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リスト  :  巡礼の年 第2年「イタリア」
Liszt, Franz  :  Annees de pelerinage Deuxieme annee Italie  S.161/R.10  A55
ピアノ独奏曲 [pf/ 曲集・小品集

作品概要

楽章・曲名 演奏時間
1 「婚礼」  /  "Sposalizio"  7分 00秒  -- 
2 「物思いに沈む人」  /  "Il pensieroso"  6分 30秒  -- 
3 「サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ」  /  "Canzonetta del Salvator Rosa"   9分 30秒  -- 
4 「ペトラルカのソネット 第47番」  /  "Sonetto 47 del Petrarca"  7分 30秒  -- 
5 「ペトラルカのソネット 第104番」  /  "Sonetto 104 del Petrarca"  7分 30秒  -- 
6 「ペトラルカのソネット 第123番」  /  "Sonetto 123 del Petrarca"  5分 30秒  -- 
7 「ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲」  /  "Apres une lecture du Dante-Fantasia quasi sonata"  15分 30秒  -- 
46分 30秒
作曲年:1838-58
出版年:1858
初出版社:Schott

楽曲解説

総説 2009年9月  執筆者: 伊藤 萌子
《巡礼の年 第2年イタリア》は、1837年7月から39年11月にかけて、マリー・ダグー伯爵夫人とリストがふたりで滞在したイタリアでの印象をもとにしている。リストはかの地で、ダンテの叙事詩『神曲』などの文学作品や、ラファエロ、ミケランジェロの絵画など様々な芸術作品に触れた。その刺激を受けて作られたことは、全7曲の題名からも明らかである。なお、このイタリア滞在の様子は、1837年7月から41年の間、『ガゼット・ミュジカル』誌にて公開書簡の形で残された内容から伺い知ることが出来る(後に《音楽のバシュリエの旅書簡》としてまとめられている)。その他、このイタリア滞在の間に、3歳になった娘ブランディーヌとの交流や長男ダニエルの誕生、マリーとの不和の訪れ、また西洋音楽史上初となるリサイタル(1839年3月8日、ローマにて・リサイタルとは単独の演奏者による演奏会)の開催などがあった。
作曲は1839年までに第3曲目を除いて一段落していたと考えられているが、1858年になってようやく《巡礼の年報 第2年イタリア》としてまとめて出版された。

第1番「婚礼」 / "Sposalizio"
 ルネサンスの三大巨匠の一人、画家ラファエロによる、聖母マリアと聖ヨゼフの婚礼の場面を描いた『マリアの婚礼』にインスピレーションを受けて作曲された宗教的な作品で、明るく清澄な響きを特徴とする。

第2番「物思いに沈む人」 / "Il pensieroso"

同じくルネサンスの三大巨匠の一人、彫刻家ミケランジェロによって刻まれたフィレンツェにあるロレンツォ・デ・メディチの墓の彫像よりインスピレーションを受けている。(彫像はミケランジェロの擁護者であったロレンツォ・デ・メディチ、ジュリアーノ・デ・メディチの二人を表す。その二人を対照的に扱い、内省的なロレンツォの坐像の下には「朝」「夕」、外交的なジュリアーノには「昼」「夜」の裸体像が置かれている。)

第1番の明るさから一転、重々しく静寂さを帯びた曲調であり、同音反復によってそれが一層強調されている。なお、1866年に "三つの葬送頌歌" 第二曲 [夜] に拡大編曲されたことからも示されるように、本作品は「死」と関連づけられている。

第3番「サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ」 / "Canzonetta del Salvator Rosa"
 本作品のみ、約十年後に作曲された。カンツォネッタとは16世紀後半に流行した、軽い気分の小歌曲のことであり、第2番と打って変わって、非常に明るい曲である。題にあるサルヴァトール・ローザは17世紀のイタリアの画家、彫刻家、詩人。カンツォネッタの歌詞は「私のいる場所は変わるが、情熱は変わらない」という内容であるが、リストが載せた詩は実はボノンチーニによるもの。この歌詞の旋律は曲中様々な声部に現れる。

第4番「ペトラルカのソネット 第47番」 / "Sonetto 47 del Petrarca"
第5番「ペトラルカのソネット 第104番」 / "Sonetto 104 del Petrarca"
第6番「ペトラルカのソネット 第123番」 / "Sonetto 123 del Petrarca"


第4番から第6番は、イタリア・ルネサンスを代表する叙情詩人、フランチェスコ・ペトラルカ(1304-74)の代表作である『カンツォニエーレ』より。『カンツォニエーレ』はペトラルカがラウラへの愛を歌ったもの。また、ソネットとはイタリアで生まれた14行の定型詩を言い、「小さな歌」を意味しており、ペトラルカとダンテによって完成された。リストは第47番、第104番、第123番を採り上げて作曲した。
ほぼ同時期に歌曲(S.270)としても作曲されており(同一の旋律を持つ)、両方とも1846年に出版された。現在知られているのはその改訂版である。
第4番「ペトラルカのソネット 第47番」の詩の大意は恋にとらわれた心情を歌ったもの。その内容を受け、甘美な雰囲気を持つ美しい曲となっている。
第5番「ペトラルカのソネット 第104番」の詩は恋に落ちた喜びと苦しみの二面を歌うもの。先の曲よりドラマティックであり、単独で演奏される機会も多い。
第6番「ペトラルカのソネット 第123番」の詩は、地上で天使の姿を見たというくだりから始まり、恋の甘美さを歌ったもの。穏やかで優美な曲調は、続く「ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲」の激しさと対照的である。

第7番 「ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲」 / "Apres une lecture du Dance-Fantasia quasi sonata"
この曲集の最後を飾る第7番は、先の6曲に比べてはるかに規模の大きい作品である。圧倒的な迫力が魅力で、演奏会で取り上げられることも非常に多い名曲の一つ。題にあるように、ダンテ(1265-1321)の叙事詩『神曲』を読み、そこからインスピレーションを得て創作された。当初は二部構成《神曲への序説》の曲名で二部構成の作品で、1839年には演奏したという記録もある。何度かの改訂を経て、1849年に完成した。
 ダンテの『神曲』は、「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の三部から構成されている。本曲の冒頭では地獄の世界への幕開けのように、中世の多声音楽より「音楽の悪魔」と呼ばれる増4度音程の下行が、繰り返しあらわれる。増4度は1オクターヴをちょうど二等分することから忌み嫌われてきたが、リストだけでなく多くの作曲家が、悪魔や死など不吉なものを象徴する手段として用いている。激しい苦悩や葛藤の合間に美しく穏やかな旋律が聞こえてくる。最後は輝かしく締めくくられる。
演奏のヒント 2017年4月  執筆者: 大井 和郎
1. 婚礼

 まず最初に覚えておく大切なことが1つあります。この曲中に書かれいる全ての休符は、実際のサイレントではなく、ジェスチャー的、あるいは余韻を残すための休符であるとお考え下さい。この曲は多くの箇所で余韻を残さなければなりません。余韻は冒頭3-4小節間から始まります。ディミヌエンドマーキングがありますね。3小節目も4小節目も1拍目の裏拍に少しアクセントを付け、後は消えていきます。特に4小節目はカデンツと考えます。この4小節間、考え方としては1-2小節間が主となる歌のライン、3-4小節間はその歌に対する伴奏と考えても構いませんし、もう1人の歌手の「応え」と考えても構いません。

 1-2小節間のような旋律は、5-6小節間、10小節目、12小節目と頻繁に出てきます。このメロディーラインは同じ音価が(この場合4分音符)並びますので、ここは機械的にならないように注意します。それにはルバートを多く使い、テンポを揺らすことが秘訣です。

 1-8小節間はカデンツと考え、曲がスタートするのは9小節目と考えます。9小節目、11小節目、13小節目、15小節目、17小節目と次々に和音が入れ替わります。奏者はそれぞれの和音の響きに感じた感情を入れ、平坦にならないようにします。例えば15小節目は音色ががらりと変わるショッキングな部分です。音量を落とし、ソフトペダルを踏んでも良いと思います。この一連の和音の変化である9-18小節間、強弱関係の指示はありません。クレシェンドがスタートするのは19小節目からになるのですが、かといって9-18小節間の音量を全く変えないというのもおかしな事になります。ppp-pの範囲内で微妙に変化を試みて下さい。

 19小節目からは最初のクライマックスである27-29小節間に達するように徐々に音量を上げていきます。

 30-37小節間は再びカデンツと考えます。

 38小節目からは新たな旋律が登場します。実に厳かに、宗教的に、和声の変化に注意します。このセクションも大きな強弱の変化はありません。基本的にはp-pppの範囲内で強弱を付けます。ピークを迎える小節は2つあり、43小節目と57小節目になります。68小節目から、やっとクレシェンドがかけられ、同時にstringendoもかけ、74小節目にffで達します。75-77小節間、すぐに音量を落とし、77小節目からppで始まり、クレシェンドをかけ、最終的には111-112小節間のカデンツに到達するのですが、もって行き方が重要です。例えば92小節目にはフォルテシモがありますが、ここから先の道のりは遠いです。ここでフォルテの限りを出してしまっては後が収集つかなくなります。フォルテを抑え後のために温存しましょう。

 112小節目のフェルマータは個人的には余韻を残すのでは無く、サイレントととして時間を取ると解釈しています。113小節目からはritenuto il tempoとあり、少しゆっくり気味に進みます。120小節目の右手の8分音符は、レゾネンスです。決して急がず、ゆっくりとppで降りてきましょう。

 この手の曲はとにかくフォルテシモの影響によって固くなりがちです。どんなにフォルテの時でも基本的なシェーピング(フレージング)を忘れないようにすると良いです。また、右手の和音は1の指の力を抜くときれいなフォルテを出すことができます。
演奏のヒント 2017年4月  執筆者: 大井 和郎
2. 物思いに沈む人

 筆者はヘンレー版を見ています。ヘンレー版ではこの48小節の曲は2ページに渡って印刷されています。ヘンレー版をお持ちの方は左のページを、そうで無い方は1-22小節間をご覧下さい。

 この曲は恐らく後半の方が演奏しやすいと思います。23小節目から最後までは、ダイナミックマーキングが事細かに書いてありますが、左のページ(1-22小節間)では、後半に比べてあまりダイナミックのマーキングは書かれていませんね。1小節目アーフタクトにメゾフォルテが書かれており、以降クレシェンドマーキングやディミヌエンドマーキング、rinforz、スフォルツアンド、しか書かれていません。

 前半の難しいところはダイナミックのコントロールです。下手をすると平坦になりがちです。前半22小節間を大きく見たとき、恐らく17小節目辺りが最もテンションの上がるところで、それ以降は半音階で下行していきますね。仮に、14小節目からのメロディー音 B が最も強い音であると仮定した場合、その前のフレーズである、9小節目からのメロディー音Gは、rinforzと書かれてあっても次に来るBを想定し、少し余裕を残します。こうしてみると、1つのフレーズは4小節単位で進行していることが解ると思います。1-4小節間、5-8小節間、ともにメロディー音はEですが、1-4小節間よりも、5-8小節間をよりテンションを高くします。

 このように、ピークを迎えるポイントから逆算していくと、ダイナミックの配分が解りやすくなりますね。

 さて、音楽的なお話になりますが、この「物思いに沈む人」はどちらかというと、横に流れる音楽と言うよりは縦に割れる音楽かもしれません。イメージとしては「葬送的」とお考え頂き、威厳があり、重々しく、劇的要素も含ませて演奏します。

 また、ペダルに関してですが、例えば28小節目には、1小節間踏みっぱなしのペダルまーキングがありますね。これをまともに信じてしまったら大変な事になります。これらのマーキングはあくまで昔のピアノを想定したマーキングで、昔のピアノは現在のピアノのように音は伸びませんし、音の大きさもありません。例えば28小節目を演奏するとき、ペダルはこまめに変え、「何の音が鳴っているのか」はっきり解るような演奏にするべきです。場所によってはペダルが必要ではない場所もあるかもしれません。
演奏のヒント 2017年4月  執筆者: 大井 和郎
3. サルバトールロザのカンツォネッタ

 まさに歌曲です。歌の部分には歌詞が付けられていますので、どの部分が歌であり、どの部分が伴奏の部分が一目瞭然ですね。形式は3部形式で、1-26小節間がA 27-47小節間がB 48-75小節間がA になります。全般を通して、楽天的で明るい歌になります。しかし威厳を忘れず、ルバートをあまりかけず、どちらかというと淡々と前に進む曲になります。

 冒頭、特にダイナミックマーキングは書かれていません。5小節目で歌が登場しますので、そこからはメロディーラインを最も際立たせてハッキリと演奏しますので、逆に1-4小節間はおとなしめに始めると良いと思います。歌は2小節間のみになりますので(5-6小節間)、7-8小節間は再び大人しく演奏します。9小節目、歌はオクターブになりますが、2重唱ではなく、音量的に大きくなると考えます。

 15-16小節間、雰囲気をがらりと変えます。今までとは全く異なった柔らかなムードを作ります。後に、Aセクションは22小節目を目指してクレシェンドをかけていきます。

 27小節目からBセクションですが、ここからは平行調のFis-mollになります。メロディーラインはバスに出てきますので、バスの歌手に入れ替わった様子と考えて良いと思います。33小節目からは再びバリトン歌手が登場し、掛け合いになります。

 48小節目、再びAセクションに戻り、調もA-durに戻ります。
演奏のヒント 2015年12月  執筆者: 大井 和郎
4. ペトラルカのソネット 第47番

 技術的側面では3つのソネットの中で比較的弾きやすい曲ではありますが、音楽的理解が難しい曲です。この曲のキーワードは「裏拍」です。何故リストはこの曲で裏拍を多く使っているのでしょうか。まずその理解から始まります。これは後述します。

 そして、この楽譜に書かれている表示や用語を全部理解します。冒頭、con motoと書かれており、左手が始まる部分にはritenutoと書かれています。しかし先に a tempoは無く、さらに4小節目の終わりにrallと書いています。途中、molt cresc が書かれ、音符が徐々に上行している事から判断し、ゆっくりからスタートしてかなり加速し、再びゆっくりで終わる事が想像できます。

 13小節目から始まる歌の部分には、il cantoと書かれていますので、その場所はわかりますね。レチタティーヴォの後、12小節目よりリストは、Sempre mosso と書いています。つまり常に動きをつけるという事です。果たしてこの曲は、ゆったり、ゆっくり、流れる曲では無く、常に動いていなければならない曲です。そこでやっと「裏拍」の意味が理解できます。裏拍からメロディーラインが登場する曲は、agitatoである事がよくあります。独特な躊躇とでも言いますか、
表拍から始まるよりも緊張感があり、agitationがあり、落ち着きません。その「落ち着きなさ」を表現しなければなりません。奏者はそれを頭において、常に動きを付けます。

 メロディーラインの基本的なシェーピングは、例えば、13小節目2拍目から始まる主題は、15小節目の2分音符がピークとなりますので、ルバートはこの2分音符に向けて前へ進み、2分音符に達したら後ろへ引っ張るようにします。以下同様です。Des-durから始まる最初のセクションは、35小節目をピークポイントと考えます。フォルテは決して遠慮がちにならないように。

 36小節目から始まる次のセクションはG-durから始まりますが、44小節目からドラマがあり、シークエンスを辿りながら、48小節目でピークを迎えます。それまでの表示はcresce moltです。44-48小節間、音量を最大限に上げていきます。絶大なるドラマがあり、それは常に落ち着かなく、感情的です。聴いている人たちがおかしくなりそうな位にagitatoでピークに達するようにします。

 ペダリングは、楽譜に書かれてある通りで良いと思います。例えば22小節目から23小節目までを例に取りますと、歌のラインは22から23に繋がれていますが、23小節目のペダル指示通りに踏みかえると、メロディーラインが丁度表拍の部分で8分休符により切れてしまいます。ここからは筆者の個人的見解になりますが、筆者は23小節目でペダルを踏み変えた時、メロディーラインが切れても良いと考えています。26-27小節間を見た時、今度はタイで繋がれていることがわかりますね。タイでつないでいるラインと8分休符を入れてくるラインでは、ニュアンスが異なると考えますし、作曲家の何らかの意図があるはずです。勿論奏者によっては、フィンガーペダルによって休符が入っているのにも関わらず、メロディーラインをつなぐ奏者もいますが、これはこれで1つの考え方であると思います。
演奏のヒント 2015年11月  執筆者: 大井 和郎
5. ペトラルカのソネット 第104番

 この104番は、3つのピアノに編曲されたソネットの中では技術的にも音楽的も最も難しいソネットかもしれません。この104番は他のソネットよりも華やかな魅力がありますが、教師の皆様は学習者に対してまず、123番や47番など比較的技術が楽なソネットを最初に与えて様子を見た方が無難かと思います。123番や47番が決して易しいという意味ではなく、この104が異常に難しいという意味です。ここから先、このソネットを弾けるだけの技術と音楽歴を備えた学習者を対象にお話ししたいと思います。

 このソネット104がうまく弾けるか弾けないかは最初の4小節で決まると言っても過言ではないほど、最初の4小節は冒頭いきなり難易度の高い部分です。多くの人は左手の10度が届かないので、分散することになりますが、何しろテンポがAgitato assaiですので、かなり速く進みます。ここは強い左手の5の指が必要となる部分です。音楽的にも、右手のオクターブはペダルが濁らないように弾かなければなりません(内声も)。

 そしてこのソネットは、レチタティーヴォ(独唱の部分)というものを理解してなければなりません。例えば6小節目、その即興性が必要となる部分です。歌手の歌い方をできる限り真似てください。さてここから先、メロディーラインのシェーピング方法を助言いたします。7小節目から始まる主題ですが、まず、10小節目の3拍目、Aまで単旋律でペダルを入れて弾いてみてください。ここまでのフレーズは2つに分けることができ、1つ目は8小節目の3拍目、Eまで。それ以降が2つ目になります。1つ目のフレーズのゴールを、8小節目1拍目のGisに持っていきます。7小節目から数えると、丁度4つ目のGisになります。7小節目のダイナミックマーキングはフォルテですが、ゴールが8小節目に待っていますので、あまり大きくは始めません。そして8小節目のGisに引き寄せられるように向かってみてください。そして8小節目のGisに達したら、あとはゆっくり衰退してください。

 次に2つ目のフレーズですが、9小節目1拍目裏拍にはオクターブ上のEが待っています。ピアノという楽器は、オクターブに達するのに瞬間的に達することができるほど容易い楽器ですが、歌の人たちが大きな跳躍をするとき、かなり時間がかかります。それを真似て、オクターブ高いEには時間をかけて達してください。そしてまたそのEは決して大きすぎてはいけません。この2つ目のフレーズのゴールはこのEと考えても良いですし、10小節目1拍目のHと考えても構いません。もう1つの注意点は、9小節目3拍目裏拍から4拍目にかけて登場する8分音符3つです。この3つの8分音符は1つの流れで一気に弾きます(勿論ここだけ速くということではなく、1つ1つの8分音符に力をかけないという意味です)。

 10小節目のHに達したら、あとは徐々に半音階が下行するに従い、ゆっくり衰退します。これがこのソネットの基本的なシェーピング方法です。これを基本にして、後に出てくる多くの主題に使うのですが、勿論主題は色々な形になって表れます。例えば、stringendoと書いてある主題もありますし(46小節目)、rallent dolce dolenteと書いてある主題もあります(50小節目)。その場その場の状況に応じてムードを変化させます。

 技術的なサポートとしては、44小節目、3度が始まり、左手のHFisADisを弾いたらすぐ左手で、右手の3度の下の部分の音を担当します。そうすることで、3度がより安全に演奏できます。
演奏のヒント 2015年12月  執筆者: 大井 和郎
6. ペトラルカのソネット 第123番

 この曲の演奏のヒントは歌心に尽きます。他のソネットも歌心は必要ですが、この123番に限っては、特に歌唱力が伴になります。冒頭からその他の注意点などを追っていきます。
◉ 拍子は4分の4拍子で、3連符が伴奏になっています。2声のトレモロはオーケストラの中の弦がゆっくり奏でているように演奏します。このタイプの伴奏系が入ってきた時、曲はゆっくりと横に流れますが、決して流れを止めたり、あるいは急いだりしないように気をつけます。
◉ 6小節目の1拍目、メロディーのFは前の小節からのサスペンションです。2拍目で解決します。同じく7小節目1拍目、メロディーのGは前の小節からのサスペンションです。同じく2拍目で解決します。このような「非和声音」と「解決音」の区別をつけ、解決音でアクセントをつけたり、非和声音と同じ音量で弾かないようにします。以降、アパジャトゥラやサスペンションなどの非和声音がメロディーラインに多く出てきますので、同じ処理をします。
◉ 15小節目以降、切れることなく続いていた3連符は断片になり出てきます。3連符が連続しないところは、歌手が自由に歌える場所です。時間をたっぷり取り、自由に歌ってください。
◉ 16小節目以降に出てくる多くのアルペジオは、「どのように弾かれるか」でムードが決定します。あまり速すぎても鋭くなってしまいますし、遅すぎると今度は実音と聴き分けができなかったり、重たくなったりしますが、あくまで伴奏系ですので、柔らかく、軽く、弱く、速すぎないように気をつけるとよいでしょう。
◉ 31小節目、グリスアンドのようにスムーズに降りてきてください。ここも急ぐ必要はありません。33小節目、もう一度同じことが起きますので、1回目とは異なる演奏法が望ましいです。
◉ 41-44小節間、仮説に過ぎませんが、オルゴールをイメージしても良いでしょう。その場合、オルゴールのように、機械的で、シェープもしませんし、ダイナミックも変えません。44小節目、ゼンマイが緩んでくるように遅くなっても良いと思います。
◉ 45小節目、夢の世界です。右手はpppで。左手は、メロディー以外をpppで演奏します。
◉ 57小節目は、56小節目からのstringendo moltoで相当速くなりますが、58小節目に入った時、テンポを理に叶わせて下さい。つまり、58小節目は3連符が無くなりますので、8分のスピードになります。58小節目で速すぎないようにします。
◉ 80小節目のritenutoは84小節目まで続きます。そこまで点線が書いてありますね。83-84小節間、かなり遅いテンポになります。十分時間を取って下さい。
演奏のヒント 2015年11月  執筆者: 大井 和郎
7. ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲

 この曲を演奏するにあたり、典型的な誤解や間違いを例に挙げ、注意点としてお話ししたいと思います。まず、35小節目からのペダリングに注目してください。35小節目からスタートしたペダルは、40小節目まで踏みっぱなしにするように指示が出ていると思います。この曲に限らず、多くの音楽でペダルマーキングが異常に長い楽譜に遭遇することがあります(ベートーヴェンのソナタやハイドンのソナタにもあります)。これは、昔のピアノと現代のピアノの違いと考えて良いと思います。昔のピアノは現代のピアノほど音は伸びませんでした。だからそのペダリングでも何ら支障は無かったと考えて良いと思います。ゆえに、現代のピアノでこのペダルマーキングに従った場合、必要以上の効果が出てしまい、何が何だかわからなくなったり、極端に濁りが気になったりします。奏者はそのようなペダリングの箇所に臨機応変に対応し、少くとも何の音が鳴っているか位はわかるようなペダリングにすることをお勧めします。

 ここから大切な流れを説明いたします。この曲を演奏するにあたって、最も重要なことです。奏者はこのような長い大曲を演奏する時、遥か彼方にゴールがあると考えなければなりません。そしてそのゴールまでは、上り坂や下り坂など様々な道がありますが、本当のゴールを見失うことなく、そして感情の起伏をもっと大きな見方で考えなければなりません。ちなみに、35小節目から始まる嵐は、一見115小節目で終わるように思うかもしれません。
それまでの流れと注意点です。

 まず52小節目が問題です。ここまでのテンポが異常に速い奏者で、52小節目に入ったとたん、多くの音符があるがゆえに、テンポをがっくり落とす奏者がいます。51小節目と52小節目のテンポは変わりません。奏者が52-53小節間を速く弾くことのできない場合、35小節目からのprestのテンポを落とし、52小節目に同じテンポで達して辻褄を合わせて下さい。同じことが77小節目にも起こり、そしてそれは90小節目で更にテンポを増すことになります。103小節目以降はグランディオーソ的にテンポを緩めても構わないとは思いますが、115小節目でTempo I になります。そこまで決して緊張感を緩めないような演奏が望ましいと思います。聴いている人の頭がおかしくなるくらいの怒涛の嵐を連続させ、圧迫し、安心する瞬間を与えてはなりません。

 115小節目、このカデンツの説明です。冒頭も同じではありますが、ここのマーキングはフォルテのままです。この115小節目に達するまで物凄い嵐があり、破裂した感情があり、絶大なドラマがありました。それがこの115小節で一気に冷めてしまう奏者がいます。人間の感情とはそう瞬間的に変わるものではありません。115小節目はそれまでの興奮が収まらないまま入ります。118-119でカデンツはdurで終わりますが、これがリストの威厳の部分、運命的な部分であって、叙情的な部分ではありません。dimが来るのは122小節目です。ここで少し気持ちが通常に戻り、124小節目以降こそ穏やかにはなりますが、筆者が演奏する場合、124-125小節間はまだ少し興奮が冷めやらぬ感情を持ちます。

 そしてそれが徐々に、126-127小節間でもう少し穏やかになり、更に穏やかになるのは、128小節目以降のpppの部分です。これら3つのシークエンスは、少しづつ穏やかに、だんだんと弱く、だんだんとゆっくりになって理にかないますが、しかしながら更に言うと、124-135小節間はまだ少しだけ、前の嵐の部分を引きずっています。何故なら、それは右手のリズムです。このリズムは、音価こそ違うものの、まさに35小節目からの嵐の、悲しみのリズムだからです。ゆえに、131小節目などはagitato的な感情でも良いと考え、本当に精神面で穏やかになる部分は136小節目以降であると考えます。

 これはほんの一例にすぎませんが、この曲のような大曲(長い曲)を演奏する際の注意点として、木を見ずに森を見るということが大切で、全体を見た時、その全体には繋がりがなければなりません。そして1つのストーリーとしてあるいはプログラムとして成り立たなければなりません。ところが断片断片で処理をしてしまうと、その断片にはつながりがなく、異なった多くの曲が1つになったように聴こえてしまいます。異なった多くの曲が1つとなって聴こえた場合、聴き手には同じ時間でも大変長く感じるものです。全体を大きく見て分析することが、大曲を仕上げるコツです。

音源 音源情報

Youtube PTNAチャンネル音源

外部動画

コンサート この曲が演奏されるコンサート

  ピアノ・エトワール・シリーズ アンコール! Vol.7 上原彩子ピアノ・リサイタル
 [後援]
2017年06月10日 15時00分
埼玉県/ 彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
  西﨑 仁美ピアノリサイタル
 [後援]
2017年06月25日 14時00分
岡山/ 岡山県立美術館

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