1997年、メンデルスゾーン没後150年に始まった「新メンデルスゾーン全集」は、文字通り彼の全作品を刊行しようとする初めての試みである。年2巻のペースでこれまで順調に刊行を進めており、没後200年の2047年には全集が完結する予定である。完結に先駆けて、生誕200年の2009年には「メンデルスゾーン作品総目録 Mendelssohn Werkverzeichnis」(MWV)が出版され、計778曲の作品データが収められた。778曲には断片的スケッチや散逸作品も含まれる。この目録では、編成や曲種によって作品が26に分類され(AからZまでのアルファベットにより識別)、各分類内は作曲年代順に作品が並べられている。すなわち、ピアノ独奏曲はU1-199、ピアノ連弾曲はT1-4、2台ピアノ曲はS1-2、ピアノを含む協奏曲はO1-2と4-13、ピアノを含む室内楽はQ1-34、ピアノ伴奏付き独唱曲はK1-129、同二重唱曲はJ1-12、同合唱曲はE1-2というように。さらに、自作の管弦楽曲や室内楽曲のピアノ編曲(連弾および独奏)も挙げられている。
無言歌の多くは、ロマンチックな表題(タイトル)と結びついてこんにち親しまれている。楽譜やCD、解説書の中には、全曲に表題が付けられているものさえある。しかし、メンデルスゾーンが出版にあたって公にしたのは、〈ヴェネツィアの舟歌〉(Op.19/6、Op.30/6、Op.62/5)、〈デュエット〉(Op.38/6)、〈民謡〉(Op.53/5)の5曲にすぎなかった。その他は、彼の没後に楽譜出版社が通称を採用して、あるいは全く勝手に付けたものである。メンデルスゾーンにとって無言歌―ドイツ語では Lied ohne Worte、フランス語では Chanson sans paroles、英語では Song without words―は、あくまで「言葉のない歌」。言葉によってイメージを固定するよりは、音楽のみによって聴き手の想像力を豊かに喚起しようとしたのであろう。楽譜を一見したところ、いずれの無言歌もシンプルな曲想だが、1曲ごとに感情のひだを丁寧に描き、聴く者の心の奥底に語りかけてくる。その含蓄の深みは、思春期を越えた境地に達している。最初の無言歌が19歳の作であるという事実とあわせて、無言歌は早熟なメンデルスゾーンにとっても「大人の曲」だったと理解してよいだろう。