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バッハ  :  フランス組曲 第5番 ト長調
Bach, Johann Sebastian  :  Französische Suiten Nr.5 G-Dur  BWV 816
ピアノ独奏曲 [pf/ 組曲

作品概要

楽章・曲名 演奏時間
1 アルマンド  /  Allemande  3分 00秒 譜例
2 クーラント  /  Courante  1分 40秒 譜例
3 サラバンド  /  Sarabande  4分 50秒 譜例
4 ガヴォット  /  Gavotte  1分 00秒 譜例
5 ブーレ  /  Bourree  1分 20秒 譜例
6 ルール  /  Loure  2分 20秒 譜例
7 ジーグ  /  Gigue  3分 20秒 譜例
17分 30秒
作曲年:about 1722-25
出版年:1806
初出版社:Hoffmeister & Kühnel

楽曲解説

総説 2008年4月  執筆者: 朝山 奈津子
 バッハは6曲の「フランス組曲」を書いている。バッハ自身は「クラヴィーアのための組曲」と名付けており、「フランス組曲」なる命名者は判っていない。おそらく、この組曲が優雅で親しみやすく洗練された音楽になっており、フランス的な感覚が盛りこまれているためにこう呼ばれるようになったものだろう。作曲年代についてもはっきりしていないが、1722年頃と推定されている。それは、バッハが最初の妻と死別後、2度目の妻アンナ・マグダレーナと1721年に結婚し、彼女に最初に贈った曲集「クラヴィーア小曲集」(1722年)に、このフランス組曲の第1~5番の5曲が含まれているという理由からである。
 いずれも数曲の舞曲より構成され、アルマンド、クーラント、サラバンドと続き、最後はジーグで締めくくる。これら4つの舞曲は、17世紀後半に確立された鍵盤組曲の古典的定型を成す。バッハは当時の慣習に従い、これらの舞曲がすぐにそれと判るような典型的な音型や語法を曲の冒頭から用いている。
 アルマンドはフランス語でドイツという意味の語で、4分の4拍子、上拍に始まる。落ち着きを保ちつつ淡々と途切れることなく進む舞曲。クーラントはやや速いテンポの活発な舞曲で、フランス式では2分の3拍子もしくは4分の6拍子、イタリア式では4分の3拍子もしくは8分の3拍子である。サラバンドはスペイン由来の3拍子の舞曲で、連続する2小節をひとまとまりとする。荘重で重々しく進む。ジーグはイギリスを発祥とする軽快で速い舞曲。本来の拍子は8分の3、6、12のいずれかだが、バッハは4分の4で1拍を3連符に分割して記譜することもあった。
 舞曲の配列は、バッハの時代にはA-C-S-Gが定型となっていたが、サラバンドとジーグの間にさまざまな「当世風の舞曲」を挿入することが許された。代表的なものに、エール、メヌエット、ガヴォット、ブーレなどがある。エールは、イタリア語で言うアリアのことで、歌謡風の音楽。従って、エールは本来より舞曲ではなく、舞曲による組曲の中にしばしば挿入された器楽曲である。メヌエットは、フランスに生まれ上流社会で流行した優雅で気品漂う舞曲。落ち着いた4分の3拍子で、後にハイドンが交響曲に採用している。なお、通常は見かけの上で二部に分かれ、反復を含めるとメヌエット-トリオ-メヌエット・ダ・カーポの形式になる(中間がトリオと呼ばれるのは、宮廷舞踊において中間部分にオブリガート楽器を用いてトリオ編成にし、響きに変化をつけたことに由来する。鍵盤組曲では必ずしも3声部で書かれているとは限らない)。ガヴォットは、やはりフランスに生まれ上流社会で流行した明るく快活な舞曲。通常4分の4拍子で、第3拍目から始まる。第5番に現れるブーレはフランス起源、2拍子の軽快な舞曲で、宮廷でとりわけ好んで踊られた。
 フランス組曲6曲中、前半3曲が短調、後半3曲が長調で、ひとつの組曲は調的に統一されている。

 第5番はバッハの組曲創作のひとつの頂点とも言うべき作品である。ほぼすべての楽章で、前半と後半の終結の形が統一される(M.ゲックはこれを「脚韻」と呼んでいる)。そのため、ひとつの楽章の印象が鮮明になり、楽章間の対比が鋭くなる。各楽章が比較的長く、6つの組曲中で最大の規模となっているにも拘らず、少しも冗長さを感じさせない。
 冒頭楽章アルマンドはモテットタイプの典型をみせる。声部数は定まらないが充溢感のあるテクスチュアの中で、動機が自由に展開されるようなものをこのように呼ぶ。バッハはプレリュードやファンタジア、またアルマンドでしばしばこうしたタイプのもの書法を用いている。この第5番のアルマンドは声部声部数の増減が激しく、2声のみになる部分も多いが、保続音の効果によって実際の声部数以上の重なりや遠近感が生み出される。奏者が各動機をどのように扱うかによって演奏効果に大きな違いが現れ、聴くたびに新たな発見や驚きがある、という点で、バッハの鍵盤曲の最高傑作のひとつである。
 クーラントはひじょうにテンポの速い、走り回るような躍動感に支配される。音域と保続音が効果的に用いられており、一度聴いただけでも、走句が広がってはまた集まる図形が像を結ぶ。終止音は前半も後半も単音となり、その唐突さがユーモラスですらある。
 サラバンドはきわめて表出的なアリアである。3声が厳格に維持されるが、右手高声部のモノローグに中声部と左手声部がゆったりと従う。
 第6楽章の挿入舞曲ルールはもと、劇場用の技巧的な舞踊で、ゆったりとしたテンポながら、大回転や複雑なステップを含んでいた。器楽曲でもその特徴を引き継ぎ、シンコペーション、ヘミオラ、8分-4分音符の弱起パターンなどを用いる。第5番第4楽章のガヴォットでもこうした複雑なリズムが随所に登場する。
 ジーグもまた組曲終楽章の典型である。休むことなく動き続ける中で、独特のリズムを持つ模倣主題は決して見失われることがない。3声フーガとしては比較的簡明な作りで、全編ほとんど2声テクスチュアを保つが、終結部でにわかに3声部に戻り、最終和音は5つの音が同時に響く。この長大にして優雅な組曲の終わりにふさわしく、壮麗かつ潔い終止である。

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