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リスト  :  「さまよえるオランダ人」のバラード(ワーグナー)
Liszt, Franz  :  Ballade aus dem "Fliegende Holländer" (Wagner)  S.441  R.274
ピアノ独奏曲 [pf/ リダクション/アレンジメント

作品概要

演奏時間 譜例  
6分 40秒  --- 
作曲年:1872

楽曲解説

総説 2015年3月  執筆者: 上山 典子
現在ワシントン D.C.の米国議会図書館に所蔵されている本編曲の自筆譜には、「1872 年1 月 2 日」の日付が記されている(整理番号:ML96. L58)。ワーグナーがドレスデンで≪さまよえるオランダ人≫を初演したのは 1843 年の 1 月 2 日だったことから、偶然か、あるいは意図してか、リストは原曲の初演からちょうど 29 年後の記念すべき日に、オランダ人の《バラード》を仕上げたことになる(リスト自身はワイマール宮廷楽長時代の 1853 年 2月 16 日に、《オランダ人》の全曲上演を成功させている)。
そしてこの編曲はワーグナーの原曲と同じベルリンのフュルストナー社から、翌 1873 年の 4 月ごろに出版された。その後 1884-92 年の間に 2 度のリプリント版が出され、1873-88年の間にはミラノのルッカ社からも出版された。
リストは原曲のような空虚 5 度音程、「オランダ人の動機」ではなく、第 1 幕第 1 場(第285 小節~)の「水夫たちの叫び」(ホー、ヘー、ホー、ヘー)を思い起こさせる短 2 度音型の前奏で開始し、そこに第 2 幕第 4 場、船長の娘ゼンタ(ソプラノ)によるト短調のバラードを続けた。リストはゼンタの主旋律に付点を加えるなど、原曲との微妙な違いを散在させている。また原曲の「Jo ho he」 のオクターヴ上行に代えて「オランダ人の動機」音程を用いたのも、リスト独自の判断に基づく。
しかしリストの《バラード》と原曲のもっとも大きな違いは、大幅に拡大されたコーダ部分にある。原曲では変ロ長調を 2 度繰り返すだけだが、リストは変ロ長調から変ニ長調、ホ長調、そして半音階を経て変ロ長調に戻るという大胆な転調を展開させ、原曲を完全に自由に扱い、華やかなクライマックスに仕上げた。(変ロ→変ニ→ホ→変ロの転調は短 3 度→増 2 度→減 5 度の音程によるもので、すなわち 3 半音→3 半音→6 半音(3 半音×2)というある程度の規則性を持つ。)
演奏のヒント 2017年8月  執筆者: 脇岡 洋平
 リストはワーグナーに限らず色々な作曲家のオペラをピアノ曲に編曲しましたが、実にその手法は様々です。原曲のスコアと寸分違わぬようピアノへと移し替えた「ピアノ・スコア」を初め、ローエングリンであったような抜き出し曲以外の部分を加えたり、自身の創作を加えたり、はたまたモチーフだけ拝借して自由な創作曲を書いたり。
 彼はそれらを作曲手法によってアレンジメント、トランスクリプション、ファンタジー、パラフレーズ、追想、などの名前を付けていきました。ローエングリンの4曲は極力創作は避け、原曲に沿って作られているので「アレンジメント」と分類されます。
 それらの名称のもとに、ピアノ用、オーケストラ用、室内楽用など、計350 曲以上の編曲を完成させました(うちリスト自身の原曲が約45%、他作曲家のものが55%)。ピアノの為の編曲は2手、4手、2台と合わせると274 曲で、編曲総数の80%近くを占めます。オペラ作品を素材にした編曲(序曲や前奏曲を含む)は、およそ70 曲にのぼります。
 そしてワーグナーのオペラ作品の編曲(計15曲)は、1849年~1882年まで長きに渡り取り組んだことから、リストにとっていかにワーグナーが深く影響を与えた作曲家だったのかがわかります。

 「さまよえるオランダ人」からの2編曲は、”トランスクリプション” に分類されます。原曲から大きく逸脱はしていないものの、ピアニスティックなアレンジや自由な創作がそこかしこに施されており、パッと聴くとピアノ曲として作曲されたかのように感じるほどです。

 この作品は大航海時代以降に流布した「さまよえるオランダ人」伝説を基に、ワーグナーが台本を書き下ろしたものです。航海中に風や神を罵ったオランダ人船長が神の怒りを買い呪われてしまい、死ぬことも許されずに、永遠に海をさまよい続けることになります。この呪いを解くためには、7年に1度許される上陸の機会に、オランダ人船長に「永遠の愛」を誓う女性が現れなければならない、というものです。このオペラではワーグナー初期の作品ということもあり、曲が1曲ずつ完結する番号制オペラの伝統を踏襲しています。彼の本格的創作活動の出発点となった作品であり、「女性の愛による救済」という終生のテーマが明確に打ち出されています。

 第1幕はオランダ人船長がノルウェーをさすらっていたところ、ダーラントという船長と出会います。彼にゼンタという娘がいることを知ったオランダ人船長は、娘を嫁にほしいと言い財宝を見せます。予々富裕な婿を願っていたダーラントはそれを受け入れます。そして第2幕では舞台はダーラント家に移り、ゼンタは仲間の娘たちが紡ぎ歌の原曲である「糸紡ぎの合唱」(第1曲)を歌いながら糸車を回す中「さまよえるオランダ人」の肖像画に見入っています。なぜか、それは伝承を知ったゼンタはそれ以来そのオランダ人を救う聖女は自分だと、夢見ているからでした。そんな様子をたしなめた乳母マリーや、からかう娘たちに対して、ゼンダのバラード(第2曲)を歌い、オランダ人への憧れや熱い想いを歌い上げます。父とともにやって来たオランダ人を見て、一目で ”彼こそが自分の求めていたオランダ人” であることを悟り、彼に誠を誓います。しかし、彼女には彼女のことを愛するエーリックという若者がおり、第3幕ではオランダ人と婚約したゼンタをなじり、かつては自分に永遠の誠を誓ったのではないかと、昔の二人の愛を歌います。それを立ち聞きしたオランダ人は、欺かれたと早合点し、ゼンタを破滅させたくないと幽霊船に飛び乗り、去ろうとします。ゼンタは去ろうとする彼に向かって、自分こそはあなたを救う女だと告げ誠を誓い、海へ身を躍らせます。その犠牲により、オランダ人の呪いは解け、幽霊船は砕け沈みます。そして暁の光の中救われて死の安息を得たオランダ人とゼンタが抱き合いながら天へ上ります。

◆ゼンタのバラード
原曲に忠実にピアノに移すというよりは、自由な創作が加えられています。この時すでにリストはワイマールの宮廷楽長を辞し、ワーグナー・オペラの普及活動を行う手段がなくなっているところで、加えてワーグナーの評価が高まった為その必要もなくなった、ということも関係しているでしょう。原曲は有節歌曲の形式で3回同じ旋律とリフレインが繰り返されます。最後のリフレインは、女声合唱によるものです。リストは、繰り返しを2度行い、2度目は伴奏音型を半音階進行に変え、女声合唱によるリフレインを4/4拍子にして、旋律を付点リズム、1オクターヴ高い音域と厚いテクスチュアで重厚に表現しています。コーダのクライマックス部分は拡大され、原曲ではB durでの反復だった部分を、リストはB durからDes dur、E dur、そして半音階を経てB dur に戻るという、大胆な転調を展開して、華々しく曲を閉じています。
その他注記事項
ワーグナーのロマン的歌劇『さまよえるオランダ人』から第2幕「ゼンタのバラード」の編曲。

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