武久源造先生による公開録音コンサート 『ピアノを見つけたバッハ』レポート

文字サイズ: |
2015/10/23
武久源造先生による公開録音コンサート
『ピアノを見つけたバッハ』レポート
宮崎貴子

9月16日、17日の二日間、東音ホールにて、武久源造先生による公開録音コンサート『ピアノを見つけたバッハ』が開催されました。両日共にレクチャー&コンサートで、ジルバーマンピアノとパルティータ全曲というプログラムと共に、ピアノを見つめ直し、ピアノでバッハを演奏することの意義を見つめる、刺激的な2日間でした。

1日目:まずはピアノのルーツについてのお話から。よく知られるチェンバロやクラヴィコードの他にハープ、そしてダルシマーが紹介されました。弦をバチで打つダルシマーの超絶技巧映像(映像参照)はアクロバティックです。「これに鍵盤をつけると演奏が容易になる」という発想も、ピアノの源流にあると考えられます。

バッハはいつピアノを知った?

レクチャーは武久先生が作成された年表を用い、軽妙な語り口で進みました。配布資料は膨大な情報量ですが、独自の考察も加えられた貴重で面白いもの(PDF参照)です。あたかも目の前でバッハ時代の再現ドラマが繰り広げられているようでした。
特に1717年、様々な史実を踏まえ、バッハがドレスデンでクリストフォリピアノに触れた多大な可能性があるとのこと。平均律クラヴィーア曲集第1巻の大半はその直後に書かれており、作品への影響を示唆されました。

ドレスデン近郊に工房を構えていたジルバーマンも、この頃にはクリストフォリピアノを基にピアノの試作を始めていたかもしれません。
パルティータ全曲出版とジルバーマンピアノ完成の記録の間には2年の隔たりがあります。しかしそれ以前に、バッハとジルバーマンの間にはピアノを巡る数多くのやり取りがあったと、バッハの弟子が証言しているとのことです。
確かに、同時期に作曲されていたパルティータには、番号を追うごとにピアノ的イディオムが色濃く取り入れられています。まるでバッハがこの「新型楽器」に親しみながら作曲の筆を進めたかのように・・・。

そしていよいよジルバーマンピアノによるパルティータの演奏です。
武久先生は史実と修辞学に基づいて各曲を読み解き、また音型を実際の舞曲のステップになぞらえる解説つきで演奏して下さいました。
途端に、各曲は物語性を帯び、生気を帯び、音符が生き生きと踊り始めるようでした。
第2番の最後で弦が切れ、演奏が続行不可能となるハプニングも。しかし終演後の弦の張り替え作業は予定外のジルバーマンピアノ解体ショーとなり、皆さん楽器を囲んで熱心に見入っていらっしゃいました。
2日目:前日はなかったチェンバロが登場。曲ごとにチェンバロとジルバーマンピアノを弾き分けながらのコンサートです。

ここでも、数々の読み解きのヒントを頂きました。そのいくつかをご紹介します。

  • 「摺り足」の再現など舞曲由来の音型の数々がみられる
  • 第4番のOuvertureは死からの「再生」を表す。二長調も「復活」を象徴する調 
  • 第6番冒頭の上行音型は聖体拝領の描写
  • この時代には珍しい7連符は、飛翔する聖霊を表す
  • 「ジーグ」はどこからともなく現れ、どこへともなく消える。重厚な結尾部分がある6番のジーグは例外的
  • スリップジーグ、飛ぶジーグ、フランスのジーグ・・・色々なタイプのジーグがあり、弾き分けることが必要

迫力の2段チェンバロと、音色に深い光沢のあるジルバーマンピアノ、そのピアノの持つ各レジスターを駆使してのパルティータ後半3曲の演奏は、圧巻でした。

たまのような音色

ところでクリストフォリピアノが"強弱のつくチェンバロ"を目指したものだとすると、ジルバーマンピアノはそれとは違う音色を目指した、正に現代のピアノの源泉とも言うべき楽器だそうです。その音色は当時"玉のようにまろやか"と形容されました。
ウナ・コルダに加えてダンパー一斉開放装置(現代ピアノの右ペダルの手動操作版)が搭載され、さらにチェンバロ風の音になるチェンバロレジスターを持つ、なんとも欲張りなジルバーマンピアノ。しかし美しい音色を優先させるあまり楽器としての耐久性に欠け、アクションも複雑で調整が容易ではありませんでした。そういうわけで、その後しばらく、ピアノはアクションの簡易化という方向に進むのです。

バッハとは、ピアノとは

印象深かったのが、打弦楽器と言われるピアノについて、「撫弦」という言葉を使われていたこと。ジルバーマンピアノや現代ピアノのように、弦に近いところからハンマーが打弦可能なピアノは、弦に触れる、撫でる、抱きしめるような打鍵が可能だそうです。
そしてバッハはピアノの販売にも携わるほどピアノと積極的に関わりのあった人物であったという新発見。我々も「バッハ=チェンバロ」という考えにこだわらず、安心してピアノをイメージして弾いていい、と武久先生は繰り返しておられました。現代のピアノには、連綿と続く歴史の中で生まれた鍵盤楽器の全ての魅力が含まれているのだから、その魅力を活かす演奏を心がけるべきではないか、と。

終演後の座談会は質疑応答、自由討論の場として盛り上がり、先生は前日のハプニングで幻に終わりかけた第3番も演奏してくださいました。
来場者からは「世界がひっくり返るような新発見」「バッハ時代にタイムスリップしたみたい」等、熱い感想の声が寄せられました。

続編を期待しております!

次回開催予定

レクチャー&演奏:武久源造(共演:宮崎貴子)
2016年2月13日(土)●~(●開場)
東音ホール(東京・巣鴨)


※当初2月26日の開催と表記しておりましたが、出演者の都合により2016年2月13(土)の開催となりました。ご了承頂ければ幸いです。開演時間は近日公表いたします。 詳細情報・ご予約はこちら

【GoogleAdsense】
ホーム > ピアノ曲事典 > ニュース > 鍵盤楽器事典> 武久源造先生による公...