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シベリウス  :  5つの小品(樹木の組曲)
Sibelius, Jean  :  5 Pieces  Op.75
ピアノ独奏曲 [pf/ 曲集・小品集

作品概要

楽章・曲名 演奏時間
1 ピヒラヤの花咲くとき  /  "When the mountainash in flower"  2分 00秒  -- 
2 さびしい樅の木  /  "The lonely fir"  2分 30秒  -- 
3 ポプラ  /  "The aspen"  2分 30秒  -- 
4 白樺の木  /  "The birch"  2分 00秒  -- 
5 樅の木  /  "The fir"  3分 00秒  -- 
12分 0秒
作曲年:1914
出版年:1922
初出版社:Hansen

楽曲解説

総説 2017年3月  執筆者: 小林 由希絵
 1914年、シベリウスが49歳の時の作品。
同年、アメリカの実業家であり慈善事業家のカール・ステッケルからの委嘱を受けて、シベリウスは交響詩〈大洋の女神〉Op.73を作曲し、初の渡米を果たす。シベリウス自らが指揮棒を振り、アメリカでの初演は好評を博すが、シベリウスがアメリカからフィンランドへ向けて帰国途中に第一次世界大戦が勃発。この曲は第一次世界大戦開戦直後の暗雲立ちこめる不安な時代の中で作曲されたのである。
 第一次世界大戦の間、シベリウスはピアノやヴァイオリンなどの独奏曲や、歌曲や合唱曲など比較的小さな編成で演奏出来る作品を多く書いている。
折しも1910年前後は、シベリウスを長年悩まし続けていた耳や喉の疾患を手術で克服し、年齢的にも40代後半から50代にかけての作曲家として脂の乗り切った時期で、シベリウスは創作意欲に満ち満ちていた。
それと同時に、第一次世界大戦勃発によりドイツの出版社からの印税の受け取りが難しくなってしまったため、楽譜の売れ行きが良く、すぐに現金収入へとつながる小編成の小品を大量に書かねばならなかったという経済的な事情もある。

 〈5つの小品〉は、一つ一つの曲の全てに樹木の名前が付けられていることから「樹木の組曲」とも言われる。ピアノという楽器を用いて、小さな苗木がしっかりと土に根を張り、立派な大木へと成長していくさまを見事に描いている。
全曲に渡って、フィンランドらしい叙情的な響きで、作曲家として円熟期を迎えたシベリウスの卓越した作曲手腕が光っている。

◯第1曲「ピヒラヤの花咲くころ」
Allegretto、4分の4拍子、ト短調。
 タイトルにある「ピヒラヤ」とは、日本でも山間部や北日本で見られるナナカマドの一種。
ピヒラヤの木はフィンランドでは古くから「神の木」と呼ばれ、フィンランドの国民的キャラクターのムーミンの絵皿にも描かれるほどフィンランド国民から親しまれている。夏至の近づく6月には白く愛らしい花を咲かせ、フィンランドの短い夏の風物詩となっている。
 曲の最初は4分の4拍子から始まるものの、曲の前半部では4分の4拍子から2拍子、3拍子へと1小節単位で目まぐるしく拍子が変化していく。楽譜だけを眺めていると非常に複雑な印象を持つが、実際に演奏を聴いてみると、変拍子の複雑さはあまり感じられず、シベリウスらしい流れるような音楽が美しい。
 後半部へ入ると、拍子は4分の2拍子に落ち着き、左手にはシンコペーションのリズムが現れる。
♭2つのト短調で書かれているものの、曲全体がフランス印象派の影響を受けた色彩感豊かな和声進行に彩られ、曲の終わりに向かってト短調からト長調へと変容してゆく様は、あまりの美しさに思わずため息が漏れてしまうほどだ。

◯第2曲「さびしい樅の木」
Grave、4分の2拍子、ハ長調。
曲名には「樅の木」と表記されることが多いが、最近の研究では樅の木ではなく、「松の木」であることがわかってきた。松の木というと、日本をはじめとするアジアのイメージが強いかも知れないが、国土の65%を森に覆われたフィンランドでは、モミの木、白樺、そして松の3つが森の主役と言われている。
ハ長調で書かれてはいるが、「Grave=重々しく」と明記され、フィンランドの長く厳しい冬の間をじっと耐え忍ぶ木々の情景が巧に描き出されている。
組曲の中で最もテンポが遅く、音数も少なめであるが、27〜28小節目には64分音符が華麗に駆け上がり、フォルテッシモで存在感たっぷりに堂々と幕を閉じる。

◯第3曲「ポプラ」
Andantino、2分の2拍子、嬰ト短調。
緯度の高いフィンランドでは、夏になると太陽が夜になっても沈むことのない白夜が訪れる。
白夜の夜の薄明かりに照らされて、ひっそりと佇むポプラの木。
そんなフィンランドらしい風景を切り取ったかのような一曲である。
 組曲の中でもメロディアスな曲で、フィンランドに古くから伝わる民謡を彷彿とさせる。
曲の後半では、全音符と、それを装飾する16分音符の対比が見事で、風にそよぐポプラの葉をメランコリックに描写している。

◯第4曲「白樺の木」
Allegro、2分の2拍子。
白樺も、ポプラや樅の木と同じくフィンランドによく見られる樹木のひとつで、日本でも北海道などで見ることが出来る。「白樺」という名前の表す通り、白く美しい幹を持った木である。
フィンランドをはじめ、ヨーロッパ各地で春の訪れを祝う五月祭では、白樺の木に色鮮やかなリボンを巻き付けメイポールダンスを踊るなど、ヨーロッパの人たちにとって生活に根ざした木である。
 組曲の中で最もテンポが速く、美しく、しなやかな白樺の木々を、躍動的に生き生きと描写している。前半部では♭3つのAllegroではじまるが、後半にさしかかると♭5つの変ロ長調となりMisteriosoとなる。後半部分は8分音符の分散和音がピアニッシモで幾度となく繰り返され、非常に神秘的な調べをたたえている。

◯第5曲「樅の木」
Stretto-Lento、4分の3拍子、ロ短調。
日本でもクリスマスツリーの木としてよく知られているモミの木。モミの木は常緑樹で、一年中葉が枯れることなく青々と繁り続けることから、フィンランドでは「永遠の命」の象徴とされ、1917年にフィンランドがロシア帝国から独立を果たした時には、首都ヘルシンキの公園に1本のモミの木が植樹されたという。それほどまでに、フィンランド国民にとってモミの木は、心のよりどころとなっている木なのである。
 Strettoと記された1小節ほどの短い序奏の後、Lentoで憂いをたたえたモミの木の美しいメロディが聴こえ始める。ロ短調で書かれたこの曲は、曲全体を重く暗い響きが覆い、風雪に絶えながら緑の葉を絶やすことなく立ち続けるモミの木を表すかのようだ。途中、Risoluteになるとカデンツァ風の32分音符が連なり、あたかもフィンランドのツンドラの大地に吹きすさぶ冷たい北風のようである。
 解説の冒頭でも触れた通り、この曲は第一次世界大戦下で書かれており、フィンランドの厳しい自然環境の中でも、大地に力強く根を張り生き抜いていくモミの木のように、暗く辛い戦争の時代の中にあっても、強く生き抜いていこうとするシベリウスの決意がこの曲に滲み出ている。

 コンサートなどでは、組曲として全曲通しで演奏されるというよりは、単独のピアノ小品曲として演奏されることの方が多い。中でも一番演奏されるのは第5番の「樅の木」である。
 日本では、フィンランド音楽の第一人者である舘野泉氏がこの曲を紹介したことにより有名になり、今では日本の楽譜出版社からもいくつも楽譜が出版されている。

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