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> ローゼンハイン/Rosenhain, Jacob
ローゼンハイン Rosenhain, Jacob 1813~1894
ローゼンハイン
Rosenhain, Jacob
[
ドイツ
] 1813~1894
作曲家解説
上田 泰史
PTNA編集部
2011年5月 執筆者:
上田 泰史
ローゼンハインは12月2日、ドイツ南西部の街マンハイムでユダヤ系の銀行家の長男として生まれた。彼には一人の弟があったが、彼もまた兄ヤーコプと共に音楽の道を歩んだ。教育熱心な父の配慮で、ヤーコプは始め地元教師について学び、早くから音楽的才能を現した。やがて彼は著名なピアニスト兼作曲シュミット兄弟のうち、弟のヤーコプ・シュミット(1803~1853)に師事し、10歳になると人前で演奏できるまでになった。マンハイムのサロンで注目を集めたヤーコプはその演奏と人柄で同地のバーデン大公妃(1789~1860)やフェルステンベルク侯カール・エゴン二世やといった芸術の庇護者たちの後ろ盾を得た。ローゼンハインを高く評価したフュルステンベルク侯爵は、マンハイムの南に位置するドナウエッシンゲンにある居城に彼を招き、邸宅の楽長カリウォダJohann Wenzel Kalliwoda (1801~1866)の下で数年間教育を受けさせた。
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充実した環境の中で成長したローゼンハインは、その後シュトゥットガルト、フランクフルトに足を延ばして演奏し、やがてフランクフルトに住むようになる。この地で彼は厳格な作曲技法を習得するため同地で一流の教育者として知られていた作曲家X.シュニーダー・フォン・ヴァルテンゼー(1786~1868)の門を叩いた。この優れた交響曲作曲家の下で書いたスクリーブの喜劇に基づく一幕オペラ《ベドラム[精神病院]訪問》は、フランクフルトの劇場で大成功を収め、さらにヴァイマルで大家フンメルがこの作品を取り上げ、衆目を集めた。
1837年、ローゼンハインはロンドンを訪れ、同地のフィルハーモック協会と共演し、人々の熱烈な歓迎を受ける。しばらくロンドンに滞在したのち、彼はあらゆる名手たちが目指すピアノ音楽の一大中心地、パリに向かう。直ちにパリの音楽界に溶け込んだローゼンハインは、ほどなくしてパリ音楽院院長ケルビーニの目にとまり、彼のサロンで楽壇の頂点を占める音楽家たちと知己を得、彼らの前でピアノ作品やピアノ三重奏曲、与えられた主題による即興を披露するようになった。
作曲家としての本格的なキャリアはパリで始まった。彼はアンリ・ルモワーヌやモーリス・シュレジンガーら多くの出版者を紹介され、数年のうちに練習曲集(作品17、20)、《詩曲》作品24を始めとするいくつもの性格小品、人気のオペラ主題に基づく華麗な幻想曲を出版することができた。だが若きローゼンハインは新しい演奏技巧のみに心を奪われることなく、絶えず楽曲の構成に対する知的な配慮を怠らなかった。《12の性格的練習曲》作品17(1839)には20代半ばを迎えたヴィルトゥオーゾの研ぎ澄まされた感性と華麗な技巧、多彩な着想をまとめ上げる卓越した作曲手腕を認めることができるだろう。入念に書かれた数々のピアノ作品は愛好家たちの間で非常に高い人気を集め、ピアニストたちもしばしば演奏会で彼の作品を演奏した。ローゼンハインは今やショパンやリストと共にパリを彩る著名なピアニストの一員となり、1843年元旦に出版されたモーラン Nicolas-Eustache Maurin (1799~1850)のリトグラフ「著名なピアニストたち」にその姿が描かれた(前頁の図、後列左端)。
作曲家、演奏家としての名声が高まるにつれ、ローゼンハインはパリの著名な教師の一人に数えられるようになった。1840年代、彼は先輩の著名なピアニスト兼作曲家J.-B. クラーマーと共にピアノ講座を開き、ピアノ会社エラールで行われたレッスンで当時一般には殆ど普及していなかったベートーヴェンを始めとする古典作品の演奏奥義を受講者に伝えた。
彼の古典作品に対する畏敬の念は、創作、演奏活動、教育のあらゆる面に反映している。Ch. ダンクラやA. ティルマン、D. アラールといったパリの著名な弦楽奏者たちと活動を共にし、パリの聴衆にドイツ・オーストリアの古典室内楽を紹介した。彼自身もまた、1840年代に《ピアノ・トリオ第2番》作品33(c.1842)、チェロまたはヴァイオリンのための《ソナタ》作品38(1847、メンデルスゾーンに献呈)などで新しい着想を古典的形式の中にまとめた。
著名なピアニストでありながら、彼の創意はピアノ曲だけにとどまらなかった。40年代に手がけた《交響曲 第一番》は1846年にライプツィヒで友人のメンデルスゾーンの指揮によって上演された。その二年後、《交響曲第2番》がフランクフルトで上演され、さらにブリュッセル音楽院でも著名な音楽理論家・音楽史家・作曲家で院長のF.-J. フェティスによって取り上げられた。フェティスは彼の描写的な《交響曲 第3番「春に」》への称賛も惜しまなかった。
1850年代、ローゼンハインはパリでオペラを成功させるために奮闘する。オペラに関して彼は既にドイツで成功を収めていたものの、格式高いパリのオペラ座でシーズン中に作品を上演してもらうのは才能のみならず確かな人脈がなければ困難であった。だが誠実な人柄と才能によって楽壇の権威者、オペラ座関係者たちの支持を得た彼は、1851年3月に2幕のオペラ《夜の悪魔》の上演に漕ぎつけ、初演は拍手喝采で迎えられた。やがて重要な役を担う歌手の都合により途中で上演が打ち切りとなったものの、このオペラは彼の交響曲同様、ブリュッセル、フランクフルトでも上演され広く人々に知られるようになった。
ローゼンハインはオペラの上演を見届けてパリを離れたが、その後何度もこの都市を訪れ演奏し、古典室内楽の普及につとめた。60年代に入る頃から、彼の「古典志向」はいっそう強まっていく。1850年の《ピアノ・ソナタ 第一番》作品41(フェティスに献呈)に続き、50年代後半から60年代半ばにかけて3つの《弦楽四重奏》、二つのピアノ・ソナタ(作品70、74)、《ピアノ三重奏 第3番》作品80など次々に古典的形式を踏襲した作品を発表してゆく。
一方で彼はピアノのための性格小品も書き続けた。タウベルトの高弟Th. クラックに捧げた《嵐―演奏会用性格的練習曲》作品48(1853)、《田舎にて―二つのイディール》作品51など華麗なコンサートピースを経て、60年代に出版された《瞑想》作品77、《子どものお話》作品81、《ルーズリーフ》作品81(クララ・シューマンに献呈)などの性格小品では書法の簡素化と内面的な洗練が際立っている。《ピアノ協奏曲》作品73(c.1865)では華麗な演奏技巧を見せるが、メンデルスゾーンやハイドンを思わせる楽想がオーケストラの音色に対する極めて繊細な感覚の中でまとめ上げられている。
演奏家としてのローゼンハインは自作の他にモーツァルト、ベートーヴェン、ウェーバー、メンデルスゾーン、シューマンの作品を好んで演奏し、自らの理想的「古典」像を人々に示し続けた。フランス国立図書館に保存にはローゼンハインが作曲したJ. S. バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの協奏曲へのカデンツァが保存されているが、これらは恐らく彼が自身の演奏会で弾いた即興カデンツァに基づくものであろう。
1870年、普仏戦争よってローゼンハインとパリの長い関係は断ち切られた。生地マンハイムの南に位置するバーデン・バーデンに住居を定めた彼は、この地で後進の指導にあたり20年ばかりの余生を過ごし、1894年3月21日、80歳で生涯に幕を下ろした。
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執筆者:
PTNA編集部
ドイツ出身のピアニスト、作曲家。
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