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Stravinsky, Igor Fyodorovich  :  The rite of spring
ピアノ合奏曲 [2 pianos 4 hands/ リダクション/アレンジメント

作品概要

楽章・曲名 演奏時間
1 Part I: Adoration of the Earth (Day)   -- 
2 Part II: The Sacrifice (Night)   -- 
作曲年:1912-13

楽曲解説

総説 2017年2月  執筆者: 舘 亜里沙
 バレエ曲《春の祭典》(1913年初演)は《火の鳥》(1910年初演)と《ペトルーシュカ》(1911年初演)と並んで、創作初期のストラヴィンスキーの代表作(通称「三大バレエ」)に数え上げられるとともに、20世紀の原始主義を代表する作品とも言われている。「原始主義」とは音楽の諸要素の中でもとりわけリズムに工夫を凝らすことで、音楽に内在する原始的なエネルギーや躍動感を引き出そうとすることを指す。そのため原始主義と呼ばれる楽曲の多くは非西洋圏の舞踊や太古の儀式といったものを題材とし、それまでの西洋音楽には無かった打楽器的な楽器の扱いや音楽の不定周期的な流れを特徴としている。《春の祭典》も、題材が大地に芽吹く春を讃えて太陽の神に生贄を捧げる原スラヴ人の儀式であること、変拍子とランダムに聞こえる(ように書かれた)アクセントが絶え間ない緊張感を生み出していることから原始主義的な着想のもとに創られたと言うことが出来る。
 作品の成立については、バレエ・リュス(1909年発足、1929年解散)の活動を抜きにして語ることは出来ない。主宰のディアギレフ Sergei Diaghilev(1872-1929)は芸術家達の才能を発掘することに長けており、作曲家ではサティ、ラヴェル、プロコフィエフなど、美術家ではピカソやマティスなど、振付家ではマシーンやバランシンなど、現在になっても広く名を知られる人物と共に革新的なバレエ作品を次々と輩出している。そして当時はまだ新進の作曲家だったストラヴィンスキーも、当初はピンチヒッターとして依頼された《火の鳥》に続き、《ペトルーシュカ》と《春の祭典》をバレエ・リュスのもとで作曲することとなる。《春の祭典》の美術と衣装には、既に着想の段階からストラヴィンスキーと関わりがあったと考えられる知識人レーリヒNicholas Roerich(1874-1947)が入り、振付には《ペトルーシュカ》でタイトルロールを踊ったばかりのニジンスキー Vaslav Fomich Nijinsky(1890-1950)が入った。
 こうして各芸術分野の才能を結集して完成した《春の祭典》だが、1913年5月29日のパリ・シャンゼリゼ劇場での初演は大騒動になったと伝わっている。そのことについては「ニジンスキーがダンサー達のために拍数を叫ばなければならないほど客席では怒号が飛び交った」といった極端な記述もある上、関係者によるそれぞれの発言にも矛盾する点が多いため、現在でも正確な状況描写をすることは難しい。だが明らかとなっているのは、この初演時の観客が《春の祭典》を支持する派と拒否する派に割れたことである。そのことは同作品が「異教徒」や「古代」といった19世紀にも流行した題材を扱っているにもかかわらず、それまでの西洋音楽におけるエキゾチシズム等とは一線を画す性質を持っていたことを示唆している。実際《春の祭典》はその後多くの20世紀芸術家達を魅了することになり、先日亡くなったばかりのブーレーズ Pierre Boulez(1925-2016)をはじめとする音楽家達が詳細な楽曲分析を試み、日本での功績も多い振付家ベジャール Maurice Béjart(1927-2007)などの振付家が振付を試みている。
 2台ピアノ版は1912-13年にバレエとしての作曲と並行して書かれたが、1947年に若干の修正を経て出版されている。作曲者自身が編曲することによって、複調の仕組みや和声構造など、各楽曲の構造が非常に明確化されている。

第二部第4曲〈祖先の喚起 / Evocation of the Ancestors / Évocation des ancêtres〉
 第二部は物語内容的にも音楽的にも、さらに第1曲~第3曲を「生贄となる乙女の選定と祝福」、第4曲~第6曲を「生贄の献上」と分けることが出来、第4曲は後半の幕開けに当たる。F#―E―D#の三連符を含んだ音型が提示されては、変拍子を含む和音の連打で構成された音型が呼応することで音楽が進行するが、前者の音型が(D#を導音と捉えるならば)ホ短調を想起させるのに対し、後者の音型は導音の低められたハ長調(あるいはC音から始まるミクソリディア旋法)を想起させることで、複調となっている。また和音の連打による音型の周期が5小節―3小節―11小節―13小節―3小節で、2つの音型のやりとりが5回といずれも素数になっていることで、非西洋音楽的なテンポ感が生み出される。短いがストラヴィンスキーの音楽語法が凝縮された楽曲である。

第二部第5曲〈祖先の儀式的行為 / Ritual Action of the Ancestors / Action rituelle des ancêtres〉
 弦楽器のピッツィカートと低音域の管楽器のスタッカートによる絶え間ない拍打ちと、解決されないまま次の音楽に消されてゆく半音を多く含んだ旋律が、不気味な雰囲気を醸し出す緩楽章。拍打ちがしばし途絶える部分を中間部と捉えてA―B―A’と分けることが出来るが、A部分の長さはほぼB部分とA’部分を足した長さとなっている。A部分の途中でアルトフルートに現れた半音で揺れ動く音型は声部数や編成を増し、A’部分の再登場では激しいヴァイオリンとクラリネットのトレモロへと変容し、それが楽曲の緊張感を増幅させている。A部分の冒頭に現れる愁いを帯びた旋律はファゴットに当てられ、A部分とA’部分のクライマックスにけたたましく現れる旋律はトランペットやホルンに当てられ、B部分の跳躍を伴う旋律は弦楽器に任せられるなど、各楽器の音色を巧みに用いた楽曲であり、それらの音色をピアノで表現するのは非常に難しくなっている。楽曲の最後の1小節でバスクラリネットだけが弱音で残り、終曲〈生贄の踊り〉の激しい始まりを誘発する。

第二部第6曲〈生贄の踊り(選ばれし者) / Sacrifical Dance (The Chosen One) / Danse sacrale〉
 生贄に選ばれた乙女が命果てるまで踊り続け、その身体を神に捧げる様を描いた楽曲で、全曲の中でもとりわけ楽器の打楽器的な扱いと複雑なリズム構造が特徴となっている。最初の33小節には旋律と称することの出来るモティーフは現れず、全ての楽器が2拍子と3拍子と5拍子の激しく交替するリズムで、D音を基音とする和音を打ち鳴らす。次の部分は82小節と長く、冒頭部分のような激しい和音の跳躍の代わりに同音で連打された和音が土台となる。だがその連打は、2つ並んだ32分音符による震動するような響きと不均等な間隔で入る休符によって、不穏な動きとなっている。高音楽器に現れた五連符のモティーフがやがて連綿と続く急速な音型に変わることで、音楽を盛り上げている。この82小節間はさらに基音の変化によって59小節(基音A音)―14小節(基音G音)―9小節(基音G#音)に分けることが出来、冒頭部分の基音D音に対して5度上の基音A音で始まり、逆に基音G#音に対して次の部分で5度下の基音C#音に降りてゆくことから、調性的に考察すると長いドミナントとも捉えられる。基音がC#音になった後の33小節間は長さも音楽的性質も冒頭部分と同様である。次の24小節では8分音符と三連符を組み合わせた新しい伴奏型とともに、再びD音を基音とした新しいモティーフが現れる。24小節のうち前半10小節が5拍子・4拍子・3拍子の交替となっているのに対し、後半14小節は一律で2拍子となっており、それによって音楽的な周期が縮まり音楽が加速する。続いての6小節間は冒頭の回想が挿入され、その後の22小節は先の加速した14小節間を受け継いでいる。そして楽曲の最後であり作品全体のコーダとも言える73小節間では、基音がA音に転じ(本日は演奏されないが序曲冒頭の基音もA音である)、激しい拍子の交替と和音の跳躍が戻って来る。ピアニッシモから徐々にアクセントと跳躍の度合いを増しフォルティッシッシモまで到達した音楽は、終わりから3小節目で突然静まったと思いきや、突然の強打とともに締めくくられる。

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