第31回 楽譜紹介 (2012年8月31日更新)

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ベーレンライター/『ドビュッシー/映像 第1巻・第2巻』
Debussy, Claude Images 1st series・2nd series
出版社名:ベーレンライター
・編集:Woodfull-Harris, Douglas  ・品番:第1巻 BA 10821/第2巻 BA 10822  ・価格:1,960円?2,520円
ドビュッシー 映像(ベーレンライター版) 特色について
解説:金子一朗

 ベーレンライター版の楽譜は、J.S.バッハ、モーツァルトの楽譜などに代表されるように、過去に残された膨大な資料を基に、作曲家が最終的に残したかったと想定される作品の姿を、最新で正確無比な形で我々に提供してきました。楽譜はすべて原典版ですが、これは、ベーレンライター版が、作曲家の作品に込められた意思を最大限尊重するからに他なりません。しかし、その一方で、楽譜には、可能な限り演奏者が演奏しやすい形で提供する使命もあるでしょう。そこに編者の意図が少なからず入ることになります。このバランスをとることが、原典版を出版する難しさの一つだと思います。ベーレンライター版では、たとえば、J.S.バッハの平均律クラヴィア曲集やフーガの技法の楽譜では、4声のフーガにおいて、ソプラノとアルトは上段、テノールとバスは下段に記載しています。これは、バッハの自筆譜または写本の形態に基づくものです。しかし、演奏する際は、特にアルトやテノールは、左右どちらの手で演奏するかは演奏者に任されています。他の多くの原典版では、編者の考えた運指などを基に、アルトやテノールをそのときに応じて上段に書いたり下段に書いたりしていますが、運指は演奏家によって異なるため、作曲家の意図とは必ずしも一致しません。こういったことに代表される編者の意思を可能な限り排除した、作曲家の素の意思の結晶がベーレンライター版の楽譜であるといえます。
 今回出版されたドビュッシーの映像第1集、第2集の楽譜は、こういったベーレンライター版の意図が反映された素晴らしいものです。すでに出版されているこの作品の楽譜との幾つかの相違について編者に直接伺ったところ、それらすべての理由について、極めて高いレベルの考古学的な考証が行われた上での回答をいただきました。そのことからも、この楽譜が、現在出版されているこの作品の多くの楽譜の中にあって、特別な位置にあることがわかりました。
 また、ドビュッシーの作品についての著書は数多くありますが、この楽譜では、作品について凝縮された前書きがあり、かなり充実したものとなっています。これは、さまざまなレベルの演奏者や教育者がこの作品を演奏、指導する際、極めて貴重なものになるでしょう。具体的には、先にこの作品の概略、すなわち起源や美学について述べられ、その後、演奏上の注釈として、音、強弱、テンポとリズム、アーティキュレーション、ペダル、運指などについて、ドビュッシーの求めていた表現のエッセンスが的確かつ簡潔に述べられています。バロック時代の作品では、楽譜に強弱、テンポ、アーティキュレーション、ペダルなどの情報がほとんど記載されておらず、その後、次第に作曲家はこういった細かな指示を楽譜に書くようになってきたのは有名な事実で、ドビュッシーの自筆譜も例外ではなく、極めて細かな情報が書かれています。しかし、表面的にこういった情報を音にしてもドビュッシーの音楽の本質を表現することは困難です。ドビュッシーの考えていた表現の趣味は、バロックからロマン派までの作品のものとはかなり異なりながら、その一方で過去の優れた作曲家の様々なスタイルを知った上で表現されています。そういった事柄についてもわかりやすく簡潔にまとめられています。また、ドビュッシー自身が記載したペダルについての指示は極めて少なく、その具体的な使用法も含め、この前書きは演奏者に対し、ドビュッシーの楽譜の指示の表現する方法について、多くの貴重な情報を提供しています。
 私は、ベーレンライター版の優れた編集に基づくこの楽譜が、ドビュッシーの作品の真実と魅力を後生に伝える重要なものになると確信しています。


収録曲・コンテンツ/演奏: 金子一朗
曲名 映像
第1集
1.水の反映 "Reflets dans l'eau"
2.ラモーを讃えて "Hommage a Rameau"
3.運動 "Mouvement"
曲名 映像
第2集
1.葉ずえを渡る鐘の音 "Cloches a travers les feuilles"
2.そして月は廃寺に落ちる "Et la lune descend sur le temple qui fut"
3.金色の魚 "Poissons d'or"
演奏・解説: 金子一朗
1962年東京都に生まれる。早稲田大学理工学部数学科卒。本職は中・高等学校の数学科教諭。ピティナピアノコンペティション ソロ部門特級は2003~4年ともに入選。コンチェルト部門上級で2004年に奨励賞、グランミューズ部門A1カテゴリーで2004年に第1位受賞。2005年における同コンペティション ソロ部門特級でグランプリ(金賞)および聴衆賞、ミキモト賞、王子賞、日フィル賞、文部科学大臣賞、読売新聞社賞、審査員基金海外派遣費用補助を受賞。第1回ザイラー国際コンクール・イン・ジャパン・フリー部門第2位。第1回北本ピアノコンクールH部門第1位、合わせて全部門での最優秀賞を受賞。2004年10月にリスト国際コンクールマスタークラスにてレスリー・ハワード氏の公開レッスンを受講、オランダ大使館にてリスト国際コンクール主催の演奏会に出演。2005年1月、円光寺雅彦指揮・東京フィルハーモニー交響楽団と共演。2005年5月、テレビ朝日「題名のない音楽会21」に出演し、現田茂夫指揮・東京交響楽団と共演。2006年4月、沼尻竜典指揮・日本フィルハーモニー交響楽団と共演。2006年1月に初のソロリサイタルを新宿区角筈ホールで開催し、その後同年2月にはイタリアのトリノ、ボローニャの2都市でもソロリサイタルを開催。それぞれ好評を得る。2007年3月、『ピティナ40周年記念 ピアノコンチェルトの夕べ』にて渡邊一正指揮・NHK交響楽団と共演。これまでにピアノを角聖子、神野明、北川暁子、K.H.ケンマーリンク、森知英、秋山徹也、田部京子の各氏に師事。また音楽理論を中村初穂氏に師事。    

特別提供:ベーレンライター映像第1集・前書きの日本語訳

⇒ダウンロードはこちら(PDF)

翻訳・監修:菅野 恵理子

12月21日生まれ。上智大学在学中に1年間ランカスター大学(英)に交換留学、社会学 を学ぶ。一般社団法人 全日本ピアノ指導者協会で編集・広報、国際部を担当。2007年 秋より渡仏、現在音楽・アート教育について取材中。趣味はピアノ、芸術・スポーツ 鑑賞、テニス、美術館巡りなど。ピアノは幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、 根津栄子両先生に師事。 ブログ:http://erikosugano.blogspot.jp/

協力:
生熊 茜(東京藝術大学ピアノ科2年/2009福田靖子賞選考会奨励賞)
木村友梨香(東京音楽大学ピアノ演奏家コース2年/2009福田靖子賞選考会奨励賞)
久保山菜摘(桐朋学園大学音楽学部2年/2009福田靖子賞選考会奨励賞)



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