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バッハ  :  3声のインベンション(シンフォニア)
Bach, Johann Sebastian  :  Sinfonia  BWV 787-801
ピアノ独奏曲 [piano solo/ 曲集・小品集

作品概要

楽章・曲名 演奏時間
1 第1番  /  BWV787  C-Dur 1分 10秒
2 第2番  /  BWV788  c-moll 1分 30秒
3 第3番  /  BWV789  D-Dur 1分 30秒
4 第4番  /  BWV790  d-moll 1分 40秒
5 第5番  /  BWV791  Es-Dur 1分 20秒
6 第6番  /  BWV792  E-Dur 1分 10秒
7 第7番  /  BWV793  e-moll 1分 30秒
8 第8番  /  BWV794  F-Dur 1分 00秒
9 第9番  /  BWV795  f-moll 1分 50秒
10 第10番  /  BWV796  G-Dur 1分 10秒
11 第11番  /  BWV797  g-moll 1分 10秒
12 第12番  /  BWV798  A-Dur 1分 40秒
13 第13番  /  BWV799  a-moll 1分 10秒
14 第14番  /  BWV800  B-Dur 1分 30秒
15 第15番  /  BWV801  h-moll 1分 30秒
20分 50秒
作曲年:1720-23
出版年:1801
初出版社:Hoffmeister & Kühnel

楽曲解説

総説 2007年5月  執筆者: 朝山 奈津子
 バッハは30の作品をまとめたのち、15曲の3声のセットに対して《シンフォニア》の名を与えた。これは当時すでに確立されていた、オペラの序曲に由来するジャンルとは直接の関係はない。むしろ、「とけ合って響く」というこの語のもともとの意味がこめられている。
 《シンフォニア》はほとんどがフーガ書法で書かれているが、フーガに独特の累加的な始まり方をするものがまったくない。(《インヴェンション》では第1,2,3,4,8,10番が一声部で開始する。)これは、学習用の小品という意図に見合った短い主題を、やはり短い1曲の中でできるだけ多様に展開するため、また響きが硬くなるのを避けるためと考えられる。しかし部分的には三重対位法をも用い、主題の反行や転回によって多様な組み合わせが現れる。
 バッハはこれらが演奏中に譜面をめくる必要のない見開きの2ページに収まるよう配慮した。15曲の調は2声インヴェンションと同じ配列で、ハ長調、ハ短調、ニ長調、ニ短調、変ホ長調、ホ長調、ホ短調、ヘ長調、ヘ短調、ト長調、ト短調、イ長調、イ短調、変ロ長調、ロ短調であり、おそらく実践で用いられる頻度に鑑みて選ばれている。
 
※「インヴェンション」の項もご覧下さい。
演奏のヒント 2016年9月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第1番 ハ長調

 インベンションもシンフォニアも、学習する順番は特には決まっていないと思いますが、まずは1番を勉強するのが自然とも思います。これが仮に、学習者にとって初めてのシンフォニアの場合、教師の方達は実に気をつけなければならない事が多くあります。

 それでなくてもバッハを嫌う学習者が少なくない中で、インベンションからシンフォニアに移るときというのは丁度、中学入学の時期と重なります。この時期は最も学習者がピアノを止めてしまい易い時期でもあり、そこにこの3声のシンフォニアが登場すると更なる「止めたくなる理由」ができてしまいがちだからです。

 2声のインベンションとは異なり、3声のシンフォニアは、インベンションの3-4倍の時間がかかる事をまず生徒さんに伝えてください。仮に、1週間に1曲のペースでインベンションを勉強してきた優秀な生徒さんでさえも、シンフォニアは1曲が1ヶ月以上かかる事を知らせておきます。つまりはものすごく難しい曲を勉強する事を伝えます。その上で、1つのフィンガーテクニックを同時に教えます。これはシンフォニアに生徒が入る前に実践させなければならないテクニック の1つで、多くのポリフォニー音楽で必須のテクニックになります。

 8小節目3-4拍目のト音記号をご覧ください。ソプラノとアルトが2声で6度を保ちつつ下行していますね。シンフォニアの1番にはこの様な箇所が数カ所ありますね。この2声をペダルを使わずに指だけで繋げるようにします。その基本練習が次に書かれています。

 次のプロセスをフォローしてください。
1.まず1の指でGを弾きます。
2.次ぎに5の指で6度上のEを弾きます。
3.Eを弾き終わったら1で押さえられているGを押さえられている状態のまま2に変えてしまいます。
4.本来1で押さえられていたGは2の指に変わりましたから、1の指は空いています。その1の指で2度下のFを弾きます。
5.次ぎに4の指で、5の指から2度下のDを弾きます。
6.弾き終わったら素早く4の指のDを押さえられている状態のまま5に変えてしまいます。
7.Dが5の指に変わったらすぐに1で押さえているFを2に変えます。
8.同じようなマナーで順々に下に降りてきます。
9.これを素早く降りてこれるように練習します。
 このテクニックをマスターする事で、2声の6度進行は、ペダル無しで完全に繋ぐ事が可能になります。14小節目、3-4拍目のト音記号から、15小節目3拍目までのト音記号の部分では、やはりアルトとソプラノが6度で進行していますね。ここも同じテクニックを使います。

 さて、それでは冒頭から曲を見ていきましょう。主題は1小節目、ト音記号、ソプラノから始まり、2小節目の2分音符、Eまでとします。以下テーマの場所です。
1小節目1拍目裏拍 ソプラノ
2小節目1拍目裏拍 アルト
3小節目1拍目裏拍 バス
5小節目1拍目裏拍 バス
8小節目3拍目裏拍 バス
12小節目1拍目裏拍 ソプラノ
13小節目1拍目裏拍 アルト
14小節目1拍目裏拍 バス
15小節目1拍目裏拍 バス
16小節目1拍目裏拍 アルト
19小節目1拍目裏拍 バス

 学習者の皆様はこれらのテーマを把握し、他の声部よりもハッキリと聴かすようにします。曲そのものがとても穏やかで、横に流れる曲ですから、特に激しいフォルテはありませんが、これらのテーマでも、小さく出すべきもの、大きく出すべきものの差は付けて然るべきでしょう。例えば、12小節目のテーマは、そのムードや音形を考えたとき、他のテーマと比べて少し大きめで良いのでは無いかと思います。

 ここから先は複雑なお勉強になってしまうのでできる限り簡単に説明します。バッハは、テーマを書くとき、その調によって音形を変えます。例えば、1小節目はC-durにいますので、これがオリジナルのテーマになるのですが、2小節目のテーマがCから始まるのであれば、本来ならHはBにならなければ1小節目のテーマと音程が一致しません。また、1小節目3拍目の最後の音から4拍目最初の音までは長3度で進みますから、本来は2小節目も同じでなければならないのですが、2小
節目の同じ場所は長2度で進んでいますね、これは「tonal answer」トーナルアンサーと呼ばれる書法で、その調に合わせてテーマを変形させます。

 12小節目のテーマには、未だかつて無い減5度の跳躍が4拍目に見られます。これは今までにはなかった事です。感情表現は強いと見なす事ができますね。

 このように、同じテーマでも色々なムードがあるはずです。その場のムードに合わせてダイナミックや音質を変化させるようにします。

 この曲を演奏するにあたり、もう1つ注意する事は声部の独立です。この曲がもしかしてシンフォニアの最初の曲とするならば、学習者の皆様はインベンションのように単純には行かない事を把握しなければなりません。例えば3小節目のト音記号をご覧ください。ソプラノのラインはGFEDEFDですね。ところがこれが、GFECDEFDと、聞こえてしまう演奏にならないようにします。Cはアルトの音で、これがソプラノのメロディーと一緒に聞こえてしまってはいけません。譜面に書いてあるように、声部は独立して聞こえなければなりません。4小節目、2拍目も、EDCHAと聴かせてはいけません。DCHAはアルトが担当していますので、ソプラノとは分けて聴かせなければなりません。基本的は、ソプラノはきらびやかに、アルトはおとなしくというような音質やダイナミックに分けておくと良いです。声部は何故独立させなければならないかは後々解ってくると思います。今はとにかく、3つの声部に聞こえるように工夫をしてください。
演奏のヒント 2016年9月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第2番 ハ短調

 パルティータや平均律のC-mollにも見られるように、C-mollという調は必ずしも暗い調ではありません。むしろ楽しい調と理解されても良い曲もあります。そしてインベンションのC-mollやこのシンフォニアをどのように理解するかは奏者の自由でもあります。そしてその理解によって、アーティキュレーションやテンポが変わってきます。典型的な例をご紹介しましょう。まずは、わりと淡々と、そして明るく演奏する場合、テンポは幾分速めに設定し、1小節目のテーマは、1-2拍目のアーティキュレーションを次のように決めます。8分音符2個目までをレガート、3個目をスタッカートにします。これで、1-2拍目を演奏します。2小節目、左手の声部は、4分音符をレガートで次の音まで繋ぎ、次の8分音符はスタッカートにすることも可能です。その際の右手は全てレガートにします。

 つまりは、

1 テーマのアルペジオである、8分音符3つは、レガート2つにスタッカート1つ
2 4分音符と8分音符のペアは4分から8分までをレガートで繋いで8分をスタッカートにします。その他、奏者が考えるアーティキュレーションを取り入れて良いと思います。

 もしも、この曲を全てレガートで演奏し、休符以外は繋ぐと仮定したとき少し工夫が必要になります。それは多くの連打音が主題にあり、この連打音はどうしてもペダル無しでは切れてしまいます。例えば1小節目、1拍目から2拍目にかけて、Esが2つあり、2拍目から3拍目にかけて、Gが2つあります。これらの連打音はペダルでつなぐほうがスムーズに行くのですが、問題はペダルの多用によって、伸ばさなくてもよい音まで伸びてしまうことにあります。他の音は一切伸ばさずして、このEs とGだけをペダルで繋ぐようにします。結果、本当に一瞬だけペダルを短く踏みます。

 ペダルは、使う必要が無い限りは極力避けます。特に5小節目に出てくるような16分音符では、必要の無い限りペダルを避けますが、連打音(リピート音)にだけは注意を払います。

その他の注意点:
 5小節目、3拍目のソプラノは4分音符、バスは付点4分です。もっともソプラノのFはアルトが16分音符でスケールを上行する際にFでぶつかりますので、ここでソプラノを離してしまえばよいでしょう。以降、これと同じパターンは音価に注意します。
 12小節目、テーマは、Dからオクターブ下のDです。D-Fisではありません。棒の向きで確認しましょう。
 19小節目は、同じ主題でも減3和音となり、多くの同じテーマの中では最もテンションが高い部分とも考えられます。ここをスタートとして、20-22小節間が最も音量的には大きくなる部分で、以降、1小節単位のシークエンスで下行していきます。
演奏のヒント 2016年9月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第3番 ニ長調

 楽天的で楽しいD-durのシンフォニアです。主題が既にシークエンスとなっています。この主題はとても長く、1小節目ト音記号ソプラノから始まる主題は、3小節目3拍目のAで終わると考えて良いのではないかと思います。この主題のシェーピングは実に自由で良いと思います。主題そのものはシークエンスを下行しながら進みますが、必ずしもディミニュエンドとは限りません。逆にクレシェンドでも良いと思います。アーティキュレーションは、8分音符のペア(例:1小節目2拍目と4拍目など)をスタッカートにすることで、躍動感と軽快さが出ます。

 仮にこの曲を3つに分けると、1つ目の区切りは14小節目の3拍目になると思います。さて、2つ目の区切りがどこかということでは議論になるとは思いますが、その前に1つ目の区切りについて考えてみましょう。14小節目までは長い道のりです。途中、平行調であるh-mollに転調しますね。この調をどのように捉えるかが1つの伴となります。h-mollはD-durより強いか弱いか、テンションは高いか低いか、音質は?色々と試してみましょう。

 筆者が考える事は、この14小節目までで、どこがテンションのピークかという事です。11小節目の3-4拍という事も考えられますし、6小節目から7小節目にかけて3つの声部が全て主題を演奏し終えるところかもしれません。これは奏者が自由に感じた事を表現して良いと思いますがいずれにせよ、12小節目の3拍目からのソプラノの動きを見てみると、下行シークエンスを辿りながら、14小節目の3拍目まで、力が衰退していくと考えて間違いないと思います。

 14小節目の3拍目からは、今までの悲しいお話を一掃してくれるような、期待感に満ちあふれた楽しい気分が徐々に戻ってきて、18小節目で喜びの頂点に達しますね。ですからそこまでクレシェンドで良いと思います。

 このシンフォニアはとにかく楽天的で楽しく、深刻にならずに、バッハの機嫌の良さを十分表現してください。3度も6度も出てきますので、良いエチュードの代わりにもなるでしょう。
演奏のヒント 2016年9月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第4番 ニ短調

 このd-mollのシンフォニアは技術的にはさほど難しくなく、どちらかというと音楽的な側面が難しいシンフォニアです。このシンフォニアを音楽的に理解するコツとしては、「ソプラノの動きを追う事」にあります。ソプラノがどの高さにあるかによって、ダイナミックを変化させていくと良いでしょう。冒頭から見てみましょう。

 主題は1小節目ソプラノから始まり、2小節目の1拍目Fまでとします。主題は引き続きシークエンスを辿りながら3小節目1拍目Aまで上行します。そこから順次進行で下行し4小節目のF にたどり着きます。5小節目1拍目で最終的にDにたどり着き、一区切り着きます。2拍目はBからシークエンスを辿り下行し、8小節目の3拍目Aまで下行してきます。ここからF-durになりますね。

 このように、ソプラノのラインを辿る事で山の頂点と梺が解ると思います。F-durに転調したあとは、半音階進行で下行して、A-mollに達します。14-15小節間、和声も減の響きになり、もしかしたらこの辺の音量は最も大きくなると考えても良いと思います。そこからG-mollに転調し、すぐまたF-durに転調し、20小節目においてD-mollに戻ります。調は目まぐるしく変わります。そのたびに、音質を変化させる事も重要です。例えば、1-4小節間、厳しい、悲しい、厳格なムードが続きます。2小節目でA-mollに既に転調しますが、ここはD-mollよりは音質は柔らかめであっても良いと思います。

 5小節目からは、F-durに転調するためのシークエンスが続きますが、7小節目に至って初めて、曲中で暖かみのある、柔らかく、優しいムードが、2拍目の属7の第7音であるEsによって再現されます。がらりと表現を変えてください。

 このように、各セクションのムード、各調のムード、またはシークエンスの動きやムードなども読み取り、自分なりに解釈し、適切な音質を選択すると良いでしょう。
演奏のヒント 2016年9月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第5番 変ホ長調

 極めて異例なシンフォニアですね。バスとソプラノ・アルトはフーガになっていませんね。このシンフォニアは如何に即興的に演奏できるかという事も大事な要素になります。さて、その前に、このシンフォニアには2つのヴァージョンがあり、モルデント有りとモルデント無し(12小節目のみ例外)に分かれます。まず最初にモルデント無しヴァージョンを勉強してからモルデント有りヴァージョンに進んでも良いと思いますがそれは自由です。ここから先は、装飾有りヴァージョンの方のお話になります。

 以前にもお話をしましたが、ヘンレー版に書かれてあるトリルはサイズが2種類あり、大と小に分かれます。大きく書かれているものは必ず弾かなければならなく、また小さく書かれてあるモルデントは奏者のオプションとして、弾いても弾かなくてもどちらでも良いとされています。このお話は、単音の装飾音とごっちゃになってしまうので、確認のため冒頭4小節を使って説明をしてみます。

 1小節目、見えるのはサイズの大きなトリルとターンですので、これは確実に弾きます。2小節目、1拍目の右手の4分音符Dの前に書かれてあるEsはトリルではありませんのでこれは弾きます。3拍目内声のトリルとターンも同じです。3小節目、1拍目、右手、ソプラノとアルト両方に装飾音がありますのでこれは弾きます。3拍目も同じです。4小節目、1拍目、同じく右手の装飾音2つを弾き、3拍目に至ってサイズの小さなトリルとターンが出てきますね。装飾音であるDは弾きますが、ソプラノとアルト両方同時に書かれてあるトリルとターンは演奏してもしなくても良いという事になります。

 これほど多くのトリル、ターン、装飾音を弾くのですからある程度の時間は必要になります。そうなると自ずとテンポが決定されますね。これらのモルデントを弾く事で無理のないテンポ設定にしてください。そして、場所によっては、他の場所よりもトリルやターンなどに時間を食う場所も出てくると思います。筆者は、このシンフォニアに関してはそれは全く構わない行為であると考えています。

 さて、このシンフォニアを分析すると、3つ、または4つに分ける事ができます。それは左の音形が変わる場所になり、そこが終止の形となるからです。左手の音形を見ると、16分休符1つのあと、16分音符3つが1拍目に入り、2拍目と3拍目は4分音符が入ってきます。そしてこのパターンがほぼシンフォニア全体に書かれてあります。しかしこのパターンが崩れるところが終止になります。場所は11-12小節間。そして同じ音形が、27-28小節間にあります。こうなると、この曲は、2つの終止がありますので、3つに分かれる事になります。先ほど4つとも言いました。それに関しては後述します。

 仮に3つに分けたとします。注目して頂きたいのは終止に入る2小節前で起こっている事です。9小節めの2拍目右手Gから10小節目のCまで、10小節目2拍目右手Asから11小節目Dまでの2つは上行形のシークエンスですね。とてもテンションの高まる部分で、最終的にC-mollに移調します。

 そして2つ目の終止の2小節前。25小節目2拍目右手のCから始まり26小節目Desまでと、26小節目2拍目右手Fから27小節目1拍目Gまでは、やはり上行形のシークエンスです。これら2箇所の分岐点に来る時は、必ず上行形のシークエンスが入ってくるのでね。1回目と2回目を比較したとき、1回目は上行してC-mollに移調しますが、2回目は上行してもf-mollからAs-durに移調する、どちらかというとテンションが緩む部分であると思います。2つの終止はそのような意味から、音形はそっくりですが、異なったキャラクターとして感じてください。

 さて、この曲を仮に4つに分けた場合の話です。今お話をした、11-12小節間、27-28小節間は左手の音形が異なるとお話ししましたね。ところがもう1箇所音形の異なる小節があります。それが、24小節目になります。この小節の左手は下行していますね。これは今までに無かった音形です。

 この部分で曲はF-mollに移調しますので、ここも終止と考えても構いません。そして更に、1-12小節目までを1つの括りとするのであれば、その小節数は12小節になります。ところが、13小節目から12小節間を進むと、丁度先ほどの音形が変わるところ(24小節目)がその小節になります。つまりは、3つに分けたとき、2つ目は1つ目よりも小節数が多いと言う事になります。

 奏者は自分の判断、または先生の判断により、曲を3つまたは4つに分割し、その中での出来事を考えるようにしていきます。例えば、1小節目から12小節目までが最初の括りです。この中でテンションの最も高まる部分はどこになるのか、そしてそこまでの道のりはどうするべきかも考えます。

 例えば、メロディーラインだけ辿ると、Es F Es D という音のグループが1-2小節間にあり、Des Es Des C というシークエンスの下行が2-3小節間にありますね。F G F Esが3-4小節間にあり、Es F Es D が4-5小節間にありますね。この4つのシークエンスはそのようなダイナミックにすれば良いでしょうか。

 また、その先のDGGCが5-6小節間にあり、CFFBが6-7小節間にあります。そして、9小節目でEsdurに落ち着きます。ここからは先ほど話をした上行形のシークエンスが始まりテンションが高まり、C-mollに転調する部分になります。奏者はこれらのシークエンスを、音の高さ、和音の種類などを鑑み、理にかなう進め方を考えてみてください。
演奏のヒント 2015年11月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第6番 ホ長調

 inventionとシンフォニアのE-durは実に繊細なカラーで書かれています。この2曲だけでもバッハのE-durに対しての感情が伝わります。しかしこの曲、実際にレッスンやコンクールなどで耳にすると多くの誤りが聴こえます。3声を勉強する時に、最も注意をしなければならないのは各声部がきちんと音価の通りに伸ばされたり、休符を守ったりという、いわゆるポリフォニーの秩序を守ることにありますが、ついつい聴き逃されてしまっていることがしばしばみられます。まずこの課題から注意していきます。典型的に切られてしまったりする部分に関しては後述します。

 冒頭、ト音記号、右手から始まる主題はソプラノではありません。アルトです。ソプラノは全休符が書かれていますね。ゆえに、アルトと、2小節目から登場するソプラノの音質を異らせます。アルトは柔らかく、ソプラノは華やかにはっきり出すと良いでしょう。冒頭アルトの主題が2小節目の最初のGisで終わっていると仮定して、主題が短いものとします。その場合、シェーピングは1小節目3拍目をピークにして、そこから下がっていきますので、2小節目最初のアルトのGisはppです。同じく、2小節目から始まるソプラノの主題は3小節目の1拍目で終わりますので、こちらもppです。これが基本的なシェーピングです。

 3-5小節間、ソプラノとアルトが一緒の声部に聴こえないように音質を異らせてください。7小節目の1拍目はアルトの主題の最後でもありますし、和音の解決の部分(V-I)でもありますのでここもppで弾きます。学習者がよく切ってしまう音符が、10小節目2拍目のアルトHisです。これは次の小節でCisに解決しますので絶対に切らないように。11小節目3拍目はソプラノの下にアルトが入ってきます。これも同じ声部に聴こえないように工夫してください。12小節目の3拍目も同じです。

 17小節目、1拍目、ソプラノとアルトがオクターブになりますがくれぐれも力が入らないようにしてください。アルトは主題の終わりですし、ソプラノも決して大きい音では始めないほうが良いと思います。このアルトの付点2分音符も次のAisまでしっかりと伸ばしてください。20-22小節間、バスや、アルトがきちんと音価通りに伸ばされていることを確認してください。

 23小節目、1拍目のソプラノは前の小節からの主題の最後の音ですので、本来は消えていくように弱く弾くべきなのですが、このEは割といつもよりは大きめに弾きます。何故なら、この音は次の24小節目までタイで繋がって伸ばされており、人の耳に残さなければならない音だからです。同じような箇所が、26小節目の1拍目Hです。特にこのHは、次にA、Gis、Fis、E、Dis、と下行していきますので、diminuendoするためには最初にある程度の音量が必要になります。

 34小節目、フェルマータの後、切れた瞬間から2拍休符を数えてから35小節目に入ってください。38小節目、ソプラノは16部音符が出てきますので、柔らかく、軽く、重たくならないように弾いてください。40-41小節間、即興的に弾いて下さい。
演奏のヒント 2015年11月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第7番 ホ短調 

 このシンフォニアで最も難しいのは、声部を横に流し、スムーズなラインを作ることです。この曲中に出てくる多くの3度や6度は右手だけであるとか、左手だけで取らなければならず、2つの声部を指だけで繋げるのは不可能で、どうしてもペダルが必要になります。ペダルを入れた際に濁りを避けるため、果たしてテンポは「8分音符1つにつきペダル1回を変えることのできる速度」に設定します。時に我々は、バッハのテンポを設定する時、このような理由に基づいて設定することもあり得ることを覚えておいて下さい。珍しいことではありません。

 楽譜をご覧下さい。4小節目、もうすでにペダルが必要になります。5小節目、6小節目も同じです。もうご存知だとは思いますがバッハのペダルはあくまで、声部を繋げるだけの目的で使用されます。結果、ほんの一瞬のペダルで充分です。ロマン派のようなペダルではありません。具体的に説明しますと、例えば、6小節目の右手の6度、左手の8分休符を守りつつ、ソプラノとアルトが切れないように、ペダルでつなぎます。この小節のような場所は、8分音符1つにつき、1回ずつペダルを変えれば良いのですが、27小節目から28小節目に入るところをご覧下さい。左手はペダルが要らなく、指でラインをつなぐことができます。よしんば右手の16分音符も指だけでつなぐことが可能と仮定します。ところが、付点2分音符はこの状況では右手の1の指で取らなければならなく、27-28小節間の2つの付点2分音符はどうしても1-1という指使いになります。

 1-1という指使いは変える時に鍵盤から離れてしまうので音は切れてしまいます。そこで、27小節目、3拍目の最後ギリギリでペダルを「一瞬だけ」入れ、次のGにつなぎます。本当に一瞬だけです。これがバッハのペダル奏法です。さて、8分音符1つにつき1回という説明をしましたが、実はこのペダリングにより16分音符に犠牲が出ます。16小節目以降に出てくる16分音符は、他2声のポリフォニーの秩序を守るため、どうしてもペダルが必要になり、結果、幾つかの16分音符に濁りが生じます。筆者はそれでも(16分音符が濁っても)声部を繋げるペダルは必要不可欠と考えます。もちろんペダルを必要としない拍もありますので、必要がなければ使わず、指でつなげ、必要があれば必ず入れて下さい。

 その他、具体的な注意点。6小節目など6度は、アルトの音量を極力落として下さい。この小節の休符も守って下さい。13小節目、3拍目、アルトの4分音符などの細かい部分もしっかり音価を守って下さい。19小節目3拍目、アルトラインの左右の受け渡しは聴いていてバレないように。23小節目、ソプラノのGは長くタイで伸ばされ、25小節目のFisに解決します。ある程度の音量も必要ですが、奏者が耳でGを聴き続ける事が重要です。37小節目、ソプラノのテーマに入る前に、ほんの一瞬だけ呼吸をして時間をとります。42-44小節間、即興的に弾いて下さい。
演奏のヒント 2016年9月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第8番 ヘ長調

 バッハの中でも特に性格の強いF-durで書かれているシンフォニアです。躍動的で、明るいキャラクターです。さて、このシンフォニア、ちょっと他とは異なったシンフォニアです。それは、他のシンフォニアと比べてテーマの数が異常に多いという事です。実にトリッキーなテーマの書かれ方がされており、簡単に見逃してしまいます。

 まず、それではテーマはどこからどこまでかという議論から始めたいと思います。もしかしたらテーマは1小節目1拍目裏拍アルトより3小節目1拍目表拍のCまでという人もいるかもしれません。そう仮定した場合、2小節目1拍目裏拍ソプラノが出てくる主題も同じテーマになるのですが、バスのテーマだけがいつまで経っても出てこなくなります。そこで、テーマは1小節目裏拍アルトのCより、2小節目表拍のAまでと仮定します。そうなったときにテーマの数は異常に多くなります。

 全部列挙してみましょう。
1小節目 1拍目裏拍アルトのCから
2小節目 1拍目裏拍ソプラノのFから
3小節目 1拍目裏拍バスのCから
4小節目 上行形シークエンス
5小節目 3拍目裏拍バスのGから
6小節目 3拍目裏拍アルトのGから
7小節目 3拍目裏拍ソプラノのGから 4拍目裏拍バスのCから
8小節目 3拍目裏拍ソプラノのGから 4拍目裏拍バスのAから
9小節目 3拍目裏拍ソプラノのAから 4拍目裏拍バスのDから
10小節目 3拍目裏拍アルトのDから
11小節目 3拍目裏拍バスのDから
12小節目 3拍目裏拍バスのGから
13小節目 3拍目裏拍ソプラノのAから
14-17小節間 エピソード
17小節目 3拍目裏拍ソプラノのDから 3拍目裏拍アルトのFから
18小節目 3拍目裏拍ソプラノのFから 4拍目裏拍バスのBから
19-20小節間 上行形シークエンス
21小節目 1拍目裏拍バスのCから
22小節目 1拍目裏拍ソプラノのCから

 ちなみに、同じく速いテンポで進む3番と比較してみたところ、完全なテーマは7つしか出てきません。この8番はそれに対して21個も出てきますので3倍多い計算になります。

 奏者はこれらテーマを把握し、それらの場所を意識して、他の声部よりもハッキリと出すと良いです。加えてこのシンフォニアはストレッタの部分が多く(テーマがオーバーラップする部分)、例えば7小節目はソプラノとバスのテーマがストレッタになります。その際にコツとしては、どちらかをどちらかの声部よりも出すのでは無く、最初のテーマが始まり次のテーマが入って来たらすぐに新しいテーマを出すようにします。そうする事でテーマがオーバーラップしている事を聴かせる事ができます。

 各テーマの調性も目まぐるしく変わります。それによって雰囲気を変えていきましょう。
演奏のヒント 2016年9月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第9番 ヘ短調

 このシンフォニアはとても音楽的に難しいと思います。特にピークポイントを向かえるような形式で書かれておらず、一見、同じテーマが繰り返し繰り返し流れていくように感じてしまいます。奏者はまず、このシンフォニアをよく分析し、自分なりのドラマを構築してください。分析にあたり、フーガには大雑把に分けて2種類の部分に分かれます。それはテーマ(主題)が登場している部分としてない部分の2種類です。テーマが登場しない部分は、大きく分けて2つに分かれ、エピソードとシークエンスの2つに分類できますが、これは後述します。

 奏者は、テーマがある部分を把握するために、テーマはどこからどこまでという事が解っていなければなりません。勿論これは分析をする人によっても考え方が異なる場合もあり、それは誰が正しいとか間違っているとか言う問題でもありませんが、仮にこのシンフォニアは、1小節目のアルトから始まり、3小節目のAsで終わると仮定します。そしてこの形をテーマと決めてしまいましょう。

 そうするとテーマは、3つの部分に分かれます。
1 8分音符3つから始まり(1小節目)
2 次にもう3つの8分音符がシークエンスのように上行形で登場し(1小節目)、
3 3つ目は山の形のように、最も高い音まで上がってから順次進行で下行します(2小節目)。

 そしてこれ以外の、紛らわしいテーマのような音形は、前述した3つの部分から成り立っていない事にはテーマと呼ばない事にします。このような、テーマの断片だけが出てくる部分を Fragment of theme と呼びます。

 さて、もう一度1小節目に戻ってテーマと同時に演奏される別の素材に注目します。それは半音階進行で進行する素材です。テーマをAとするのであれば、この半音階的進行をする素材をBとします。そして3小節目をご覧ください。バスに全く新しい素材が登場します。これを素材Cとします。

 実はこのABCの素材は、最初の2小節を除き、その他全てのテーマが演奏される部分は必ず3つの素材が同時に登場する事になっています。そしてそれらは必ず2小節間で終わります。それでは分析をしてみましょう。
1-2小節間   A
       B
3-4小節間   A
       B
       C
5-6小節間  下行しているエピソード
7-8小節間   B
       C
       A
9-10小節間  エピソード
11-12小節間  C
        A
        B
13-14小節間  A
        B
        C
15-17小節間  上行形シークエンス
18-19小節間  B
        C
        A
20-23小節間  エピソード
24-25小節間  B
        C
        A
26-27小節間  A
        B
        C
28-30小節間  上行形シークエンス
31-32小節間  A
        B
        C
33-34小節間  C
        A
        B

 この分析を利用し、曲を作っていきましょう。単純な方法としては、これらのテーマでどのテーマが一番テンションが高いか考えてみたりします。仮に、18-19小節間のテーマはテンションが高いと感じた場合、そこはフォルテで演奏して良いのですが、18-19小節に至るまでの、15-17小節間はたまたま上行形シークエンスですね。それを利用しない手はありません。そのシークエンスを利用し、クレシェンドをかけ、18小節目に達すると自然な流れになります。逆に、ソフトなテーマであれば、事前にディミニュエンドをかけておけばよいでしょう。
演奏のヒント 2016年9月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第10番 ト長調

 バッハが上機嫌であることが伝わるシンフォニアです。このシンフォニアの特徴は主題の最初の音が裏拍から出て、その音が最も長く伸びます。通奏低音のようなバスの動きから、生き生きと演奏するべき曲であり、結果ある程度テンポは速くなければならないと思います。

 このシンフォニアのもう1つの特徴としては、主題のリズムが時と場合に応じて変形します。そうなると、それはオリジナルの主題とは異なりますので、主題とは言えないと判断するのも有りだとも思います。あるいは、明らかに主題と判断しても良いでしょう。それは奏者に委ねられます。

 それでは冒頭から見ていきましょう。1小節目のソプラノ、1拍目裏拍から出る声部が主題です。この主題は3小節目、1拍目、表拍のHで終わります。ここまでを主題とします。2つ目の主題は、3小節目裏拍から出るアルトです。Dから始まり、5小節目1拍目Fisで終わります。

 さて、ここで皆様にお尋ねしたいのが、5小節目、1拍目から出るソプラノの声部です。主題ととてもよく似ていますね。異なる事は、裏拍から出ていない事と、終わりの音が下行して終わるという2点です。そして更なる問題が浮上します。7小節目1拍目裏拍から出るバスの声部は明らかに主題に見えるのですが、最後の音が無いのです。今までであれば最後の音は2度下行するか、2度上行するかで終わるのですが、その音がありません。そして、明白なシークエンスが始まります。

 こうなってくると、主題はもしかしたら、1小節目の裏拍ソプラノから始まり、2小節目の最後のとAまでとしたほうが話はまだ簡単になるのですが、主題そのものを考えたとき、Aで終わるというのは何とも気持ちの悪いもので、どうしてもこの音はHかGに行って欲しいと感じてしまいます。その辺りをどう考えるかという問題です。

 次に行きます。12小節目、2拍目、アルトのEから始まる声部も主題にそっくりですが、リズムが違いますね。13小節目2拍目、ソプラノのAから始まる声部も全く同じですね。そして15小節目2拍目でしょうか、この辺りから始まるソプラノの声部も実に主題とそっくりです。そして、20小節目1拍目アルトのHからも主題らしき声部が出ます。22小節目と24小節目のバスもそれぞれ主題に似ています。その他、26小節目、2拍目アルトのGから。27-30小節間のシークエンスを経て、31小節目2拍目ソプラノとなります。

 こうなると、本当に裏拍の付点8分音符から始まり、最後は2度上行して終わる主題というのは、最初の2つしか存在しない事になります。それらの事実をどのように判断し、そしてどのように演奏に活かすかは奏者に委ねられます。例えば、11小節目の2拍目から出てくるアルトのEは、主題のリズムが変形したものと判断しても良いとは思うのですが、だからといって、1拍目のGAGFisをpで弾いて、2拍目から突然大きな音で、テーマと決めた声部を出すのもこれもとても不自然に感じます。

 むしろ、1拍目にあるGAGFisで、最初のGは、前の小節の終わりの音と判断し、次のAから主題として演奏した方が自然に流れると感じますが如何でしょうか? 終わりに筆者の感じるピークポイントと最もおとなしくなる部分を書いておきます。このシンフォニアのピークは16小節目のソプラノで、ここが最もテンションが高まる部分です。次に、22小節目の1拍目が最も弱くなる部分、そして次に16小節目と同じくらい、あるいはそれ以上にテンションの高まる部分が、27小節目のソプラノになります。ご参考まで。
演奏のヒント 2016年9月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第11番 ト短調

 シンフォニアの中では比較的弾かれる機会が多いシンフォニアです。技術的にもそれほど難しくはありませんが、声部の独立が難しく、ここが課題になります。難しい理由の1つは、声部同士がかなり近い距離に居る事です。奏者は入念に各声部を見て、個々の声部を大切に扱ってください。特に、タイがかけられ次の小節まで伸びている音なども気をつけて声部を耳で聴くようにします。

 ところでこのシンフォニア、他のシンフォニアと決定的に異なる事が1つあります。それは主題の少なさです。主題と決めて分析を進めると、結果、曲中に主題はわずか3つしか出てきません。異例の事です。このシンフォニアを分析してみようと思ったとき、1小節目から8小節目までもソプラノが主題と考えてしまおうものならば、主題は結果、1つしか出てきません。65小節目から出てくる最後の主題でさえも、異なった形で終わります。つまりオリジナルは1つも無い事になります。

 そこで、主題を1小節目から4小節目のDまでのソプラノとします。半分のサイズにしてあげても、この主題が出てくるのはわずか3回で、2回目が29小節目ソプラノで、3回目は65小節目のソプラノです。

 もうお気づきだとは思いますが、このように4小節間が主題と無理をして決めたとしても、主題はソプラノにしか出てきませんね。こんな事は今まであり得なかった事ですね。逆に、主題は、1小節目だけとか、2小節目までと、かなり制限をかけると今度は、多大なる量で主題が現れ、そうするとシークエンスも全て主題となってしまいます。これらの事実をどのように受け止め、どのように分析し、どのように演奏するかは奏者に委ねられますが、このシンフォニアは、セクションが綺麗に分かれています。曲は細かく分けると次のように分かれます。

A 1-8
B 9-16
C 17-29
D 30-36
E 37-47
F 48-64
G 65ー72

 Bセクションでは、c-mollから始まり、B-durで終わります。このシンフォニアの平行調です。
 Cセクションでは、2小節単位のシークエンスで下行し、24小節目から1小節単位のシークエンスで上行し、26小節目をピークとしてそこから徐々にシークエンスが下行します。
 Dセクションではd-mollで始まり、d-mollで終わります。このシンフォニアの属調です。
 Eセクションでは1小節単位のシークエンスが上行し、最高音のCに達します(41小節目)。しかし、和声的にはそんなにテンションが高まる(音量を上げるべき)場所では無いですね。
 Fセクションでは、Cセクションと全く同じ事が起きます。
 Gセクションでg-mollに戻ります。

 奏者は各セクションを上手に利用して、音楽を作り上げてください。その他、どうしても左右の手の受け渡しが必要となる部分を書いておきます。

 9小節目、トリルは後々の事を考え、右手34でトリルを弾き、アルトの声部は最初のDHGまでが左手、その次のオクターブ上のGは右手で取るようにします。

 12小節目、アルト最初のGは右手、Es と Cを左手でとり、次のBを右手で取ります。

 49小節目、アルトのCBCは左手でとります。

 51小節目、アルトのBABは左手でとります。

 その他、ペダルで注意するところが、6小節目のような部分です、バスにGが4分音符で来ているのに、アルトがFisまで下がってきます。これは、ペダルを少し使い、Gを伸ばすしか方法はありません。同じような箇所が数カ所出てきますので、同じように処理をします。
演奏のヒント 2016年11月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第12番 イ長調

 高貴な楽しさとでも表現出来るでしょうか?明るく、楽しい、気品に満ちたシンフォニアですね。このシンフォニアのテンポがある程度快速であるべき理由は左手のバスの動きにあります。9-12小節間と、20-23小節間の左手バスの動きをご覧ください。ペダルポイント(オルガンポイントとも言う。1つの音をリピートまたはサステインしながらその上を和音が変化する状況のこと)を使いながら16分音符でシークエンスが下行しています。

 この16分音符の形は人を落ち着いた状態にはさせないことがわかります。とても楽しい状態であったり不安定な状態ですね。しかしながら、この16分音符、フーガの秩序を守らなければならないにも関わらず、このパターンは左手バスのみに存在し、アルトやソプラノには存在していないことがわかります。それではこの素材はいったいどこから来たのかというと、主題の一部である2小節目1-2拍目のソプラノから抜粋されていることが解ります。

 バッハはこの部分だけを抜粋し、長いシークエンスを作り上げているのです。それが結果的に通奏低音に近いようなバスの動きになっているのですね。結果、この左手の16分音符を弾いたとき、重たくならず、音楽が前向きに進むようなテンポ設定が望ましく感じます。

 そして曲の性格上、1-4小節間のバスの動きを見たとき、決して重たくならないアーティキュレーション、つまりは、スタッカートの8分音符が欲しいところです。休符を伴う8分音符はスタッカートにするなり、ある程度短く切ってしまって構わないと思います。

 その上で、このシンフォニア独自の注意点があります。それはペダルです。ポリフォニーの秩序を守るため、繋げなければならない声部を繋ぐには、どうしてもペダルが必要になります。それらの場所を見ながら解説をしていきます。まず、9小節目3拍目より、15小節目1拍目までの右手を演奏してみましょう。筆者はヘンレー版を見ています。指番号通りに従えば、辛うじて9小節目3拍目より、13小節目3拍目までは指で繋ぐことが出来るかも知れません。しかしながら、それが困難な場合、ペダルを一瞬だけ用いて、切れる声部を繋ぐことが出来ます。ペダルを入れる場所は、各小節の4拍目から次の小節の1拍目までと、各小節の2拍目から3拍目に移るときの2箇所が各小節で必要になります。つまりは、右手の2分音符を入れ替える瞬間に切れますので、そこにペダルを一瞬用います。

 仮にこれらのソプラノとアルトがペダルを使わず、指のみでつながったとしましょう。それにしても13小節目3拍目より15小節目1拍目までのアルトをご覧ください。Fis E Dis Fis Eis Fis を繋ぐには指だけではどうしても無理です。ここも、右手の16分が濁りすぎない程度にペダルを用いてアルトを繋ぎます。

 同じような場所は、18小節目3拍目より20小節目1拍目まで。21小節目より25小節目まで。それぞれペダルを用います。24小節目、アルトGis Gis Fis Fis E E も切れないように繋ぎます。

 次のペダルは例外ですが、27小節目1拍目、バスのAを1拍分伸ばすには、ペダルを持ちいらなければなりません。アルトが高く跳躍するからです。

 その他、左右の手の入れ替えを説明します。4小節目2拍目、表拍のDisとAは右手で取り、表拍バスののHと裏拍アルトの1個目のHは左手5の指で、5-5と採ります。8分音符のアルトのHは右手で取ります。

 同小節3-4拍間のアルトは次の小節Cisまで左手で取ります。
 8小節目、2拍目より次の小節1拍目までのアルトは左手で取ります。
演奏のヒント 2016年11月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第13番 イ短調

 このシンフォニアは一見普通のシンフォニアに見えますが、独自の特徴があります。それは、2つの同じテーマ(主題)が同時に出てくる確率がかなり高いという特徴です。説明していきましょう。

 1小節目よりソプラノを追い、3小節目の最初の16分音符であるAまでをテーマとします。シェーピングは実に見ての通り、山になっていますので、2小節目の最高音であるDまで膨らませ、以降は徐々に衰退してAまで下りてきます。以降、全て同じマナーでテーマをシェープします。

 5小節目、アルトのテーマが出ます。そして13小節目、バスのテーマが出ます。この時点で初めて3声が一体になります。曲はC-durに転調し、21小節目よりテーマが出るのですが、よく見るとソプラノとアルト両方にテーマがありますね。1音目のリズムはオリジナルとは異なり、8分音符で出てきますが、それでも十分テーマと見なせます。

 25小節目、今度は3度で再び2つのテーマが、同じくソプラノとアルトで出ます。次に29小節目、ソプラノ単独でd-mollのテーマが出ます。そして、33小節目、再びソプラノとアルトが3度で2つのテーマを同時に出します。

 41小節目、バスのテーマが出て、42小節目アルトのテーマがそこに被ります。勿論これはstretta(ストレッタ)です。次に49小節目、最後の音が異なるものの、アルトのテーマと見なして良いでしょう。

 そして53小節目、今度はソプラノとバスが同時にテーマを奏でます。そして最後に59小節目、ソプラノのテーマが出て終わりになりますが、これも最後の音が完全に解決しませんが、後のA Gis A で終結した感じがしますね。

 ご覧頂いたように、このシンフォニアは2つの主題が同時に出ることが多く、それは3度であったり、6度であったりします。その場合、やはり、上の声部を優先して下の声部を抑え気味にすると良いでしょう。特に6度の場合それを気をつけます。

 もう1つ、このシンフォニアの注意点はペダルを多用することによる濁りの問題です。実に繋ぎにくい箇所も多く、ついついペダルに頼ってしまいますが、できる限り濁りを避け、指で繋ぐように試してください。
演奏のヒント 2016年11月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第14番 変ロ長調

 このシンフォニアは、15曲中最もペダルが難しいシンフォニアと言っても良いと思います。それほどこのシンフォニアのペダルは大変です。勿論ペダルの大変さはテンポによっても状況が変わってきますが、このB-durのシンフォニアを見たとき、またバッハの他のB-durの曲を参考にしたとき、テンポ自体がそこまで速い曲では無いように感じます。AndantinoかAndante、あるいはもっと遅くても良いとも思います。勿論これは主観ですので、奏者がテンポ設定をして構わないのですが、仮にこれが割とゆったりと進むと仮定した上でお話をしましょう(筆者は4分音符が40前後であると感じています)。

 筆者は現在ヘンレー版を見ていますが、例えば5小節目のソプラノは1拍毎に、4-5、4-5、4-5、と指使いが書いてあります。つまりはこの指番号を書き入れた人も、4から5に変えれるだけの余裕があるテンポと考えていると思います。

 奏者がこのシンフォニアを練習する際に、まず最初にもっとも気を遣わなければならないのは指番号です。5小節目の4-5、4-5、4-5、という指番号は筆者には無理です。完全に不可能ではないのですがかなりきついです。従って、筆者であればこの小節のソプラノは5の指のみでとります。

 音が変わる度に5の指のみでソプラノを演奏します。勿論、それでは切れてしまいますのでそれを例によって「一瞬のペダル」で繋ぎます。

 このようにペダルに頼ることを「前提」に、臨機応変に対処しなければならない部分もありますが、逆に何とか指だけで繋いで欲しい部分もあります。例えば、14小節目の右手です。2拍目から3拍目まで指番号を書きます。ソプラノとアルト両方です。

2拍目:ソプラノ 4     アルト 1321
3拍目:ソプラノ 5-3 5   アルト 2-1

 技術の見せ所は3拍目です。ソプラノの5-3-5は素早く行い、同時にアルトの2-1もこれも素早く行います。

 奏者は、今まで学習してきたフィンガーペダル、指の入れ替え、ペダル、黒伴から白伴にスライドさせる同じ指番号、等等、あらゆる手段を最大限に駆使して指番号を決め、「可能な限りペダルを減らし」、16分音符の濁りを避けるように努力してください。それがこのシンフォニアの重要なヒントです。
演奏のヒント 2016年11月  執筆者: 大井 和郎
シンフォニア 第15番 ロ短調

 このシンフォニアの問題点は何と言っても技術面であると思います。32分音符を如何に綺麗にきちんと弾けるかで評価が決まってきてしまいます。そのような意味では15曲中、技術的には難しい部類に入るかも知れません。何はともあれ、技術あって演奏可能になることは確かですので、地道に丁寧に練習をしてみましょう。

 最初の難関は3小節目のソプラノです。大きく分けて二通りの指使いがあります。ヘンレー版が推奨する指使いは次の通りです。

3小節目 1拍目: 212454
     2拍目: 242154
     3拍目: 242142

 もう1つの指使いは、筆者が使うであろう指使いです。

3小節目 1拍目: 212353
     2拍目: 232121
     3拍目: 353232

 2つ目の指使いの難点は、2拍目から3拍目に移る際に生じる跳躍です。この跳躍が広いのでレガートは切れます。もっともかなり早く弾かれますので切れるのは一瞬だけです。それよりも、この指使いが弾きにくいと感じる奏者もいると思います。

 1つ目の指使いは、その跳躍の難点をカバーする指使いになっています。ただしこれも弱点はあり、2拍目に出てくる15という指使いが奏者にとって大変かどうかが選択の分かれ目になります。

 続いて、超難関が6小節目です。何故超難関かというと、3小節目とは異なり、左右同時に32分音符を演奏しなければならなく、そうなると微妙なズレやムラが生じてしまうからです。通常、左手がこのような速い速度でアルペジオを演奏する機会はさすがに希であると思います。指使いは4を使うヴァージョンと、4を避けるヴァージョンがあります。どちらも書いておきます。

 6小節目 1拍目: 454212
      2拍目: 424512
      3拍目: 412424

 続いて4を使わないヴァージョンです。
 6小節目 1拍目: 353212
      2拍目: 323512
      3拍目: 412323 (3拍目の頭だけは4を使います)

 ヘンレー版の推奨する番号は4を使います。いずれにせよ、左手が動かしにくいですね。そこで、どのような練習をすれば良いのかお教えします。4を使うヴァージョンの2拍目の最初の4つの指番号である、4245 を使います。これで、D Fis D H を弾き、これを何回も繰り返します。この4245がスムーズにインテンポで弾けるようになれば、この小節は弾けるようになります。

 この小節で左右のズレが生じたとき、その9割は左手の遅れに原因があると思って良いでしょう。

 最終的に、はこのような3小節目も6小節目も、leggiero で、p で弾けるようにします。力を抜いたとき、ムラやズレが生じるようであれば、もう一度フォルテで弾けるように、ゆっくりの練習に戻ってください。

 28小節目、ハープシコードやオルガンだからこそ可能なパッセージですね。ここは、奏者の都合の良いように、左右の音を省いたりしてください。左右を逆にしても何をしても構いません。

音源 音源情報

Youtube PTNAチャンネル音源

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