタイで伸ばされていますし、2小節目そのものが既に4声体になっています。これらの例のように、各声部が理にかなうように細心の注意を払います。

 1小節目の左手や、3小節目の左手のように、タイで繋がれて次の拍、または次の小節に繋がるパターンは、バスが切れてしまったりしないように注意します。1小節目、3小節目ともに左手は2声ですので、こちらも両声部を大切に扱い、不必要に切ってしまわないようにします。

 5小節目、左手1拍目の8分音符は前の小節からの解決音です。アクセントは付かないように。ここはH-durに転調しましたので、音は柔らかめで良いのではないかと思います。しかしすぐに今度はCis-mollに転調し、9小節目で1つの山場を迎えます、和声も減7の響きですね。ここはテンションを高めます。その後シークエンスを辿りながら下行し、14小節目Dis-mollにたどり着きます。

 ここから徐々にクレシェンドをかけ、このプレリュードの頂点的場所である、18小節目に向かって行きます。

 ところで、プロのピアニストでも見逃してしまう場所があります。15小節目のバスにある2つの付点4分音符です。これが何故か切られてしまう演奏が多くあります。休符を作らず、次の音に繋げるようにします。

 24小節目右手、8分音符の連打音は乱暴になりがちなので(切れてしまうため)、ペダルでスムーズに繋げます。26小節目は2拍目から少しテンポを落とし、十分に時間を取って27小節目に入るようにします。その際、たどり着く右手の音Gisは本来であれば解決音ですので、大きくすることはないのですが、この27小節目のGisは3小節間、フェルマータも含めてタイで伸ばされます。そのために少し大きめにGisを弾く必要があります。

フーガ:
 テーマは1小節目から3小節目最初の音であるDisまでとします。色々な意見もあるかとは思いますが、テーマのアーティキュレーションは基本的にはレガートで演奏し、2小節目、3-4拍間、同じ音のペアが2つ来る部分に関してはスタッカートにします。勿論セミスタッカートでも構いません。しかしながら例えば、4小節目のように右手アルトがスタッカート、左手8分音符2つが音価の通り8分音符分伸びると仮定したとき、左右の手が同じ8分音符でも、片方が短く、もう片方が音価通りに弾いた方が声部は独立して聞こえます。要は2つの異なった素材はできる限り異なったアーティキュレーションで演奏することで声部を独立して聞かせることができます。曲中、1箇所だけこのアーティキュレーションがほぼ不可能な場所があります。18小節目のテノール、3-4拍間の8分音符です。ここは他の声部との兼ね合いからペダルを踏まざるを得ず、結果、スタッカートを失いますが、それで構いません。

 また、テーマを出すのに大変苦労しなければならない部分が1箇所あります。32小節目の2拍目から始まるテノールのテーマです。他の声部が相当入り乱れていますので、やはりこのテーマを明確に聴かすことは困難になりますが、是非テーマを意識して練習して下さい。

 41小節目は最後の小節になりますが、ここは版によって短3和音で終わる版と、長3和音(ピカルディー終止)で終わる版と両方あります。一応ヘンレー版はピカルディー終止で終わります。ご参考まで。
演奏のヒント 2017年3月  執筆者: 大井 和郎
第17番 変イ長調 BWV862

プレリュード:
 このプレリュードは元気の良さが命です。このプレリュードを極端に遅く弾いたり、重く弾かないようにします。筆者は、かなり遅いテンポのヴァージョンを生で聴いたことがあり、それはそれで様になっていましたが、通常快速的なテンポの方が弾きやすいと思います。故に、アーティキュレーションは、8分音符を全てスタッカートにして良いでしょう。このプレリュードのキャラクターが如何に楽しいものであるかは、例えば22小節目からの左手の16分音符や、24小節目の右手の16分音符などを見ると解りますね。

 冒頭1-2小節間、シークエンスのようなメロディーが出てきますが、この2つのテンションの違いを表現しましょう。1小節目よりも2小節目の方を大きめに弾きます。8小節目に至って、右手の音は高いBまで達します。そこから徐々に下行して13小節目で最も音量を落とします。

 以降、シークエンスや調性などでダイナミックや音質をコントロールしながら平坦にならないように気をつけます。ところでこのプレリュードには難関な箇所があります。28-29小節間の左手で、多くの学習者がここで悩みます。相当難しい箇所ですが、一応筆者の指番号を書いておきます。ご参考まで。

28小節目 4353 4212 1241
29小節目 4353 5432 1242

フーガ:
 演奏によっては大変壮大なフーガです。テーマは1小節目Asから始まり、2小節目の1拍目右手Esまでの7つの音と仮定します。ここから先は筆者の独断な分析になります。最初のターゲットを10小節目とします。ここでAs-durを主調と感じさせるテーマがテノールに出てきます。ここまでの道のりはpから徐々にクレシェンドして行きますが、6小節目、4拍目のソプラノAsに注目して下さい。このAsを順次進行に下行して追っていきますと次に7小節目、G F と来て、8小節目 Es、9小節目、Des C B そしてターゲットの10小節目にAsとなります。ラインは下行していますが、テンションはどんどん高まっていくと考えて良いと思います。

 10小節目以降、右手16分音符でシークエンスが下行していきますね。この辺りのダイナミックコントロールは奏者に任せます。13小節目に登場するF-mollの主題が、奏者にとって如何なるダイナミックに感じるかによっても、シークエンスの処理方法が変わってきます。もしもF-mollの主題が大きいものと感じるのであれば、11-12小節間はクレシェンドをかけても構わないと思います。

 F-mollの主題が出た後は、B-mollの主題となり、F-mollとB-mollと比べた場合、どちらのテンションがより高いか、も奏者に委ねられます。21小節目は、テーマのストレッタが見て取れます。

 そして23小節目において、長調に戻るのですが、恐らくこの23小節目はこのフーガの中で最も音量の落ちるところかもしれません。

 なぜなら、この小節を境に33小節目のゴールを目指すため、テンションを徐々に上げていかなければならないからです。33小節目にたどり着く前に、もう1つのゴールである27小節目、As-durのテーマにたどり着きます。ここのダイナミックは大きいです。それにも関わらず、30小節目からのシークエンスは明らかにクレシェンドです。そして33小節目のカデンツにたどり着きます。

 よくこの33小節目で音量を落としてしまう奏者がいます。3拍目の和音をご覧下さい。これはviの和音です。I ではありません。仮に I であればまだダイナミック的には弱いかもしれませんが、viのインパクトは大変大きく、予想を裏切る和音です。ここはフォルテで構いません。そして34-35小節間、テンポを若干緩くし、重々しく、壮大に終わります。
総説 2007年5月  執筆者: 朝山 奈津子
 「うまく調律されたクラヴィーア(Das Wohltemperirte Clavier)、あるいは、長三度つまりドレミ、短三度つまりレミファにかかわるすべての全音と半音を用いたプレリュードとフーガ。音楽を学ぶ意欲のある若者たちの役に立つように、また、この勉強にすでに熟達した人たちには、格別の時のすさびになるように。元アンハルト=ケーテン宮廷楽長兼室内楽団監督、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが起草、完成。1722年。」

 18世紀前半にはまだ、現代的な意味での十二等分平均律(1オクターヴ12音の各周波数比を2の12乗根とする調律法) を実践できなかったが、少なくともバッハは「24の調がすべて綺麗に弾けるように自分の楽器を調律することを学んだ」(フォルケル)と言われている。この曲集が《インヴェンション》と同じく教程として編まれたことは間違いない。しかし同時に、全調を用いて音楽の世界を踏破するという大きな理念が込められていた。「世界」の普遍的な秩序を捉えること。これは16-17世紀を通じて希求された究極の神学的課題である。《平均律クラヴィーア曲集》は、神の秩序をうつしとった、小さな完成された「世界」(ミクロコスモス)なのである。
 このことは音楽的にどのように確かめられるだろうか?
 ひとつの調には自由な書法のプレリュードと厳格な書法のフーガが1曲ずつ配されるが、多くの場合、これらは調以外にはほとんど何らの関連もない。両者は「自由」/「厳格」という対立項ですらないし、プレリュードは文字通りフーガの「前奏」であるわけもない。プレリュードにはきわめて多様な新旧の書法、形式、様式のものが現れる。またフーガにせよ、簡明、あるいは比較的自由なものから、厳格対位法の極限を追究するものまで、さまざまである。それでも、各曲は24の調の世界で自らの位置を保ち、全体で秩序を成す。まさに「多様な中にも多様なものの統一」であり、これこそ「世界」の似姿なのだ。《平均律》は言うまでもなく、つねに全24調を通して弾くことを想定した曲集ではない。しかしどの1曲を取り出してもそこには「世界」の一角が宿っている。
 ここで、「調の性格」という概念について考えてみなければならない。バッハと同時代のハンブルクの音楽家マッテゾンは、各調がそれぞれ固有の絶対的な性格を表現する、という硬直した考えに再三の警告を放ったうえで、「荘重にして高貴」(ニ短調)、「洗練をきわめる」(ヘ長調)、「荒削りで頑固」(ハ長調)、「鋭く頑固」(ニ長調)などと性格付けを試みた。バッハも、こうしたそれぞれの調に対する一般的なイメージを顧み、さらに当時はほとんど馴染みのなかった――簡単に言えば調号の多い――調に初めて固有の性格を与えた(もっとも、原曲を移調して曲集に加えられたものもあり、マッテゾンの言うとおり、調の持つ表現の多様性を無視してはならない)。調性格論のさらなる展望を得るには、声楽曲を含めたバッハの創作全体を見渡す必要があるが、《平均律》第I巻では少なくとも、シャープ系は輝かしく、フラット系は柔和な傾向にある、ということができよう。

 作曲は1720-22年、ケーテンに務めた時代、また長男フリーデマンに音楽の手ほどきを始めた時代にあたる。フリーデマンの音楽帖にはすでに11のプレリュードの原曲が見られる。1722年に浄書された。18世紀には筆写譜を通じ広く伝えられ、モーツァルトやベートーヴェンもよく研究した。出版譜は1801年、19世紀の始まりを告げる年に、ドイツ語圏の3つの出版社から同時に刊行された。ライプツィヒのホーフマイスター・ウント・キューネル社(のちのペータース社)ではフォルケル、ボンのジムロック社ではシュヴェンケ、チューリヒのネーゲリ社はネーゲリ自らが校訂している。この出版がバッハ・ルネサンスの嚆矢となった(なお、フォルケルは出版上の手違いから第II巻を先に刊行した)。

《平均律クラヴィーア曲集 第2巻》もご覧下さい。

音源 音源情報

Youtube PTNAチャンネル音源

外部動画

コンサート この曲が演奏されるコンサート

  第7回”輝く未来”ジョイントコンサート
 [後援]
2017年05月14日 14時00分
東京/ 葛飾シンフォニーヒルズ アイリスホール

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