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リスト  :  ハンガリー狂詩曲
Liszt, Franz  :  Ungarische rhapsodie  S.244
ピアノ独奏曲 [pf/ 曲集・小品集

作品概要

楽章・曲名 演奏時間
1 第1番    cis-moll 13分 00秒  -- 
2 第2番   cis-moll 11分 00秒  -- 
3 第3番    B-Dur 4分 30秒  -- 
4 第4番   Es-Dur 5分 00秒  -- 
5 第5番「悲しい英雄物語」  /  'Heroide-elegiaque'  e-moll 8分 30秒  -- 
6 第6番   Des-Dur 7分 00秒  -- 
7 第7番   d-moll 5分 30秒  -- 
8 第8番    fis-moll 6分 30秒  -- 
9 第9番「ペシュトの謝肉祭」  /  'Pester Karneval'  Es-Dur 11分 30秒  -- 
10 第10番「前奏曲」  /  'Preludio'  E-Dur 5分 30秒  -- 
11 第11番   a-moll 5分 30秒  -- 
12 第12番    cis-moll 10分 30秒  -- 
13 第13番   a-moll 9分 00秒  -- 
14 第14番   f-moll 12分 00秒  -- 
15 第15番「ラコーツィ行進曲」  /  'Rakoczy Marsch'   a-moll 6分 00秒  -- 
16 第16番   a-moll 5分 30秒  -- 
17 第17番   d-moll 3分 00秒  -- 
18 第18番   fis-moll 3分 30秒  -- 
19 第19番   d-moll 10分 30秒  -- 
133分 30秒
作曲年:1846-85

楽曲解説

総説 2009年1月  執筆者: 岡田 安樹浩
一般に「ハンガリー狂詩曲」の名で親しまれている作品集は全19曲からなるが、その創作は2期に分かれている。1851年から53年にかけて出版された第1番から第15番「ラーコーツィ行進曲(ラコッツィ行進曲)」までの作品は、リストが1839年と1846年にハンガリー訪問をしたことがきっかけで作られた作品群(『ハンガリーの民族旋律』S.243と『21のハンガリーの民族旋律と狂詩曲』S.242これらの詳細については各曲集の解説を参照)がそのルーツとなっている。一方、第16番から第19番までの作品は、晩年の1882年から85年にかけて作られたものである。
リストが「ハンガリー的なもの」として考えていた音楽が、厳密にはそうではないということは民謡収集などの研究によって今や明白であるが、この曲集はリストなりのハンガリー音楽の研究成果であり、その内容をとがめるのはナンセンスである。
リストの考える「ハンガリー的なもの」とは、ジプシー楽団によって演奏された音楽であり、彼らは聴衆の求めに応じて土着の民謡の他、聴衆になじみの深い音楽などを「彼らのスタイル」で演奏した。リストの「ハンガリー狂詩曲集」を考えるうえで重要なのは、このジプシー楽団の「演奏スタイル」である。
彼らの演奏スタイルのルーツはヴェルブンコシュ(当時はマジャルと呼ばれていた)というもので、もともと募兵行事で演奏されるものであったが、次第に音楽だけが市民権を得るようになり、行事から完全に独立して当時の人々のあいだで流行した。
このヴェルブンコシュはゆったりとしたテンポに始まり、徐々にテンポをあげてゆき、最後は熱狂的に終わるというものである。はじめのゆったりとした部分では単純な旋律がソロ・ヴァイオリンによって過度なまでに装飾され、拍子感がほとんどない独特な演奏が披露され、速度をあげた部分ではクラリネットやツィムバロムなどが加わり、技巧的なパッセージを繰り広げる。このほかにもジプシー楽団は緩急のはっきりとした音楽をいくつも並べて演奏する習慣があり、こうしたスタイルをリストは「ハンガリー狂詩曲集」の中に反映させている。曲集中には頻繁に「ラッシャンLassan(ゆっくり)」と「フリシュカFriska(はやく)」という語が登場するし、民族楽器であるツィムバロムを模倣した音楽も頻繁に用いられている。また、単純な旋律を細かい装飾音符で装飾し、フェルマータの多用などでヴェルブンコシュの音楽スタイルを記譜している。
こうしたスタイルは第16番以降の作品にもおおむね踏襲されているが、作品に規模は晩年の作品群に特徴的なようにコンパクトなものとなっている。


第1番 嬰ハ短調
冒頭のレチタティーヴォ主題による緩やかなテンポの前半と、Allegro animatoの軽快な主題による急速なテンポの後半という2部構成。
冒頭の主題は嬰ハ短調で提示されるがすぐにホ長調に転調し、楽曲全体はホ長調を基本としており、中間部の変ニ長調は嬰ハ短調の(異名同音の)同主調である。
弟子のツェルダヘリに献呈。

第2番 嬰ハ短調
曲集中もっともポピュラーな作品。随所にカデンツァを挿入する箇所があり、リスト自身も複数のカデンツァを残している。ホロヴィッツがアレンジして演奏したことでも知られる。
細かな装飾音符による導入部に導音をジプシー音階風に用いた主題が印象的なLassanが続く。Lassanの中に既にツィムバロムを模した主題があらわれており、これがFriskaの最初の主題となる。この楽曲のFriska部分は、更にジプシー音階風の主題(嬰へ短調)でテンポを上げ、Vivaceの力強い主題(嬰ヘ長調)や「クシコスポスト」で耳なじみの主題が次々とあらわれる。
ラースロー・テレキー伯爵に献呈。

第3番 変ロ長調
冒頭Andanteの主題は極めて低い音域で提示され、伴奏の和音は変ロ短調とも変ロ長調とも思える、極めて印象的なものである。中間部Allegrettoはト短調だが終止は同主長調に向かっており、同主調関係がこの楽曲の柱となっていることは明らかである。冒頭の主題が再び回帰した後、中間部の主題がテンポを速めずにあらわれて楽曲が閉じられる。
レオ・フェステティックス伯爵に献呈。

第4番 変ホ長調
緩やかなテンポ(Quasi adagio-Andantino)の前半と急速なテンポ(Allegretto-Presto)の2部構成。後半部分のオクターヴ奏法の連続とバスと和音を交互に奏する伴奏の組み合わせは、単純ながらも演奏は決して容易ではない。このようなスタイルはこの曲集にしばしば見られる。
カシミール・エステルハーツィ伯爵に献呈。

第5番 ホ短調「悲しい英雄物語」
付点リズムを伴ったアウフタクトをもつ冒頭主題の音型は紛れもなく葬送行進曲である(ベートーヴェンの『英雄交響曲』の第2楽章も同じスタイルの葬送行進曲である)。この葬送行進曲(ホ短調)の部分と、3連音符の伴奏の上に甘美な旋律が歌われる部分(1回目:ト長調/2回目:ホ長調)が交互にあらわれる(A-B-A-B’-A)構成。
レヴィツキ伯爵夫人に献呈。

第6番 変ニ長調
演奏効果の高さからしばしば演奏される作品。Tempo giustoの指示と決然とした開始はこの曲集では珍しい例である。変ニ長調の導入部分に続いて嬰ハ長調(変ニ長調と異名同音のため実質的には変わらないが、リストはわざわざ調号の変更を行っている)で軽快な主題が極めて速いテンポ(Presto)で提示される。中間部は変ロ短調で、細かい装飾やフェルマータの多用によって拍節感を曖昧にしている。ヴェルブンコシュの演奏スタイルを記譜した好例といえよう。後半では変ロ長調に転じ、第5番に見られたようなオクターヴ奏法と単純な伴奏型のスタイルによって華々しく楽曲を閉じる。
アッポニー伯爵に献呈。

第7番 ニ短調
「熱烈なジプシーのスタイルで演奏せよ」というリストの指示のとおり、遅いテンポ(Lento)で細かい装飾音符でうめつくされた前半部分と、急速なテンポ(Vivace)による激しい後半部分との2部構成。ジプシー音楽のスタイルを簡潔に模倣した楽曲の1つである。
フェリ・オルチ男爵に献呈。

第8番 嬰ヘ短調
第7番と同様、遅いテンポによる細かな装飾音型の前半(Lento a capriccio嬰ヘ短調)と、テンポの速い後半(Allegretto con grazia-Presto giocoso assai嬰ヘ長調)からなる単純な2部構成。
A.D’ アウグス氏に献呈。

第9番 変ホ長調「ペシュトの謝肉祭」
ペシュトとは現在のハンガリーの首都「ベダペシュト」の「ペシュト」のことである。ドナウ川を挟んで西側の丘の上に位置する「ブダ」に対し、東側の「ペシュト」は平野で経済的に発展した町であった。「謝肉祭」はキリスト教(主にカトリックの地域)のお祭りで、四旬節(復活祭の46日前)の前に行われる。そのメイン・イベントは大規模な仮装行列で、この作品はそうした雰囲気を模写していると考えられる。
Moderatoで開始される比較的緩やかな前半は、遅いLassanの音楽とは異なっており、楽曲の重点はFinaleと添えられたPresto以降の部分に置かれている。ファンファーレ風の開始は仮装行列の開始を告げるラッパのようでもある。
緩・急の2部構成ではあるが、他のジプシー風スタイルの2部構成とは若干異なる面を見せている。
H.W.エルンストに献呈。

ヴァイオリニスト、ハインリヒ・ヴィルヘルム・エルンストに献呈。

第10番 ホ長調「前奏曲」
華やかな上昇音形が主体となって楽曲全体が構成されており、冒頭の急速な音階パッセージはその根源となっている。AndanteからAllegretto、Vivaceへと段階的にテンポを速めてゆき、最終的にVivacessimoにまで達する。中間部に「quasi zimbalo」と指示されたツィムバロムを模した音楽が挿入されている。
エグレッシー・ベニーに献呈。

第11番 イ短調
ツィムバロムを模したトレモロの音型に始まる(第10番同様quasi zimbaloの指示)。楽曲構成は緩やかな前半(Lento a capriccioイ短調-Andante sostenutoイ長調)と急速な後半(Vivace assai嬰へ短調-Prestissimo嬰ヘ長調)からなる2部構成である。前半部分では細かい音価による即興風の音楽が繰り広げられるが、装飾音符での記譜は避けられており、32分音符や64分音符などの細かな音価で記譜されている。
フェリ・オルチ男爵に献呈。

第12番 嬰ハ短調
前打音が特徴的な力強い主題による導入と、この主題による遅いテンポの即興風パッセージを経て、Allegroのジプシー風主題(ホ長調)、鐘を模したパッセージなどがあらわれる。冒頭の前打音を強調した主題が回帰した後、速い変ニ長調(嬰ハ短調の同主調の異名同音への読み替え)の部分(Allegretto giocoso-Stretta Vivace)に突入する。最後に1小節だけAdagioになり、前打音を伴う主題が再現されるが、すぐにPrestoとなって劇的に楽曲を閉じる。
ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムに献呈。

第13番 イ短調
やはり遅いテンポの前半(Andante sostenuto-Piu Lento)と速いテンポの後半(Vivace-Presto assai)からなる明快な2部構成の楽曲。それぞれの部分がイ短調の前半とイ長調の後半からなる。
レオ・フェステティックス伯爵に献呈。

第14番 ヘ短調
増2度進行が特徴的な葬送行進曲(Lento quasi marcia funebre)で開始され、同主調(ヘ長調)で英雄的な行進曲(Allegro eroico)へ至る。そしてニ長調、ホ長調と転調しながら動機を発展させると、今度はジプシー風の音楽がイ短調で展開される(Allegretto a la Zingarese)。更に変ニ長調の即興風パッセージなどを経て、ヘ長調の急速な音楽(Vivace assai-Presto assai- Allegro brioso)で締めくくられる。同曲集中で最も調性的発展が顕著な楽曲であり、構成も多少複雑である。
ハンス・フォン・ビューローに献呈。

第15番 イ短調「ラーコーツィ行進曲」
「ラーコーツィ行進曲」はハンガリーの民謡として伝わっていた旋律で、ラーコーツィ・フェレンツ2世のお気に入りだったことからこの名で呼ばれている。ベルリオーズも『ファウストの劫罰』の中でこの行進曲を書いている。原曲は無名の音楽家によって17世紀後半頃に作曲されたと思われるが、正確なことはわかっていない。

第16番 イ短調
Allegroの導入と遅いテンポの前半、速いテンポの後半からなる2部構成。導入部に続いてカデンツァが挿入され遅いLassanの部分になるが、この中で幾度もカデンツァが挿入される。導入主題が回帰してすぐにAllegro con brioの速い部分に突入する。イ長調、嬰ヘ長調と経由してイ長調に終止する。
画家のミヒャエル・ムンカーチに献呈(ムンカーチ展のために作曲)。

第17番 ニ短調
遅いテンポのLentoからニ長調のAllegretto、Un poco piu animatoと徐々に加速し、楽曲の最後までテンポをどんどん速めてゆく(poco a poco piu animato sin al Fineの指示)典型的なジプシー音楽のスタイルで書かれている。
ジプシー音階がかなり意識して用いら、終結音も変ロ音となっており、調性的な音の進行、選択は意図的に避けられているように思われる。

第18番 嬰ヘ短調
遅いLentoのLassan、速いPrestoのFriss(Friska)の極めて単純明快な2部構成。嬰へ短調にはじまり嬰ヘ長調で締めくくられる。
ブダペシュト・ハンバリー展覧会(1885年)に際して作曲。

第19番 ニ短調
アブラーニの「高貴なチャールダーシュ」による。同曲集最後の曲であり、リスト最晩年の作品である。やはり遅いLentoのLassanと、速いVivaceのFriss(Friska)の明快な2部構成。
調性はニ短調に始まりニ長調に終止するが、導音と半音高められた第4音が強調されており、意識的にジプシー音階が用いられている。
演奏のヒント 2017年3月  執筆者: 大井 和郎
第3番 変ロ長調

 このハンガリー狂詩曲は、全19曲の中では比較的技術面が楽な曲です。フリスカの部分も無く、途中、allegretto の部分はあるものの、とてもゆったりした曲として作られています。この曲には3つの異なった世界が共存します。重々しく悲痛な歌の部分、ギターを描写したような細かい音の部分、ハンガリーの民謡に基づいたリズミカルで活気のあるヴァイオリンの部分の3つです。それぞれ別世界のように扱います。

 まず冒頭は重々しい悲痛な歌から始まります。この部分は1小節目から16小節目までとします。この16小節間は2つの部分に分けることができ、それぞれ、1-8小節間、9-16小節間に分かれます。

 1-8小節間、9-16小節間は、それぞれ、さらに3つの部分に分けることができます。1-8小節間から見てみましょう。冒頭アーフタクトから始まり、2小節目3拍目までが1つめの素材です。

 pesante espressと書いてありますのでその通りに弾くのですが、筆者が見ているブダペスト版には1-2小節目にペダルマークが書いてあり、1小節ずつ踏み続ける指示があります。しかしこの通りに踏むと特に2小節目はかなりの濁りが生じます。1-2小節間は、ほとんどペダル無しで良いと思います。

 2小節目4拍目より、2つのセクションに入ります。これは4小節目の3拍目までとします。この間、メロディーラインの左手はオクターブになり、音量は少し大きくなります。この2つめのセクションではオクターブが故にどうしてもペダルが必要になります。8分音符の部分は、8分音符2つにつき1回ペダルを変えると良いでしょう。

 そして3つめのセクション(4小節目4拍目より、8小節目4拍目まで)は再び単旋律に戻るものの音量的には今までで最も大きくなり、6小節目でピークを迎えた後は8小節目までdiminuendoをかけます。

 これら3つのセクションから構成される、重々しい悲痛な歌の部分は、39小節目でもう一度登場しますが、今度は最初からオクターブになり、1回目(1-16小節間)より更に音量は上がります。

 これら、重々しい悲痛な歌の部分で1つヒントを述べますと、それは現代のピアノと当時のピアノの違いを認識することにあります。音があまり伸びなかった当時のピアノで書かれた楽譜を現代のピアノで弾けば、過剰な位大きな音が出てしまい、結果、何の音が鳴っているのかさえ解らなくなるほど混沌としてしまうという事を解らなければなりません。結果、書かれてあるペダルマーキングも鵜呑みにしてはいけません。あまり大きすぎず、何の音がなっているのかはっきりと聴かせるように演奏してください。

 さて、2つめの異なった世界の1回目は17小節目から22小節目までとなります。これは明からにギター系の楽器を描写している部分です。即興的要素が欲しい部分でもあります。ソフトペダルも踏んで見ましょう。少しぼやけた感じでも構わないと思います。とにかく、それまでの部分とは打って変わってカラーを変えて演奏します。

 3つめの部分は23小節から27小節間になります。これはppからスタートするものの、いても立ってもいられないテンションの高さを表しています。楽器は恐らくヴァイオリン系であると思われます。故にアーティキュレーションを守り、この部分も即興性が欲しいところです。

 26小節目からあ38小節目までは、17小節目から27小節目までの単なる繰り返しに過ぎません。

 しかし、オクターブが加えられ、テンションはより高まります。

 39小節目で、再び1小節目に出てくる重々しい悲痛な歌が登場します。54小節目においては、2つめのギターの世界に出てくる旋律の一部が右手に、重々しい歌の断片が左手に合わさります。そして60小節目でピークを迎え、62小節目から64小節目まで別世界の記憶がよみがえり、65-66小節とクレシェンドでドラマティックに終わります。
演奏のヒント 2017年3月  執筆者: 大井 和郎
第5番 ホ短調

 このハンガリー狂詩曲は、19曲中比較的技術面では難易度はそれほど高くない曲です。曲は悲しみに満ちあふれたメロディーが何度も繰り返されます。またこの曲は現実と幻想が交互に脳裏に蘇ります。曲は大きく分けて3つのセクションで構成されています。1 悲しみの歌 2 2つめの悲しみの歌 3 愛と希望 としておきます。これは単なる比喩の一例に過ぎませんのでその旨ご理解下さい。

 冒頭から8小節目までは、悲しみの歌が始まり、この曲の主題となります。2小節目の2拍目までが一区切りですので、2拍目裏拍の16分音符は新しいものといて扱います。故に、ペダルは一度そこで離してしまい、サイレントを入れます。4小節目の2拍目裏拍も同様です。2小節目の3拍目を見ると、上行系の16分音符があります。2小節目、メロディーラインはCに達します。4小節目、メロディーラインはDに達します。5小節目、メロディーラインは4拍目裏拍でEに達し、6小節目1拍目表拍でFに達します。Fに達した後は徐々に下行しますので、この6小節目がピークポイントと考えます。

 9小節目から16小節目までの8小節間、1小節目から8小節目までのメロディーの変奏となります。

 ただし、左手の伴奏形を見ますと、1拍目と3拍目の表拍に音符が無く、代わりに16分休符がありますね。これは少しAgitato気味になる感情表現です。テンポは若干速くても良いのではないかと思います。

 17小節目、G-durで2つめの悲しい歌が始まります。Durは楽しいと単純に思ってはいけません。

 例えば、シューマンの幻想曲の第1楽章もdurですが、悲しみの表現です。この部分も同じです。

 しかしながら1つめの悲しみの歌よりもより幻想的です。そして夢うつつの部分でもあります。このセクションが現実に引き戻されるのが、24-25小節間です。カデンツを終え、再び1つめの悲しみの歌に27小節目で戻ります。

 34小節目3拍目までは1-8小節間と全く同じですが、34小節目4拍目より、変奏の種類が新たになります。非常に感情表現が強い部分です。

 42小節目、再び2つめの悲しい歌になりますが、今度はE-durで、それと例えば44小節目2拍目に出てくるDの音など、少し雰囲気が異なります。46小節目にいたり、メロディーラインはオクターブになりますが、それも束の間再び50小節目で現実に引き戻されるかに思われます。しかしながら、51小節目からは、希望と愛に満ちた歌が始まります。

 この51小節目から73小節目までが、この曲中で唯一、希望や愛、または過去の素晴らしい記憶が蘇る部分です。そして77小節目に至り、再び1つめの悲しい歌に戻り終わります。

 70小節目、1拍目の左手和音は手がなかなか届かないと思います。一番上のCisのみ、右手で弾くと良いでしょう。

 82小節目、右手の和音はf-mollの和音で、とてもショッキングな和音です。本来はF-durの和音が来るべきで、これがこのe-mollのナポリの6になっていました。82小節目だけはそれがありません。
演奏のヒント 2017年3月  執筆者: 大井 和郎
第10番 ホ長調

 このハンガリー狂詩曲は後半興奮の坩堝と化します。気が狂ったように踊り続けるジプシーの様子を表現できます。非常に派手な曲ですのでアンコールなどにはとても良い曲になります。

 冒頭3小節から既に派手に始まります。3つの上行形音階のカデンツが1小節ずつあります。これらの音階を弾くコツとしては、全部の音に1回ずつ力を入れず、最初と最後の2-3個の音のみ力を入れます。途中の音は伴盤の奥深くまでがっちりと弾く必要はありません。できる限り速く、軽く音階を上行することが重要です。

 ダイナミックは勿論、この場合1小節目よりも2小節目、2小節目よりも3小節目の方が大きくなりますが、だからといって1小節目を地味に始めてしまってはインパクトがありません。各小節の1拍目は4分音符であることに注目して下さい。そして、小節が後ろに進むにつれ、これら4分音符の長さを少しずつ長めに取ると良いでしょう。故に、3つめはブローディングをかけ、4分音符で十分時間を取って弾くと良いです。

 6-7小節間よりも、8-9小節間の方を多少大きめのダイナミックでこちらも強く、華やかに演奏します。しかしながら、10小節目はdolce con eleganza であることを忘れず、柔らかく、弱く演奏します。

 14-21小節間は、6-13小節間の変奏のようなもので、内容は同じです。

 22小節目からは新たな素材が登場しますがレガートの部分はペダルを使ってレガートに(22-23小節間)、またleggiero の部分は軽やかに(24-25小節間)、表現を強くする部分は表現を強く(26小節)、それぞれのキャラクターを出して下さい。以降、40小節目まで決して重たくならず、またあまり音量を出しすぎず、軽やかに、流暢に演奏します。

 40-47小節間、カデンツです。即興的に。48-63小節間、ゆっくりから徐々にテンポを上げ、テンションを高めていきます。しかしながら終始ドルチェ、leggieroで重たくならないようにします。

 64-81小節間、ギター系の楽器の描写です。78小節目からクレシェンドがかかりますが、同時にテンポも速めていき81小節目に達すると良いでしょう。

 82-88小節間、3つの和音によるカデンツです。82小節目が1つめの和音、83小節目が2つめの和音、そして84小節目が3つめの和音になり、これが再び86小節目より繰り返されます。3つめの和音は2つめの和音の解決音のように思われるかもしれませんが、音楽は前向きにクレシェンドがかかります。3つめの和音を最も大きくするようにしましょう。

 89小節目より108小節目はグリスアンドによる技巧の見せ場です。注意しなければならない点はリズムにあります。グリスアンド以外の音を弾くと2拍子によるリズムのからくりがわかります。

 全てのリズムは守った上でのグリスアンドになります。

 109小節目より徐々にテンポと音量が上がりますが、109小節目で既に音量はかなり大きくても構いません。125小節目までstringendoも兼ねながらテンションを高めていき、125小節目に達します。

 125ー148小節間、この曲中最もテンションの上がるところで、テンポもできる限り速く弾きます。

 しかしそうなるとやはり左手の10度の音程を速く弾くのがなかなか難しいと思います。そこで1つ練習方法を伝授します。125小節目を例に取ります。1拍に4つの16分音符が入っています。これを表拍からHとDis、DisとFisというようなペアで練習すると困難です。ここは16分音符1個分をずらして練習します。すなわち、1拍目16分音符2個目のDisと3個目のDis、次のFisと2拍目最初のFis、次のAとオクターブ下のAというように、オクターブの音をペアにして練習します。

 そのときに重要なのは、例えば1拍目2つめの16分音符であるDisを1の指で弾いたとき、その指を上げずに、押さえたままにした状態で下の方のDisを5の指で弾きます。1の指を残すことで、5の指がどのくらい離れた位置にあるか、指に記憶させます。以下同様に、オクターブは全て1の指を残して5の指を弾く練習をします。

 このセクション、速いテンポになると5の指がどうしても弱いので、かすれがちになります。速いテンポでも5の指がしっかりと弾かれる為には、5の指の形を決して伸ばさず、アーチ状にして練習をすることで、がっちりその伴盤に入れることが可能になります。

 144小節目からは更にテンポアップをして、最後の和音までテンポと音量を最大限に上げます。
演奏のヒント 2015年11月  執筆者: 大井 和郎
第13番 イ短調

 まず最初に、作曲家達はそれぞれ独自の「癖」を持って楽譜を書くという事を知らなければなりません。声部の進行が矛盾していたり、テンポマーキングが異常に細かかったり、スタッカートをテヌートの代わりに使ったり、ととにかく本当に色々な癖があります。フランツリストもそのような意味で、いくつかの独自の癖がありますが、その1つにタイミングのいい加減さがあります。誤解して頂きたくないのは、リストが決して、リズム的に矛盾するような楽譜を書いているという事ではないと言うことです。むしろそのような意味では他の作曲家よりもきちんと音価を書いています。問題は演奏法にあります。

 この曲の説明の前に、12番の冒頭をご覧下さい。問題は3小節目と6小節目にあります。

 この2箇所の、ほぼ休符がある小節をきちんと数えて弾いているピアニストは恐らく1人もいないのではないかと思います。1小節目から4拍数えながら弾くと、まず2小節目で相当長いトレモロを強いられ、いささか不自然な感じを受けます。そして3小節目でさらに同じテンポを数えると、3小節目のサイレントが異常に長く感じられるはずです。同じ事が4-6小節間に言えます。ほとんどのピアニストは3小節目と6小節目をきちんと数えず、次の小節に走ってしまいますが、それは聴いていて全く不自然に聞こえません。

 それでは当のリスト本人はどうしていたかと訊かれても困りますし、音源も残っていませんので何とも言えないのですが、例えば「オーベルマンの谷」という曲は、Lento と書いてあります。ところが、これを真に受けると本当に大変な事になってしまう曲です。このような、作曲家の癖というのは、その作曲家の作品を多く弾き、言語を学び、癖を学び、多くの矛盾も自然な形で演奏されるよう勉強をしなければなりません。

 年齢の若いピアニストは、多くのレパートリーをコンクールで要求されますので、バロックから現代までスタイルを知っていなければなりません。しかしながら、1人の作曲家にターゲットを絞って勉強し、癖を学び取るには相当の時間を要します。そのような意味から、全部の作曲家に精通しているピアニストが存在すること自体無理があると感じます。よって、ある作曲家に強いピアニストはその作曲家を知り尽くしており、それは少しだけその作曲家を勉強したピアニストとは知識面や言語を理解する意味でも到底比較にはなりません。

 話を戻し、この13番の解説になります。この13番の1-99小節間をメトロノームに近い演奏をすると本当に大変な事になります。勿論、各拍や裏拍、タイミング等全て解っている上での話です。

 リストはこの1-99小節間に細かいテンポチェンジの指示を書いています。しかしそれをよしんば守ったとしても、音価をきちんと守って弾く演奏が如何に不自然な演奏になるかよく解ると思います。筆者は、1-99小節間を演奏するにあたり、柔軟な即興性が必要に感じます。そしてそれは多くの条件に合わせて変化させ、不自然さを取り除いていかなければなりません。

 もう一度言います。勿論何処が1拍で何処が2拍目で何処が裏拍でときちんと解っていなければなりませんが、実際に弾くとき、乱暴な考えではありますが、小節線はほぼ無視しても構わないのではないかと感じます。それほど即興性が重要視されます。

 さて、筆者の日本語能力でどれほど1-99小節間を説明できるか自信がないのですが、冒頭から見ていきましょう。

 冒頭のゴールは4小節目1拍目のEです。1小節目、2オクターブ下のEから始まり、4小節目のEに達します。1小節目のEは裏拍から始まり、アクセントが付いていますね。その下には、malinconico と書いてあります。悲しみに満ちあふれてという意味です。故にこのEは決して弱々しい音ではなく、装飾音を含め、心にグサリと刺さるような音で弾きます。そこから即興的にルバートを使い、3小節目のritenを守り、4小節目のEに達します。4小節目と5小節目は全く同じ事が繰り返されますが、どこかを異ならせるように弾いて下さい。

 これら4小節目、ピークは1拍目表拍になり、ここが最も大きくなります。その後は徐々に衰退していきます。5小節目も同じです。6小節目、ピークは2拍目表拍、7小節目、ピークは2拍目表拍になり、8小節目の1拍目の和音は7小節目の解決であると筆者は感じますが、8小節目の1拍目表拍をゴールに持ってきても構わないと思います。

 9-10小節間、4-5小節間と同じように各小節それぞれ、1拍目表拍がピークになります。しかしながら9-10小節間では、11小節目に向かいますので、9よりも10、10よりも11を大きくします。

 11小節目に達したら、更に12小節目2拍目に向かってクレシェンドをかけ、そこから先の13-15小節間でdiminuendoになります。

 16-24小節間は、4-15小節間の変奏のようなものです。勿論16-24のほうが大きく、厚みもあります。

 25-16小節間durになります。poco piu mosso ですので少し動きを付けます。しかしながら軽やかに、華やかに、決して重たく強くならないように気をつけます。

 37小節以降、暗い側面と明るい側面が入り乱れます。そして多くの変奏が入り、それらは多くの細かい音符によって書かれています。この辺り、まだまだ大きくはなりません。常に「透明感」を持って弾いて下さい。フォルテマーキングはほとんど無く、あってもメゾフォルテです(47小節目)。その他はp と dolce が基本になります。

 本当にクレシェンドがかかるのは相当先の72小節目からになります。とても情熱的な部分です。82小節目をゴールに定め、徐々にテンションを上げて下さい。この82小節目と、83小節目の右手のカデンツはやっかいな部分となります。気持ち的にはとても高揚していますのでなおさら崩れやすい部分です。冷静に練習をして下さい。

 84小節目から再びpとdolceの世界になります。物語が終わるように、場面が徐々に消えていくように、あるいは舞台に幕が下りるように99に向かって衰退していきます。

 ここから先(100小節目以降)はフリスカになります(ジプシーの音楽で遅い部分をラッサン、早い部分をフリスカと言います)。学習者はまず、サラサーテのツィゴイネルワイゼンを聴いてみて下さい。正にその部分となります。テンポは自由にルバートをかけ決してメトロノームのようには弾きません。テンポは速く2拍子ではありますが、小節線などほぼ必要が無いくらい、崩して構いません。165小節目以降、変奏になります。1拍間、4つの16分音符はハッキリと4つきこえるように正確に弾きます。ここからテンポを徐々に速めていきますが、200小節目に達したらさらに速めなければなりませんので、165小節目のスタートはわりとゆっくりと始めます(そうしないと以降どんどん速くなりますので辻褄が合わなくなります)。そしてテンポは、最後の小節である259小節目まで速くします。途中でゆっくりしたり、止めたり、聴いている人たちに一息つかせてはいけません。これがハンガリー狂詩曲の演奏のコツです。決してテンションを緩めずどんどん圧迫していきます。終いには、頭がおかしくなってしまう位の興奮の坩堝を聴かせなければなりません。多少のミスタッチなど気にせずに、一気に、これ以上は派手になれないほど派手に、終わって下さい。

コンサート この曲が演奏されるコンサート

  安田幸希子&村上裕亮 ピアノデュオコンサート
 [後援]
2017年07月2日 14時00分
岡山/ 浜松ピアノ店3階ホール
  Potpourrise Piano Concert
 [後援]  [ピティナ会員]
2017年07月22日 14時00分
京都/ JEUGIA 大宮 アマデウスサロン
  江草千枝・江草里枝ピアノリサイタルVol.6
 [後援]
2017年09月24日 03時00分
広島/ リーデンローズ 小ホール
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 [後援]
2017年09月24日 03時00分
広島/ リーデンローズ 小ホール
  Artists of the Next Generation ~次世代の音楽家達~
 [後援]  [ピティナ会員]
2017年10月22日 15時00分
茨城/ ヤマハミュージックアベニューつくば

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