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> タールベルク/Thalberg, Sigismund
タールベルク Thalberg, Sigismund 1812~1871
タールベルク
Thalberg, Sigismund
[
オーストリア
] 1812~1871
作曲家解説
上田 泰史
齊藤 紀子
2011年5月 執筆者:
上田 泰史
1812年1月8日、ジュネーヴに生まれる。彼はモーリツ・ディートリヒシュタイン伯爵とヴェッツラー男爵夫人という高貴な身分の男女の落胤と云われている。10歳でウィーンを訪れ宮廷オペラ楽団のファゴット奏者に手ほどきを受けたのち、作曲理論の大家S. ゼヒターと著名なピアニスト兼作曲家フンメルとチェルニーに師事。「難なく」最高の演奏技術を修得したタールベルクは、14歳のときにはサロンの寵児となり16歳で最初の作品を出版した。パリで最初にステージに立ったのは1834年のことである。
1836年、彼はパリ音楽院ホールの聴衆の耳を釘づけにし、センセーションを巻き起こした。ジャーナリズムはリストと比較してタールベルクを賞賛し、なかば意図的に両者をライバルに仕立て上げようとしたために、スイスに滞在していたリストはパリに駆け付けることとなった。二人の競争はやがて37年、有名なベルジョイオーゾ王妃のサロンで行われた「決闘」に発展した。
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二人の「和解」を名目とした演奏会で、両者は華々しいオペラ・パラフレーズを弾き合い、王妃が「タールベルクは最高のピアニスト、リストは唯一のピアニスト」と二人の健闘を称えたことは良く知られている。
タールベルクの音楽書法が後世の音楽家たちに与えた影響は非常に大きい。彼が僅かな期間に音楽家たちの注目を集めたのは、左右の手が担う分散和音の間に旋律を置く独特の演奏法であった。下の譜例は彼のヒット作の一つ《ロッシーニの〈モーゼ〉に基づく幻想曲》 作品33(1833)の一節であるが、○で囲った音が主旋律、その上方の細かい音符と下方の分散和音が伴奏である。
左右の手の伴奏と中音域の旋律の三層からなるこの書法は、批評家たちがしばしば指摘したように、あたかも「三本の手」で弾いているかのような効果をもたらした。聴き手を幻惑させるマジカルなテクニックは多くのピアニストの間で一つの主要なピアノ書法として定着し、これを用いる創造力豊かな音楽家、例えばフランスのE.プリューダンのようなヴィルトゥオーゾたちによって新たな生命が吹き込まれていった。
タールベルクは1855年に大西洋を渡りアメリカ、ブラジル、キューバで演奏し成功を収めた。彼は1844年、著名な歌手ルイージ・ラブラーシュの娘と結婚していたが、58年にタールベルクは義父の領地であるナポリ近郊のポジリポに居を移し一時的に音楽界から身を引いた。1862年、再びパリでかつて喝采を浴びた幻想曲を演奏し、翌年にはまたブラジルに演奏旅行にでかけた。数知れない演奏旅行を重ねたのち、彼は音楽界から完全に引退し、ポジリポでブドウ園を経営しワイン商を営み余生を過ごした。
ショパンに比べてオリジナル曲が少ないために、タールベルクはこれまで作曲家として十分に評価されてこなかった。だが、マルモンテルが指摘するようにオペラの主題による優れたパラフレーズを書くにも、主題の選択やその展開、序奏、経過部分を巧みに扱う才能が必要である。実際、タールベルクが確かな手腕と豊かな着想を持つ作曲家であったということは、《12の練習曲》作品26のほか、一曲の《ピアノ・ソナタ》作品56、《ピアノ三重奏曲》作品69、《バラード》作品76、そしてポジリポでの生活から霊感を得た珠玉の小曲集《ポジリポの夜会―ロッシーニ賛》作品75など、彼の数少ないオリジナル作品が物語っている。また、彼の《ピアノによる歌唱法》作品70は声楽曲の極めて堅実な編曲集であり、ヨーロッパの多くのピアノ学習者たちに親しまれた。
解説を折りたたむにはこちらをクリックしてください。
2008年12月 執筆者:
齊藤 紀子
■
学習・師事歴/作品とその手法/ピアニストとしてのタールベルク
1.学習・師事歴
スイス生まれの作曲家。貴族の出だが、私生児として生まれたと考えられている。
10歳の時に、ウィーンで外交官になるための準備教育と共に音楽を学んだ。音楽の基本的な手ほどきをしたのは、宮廷歌劇場のファゴット奏者ミッタークである。音楽理論はジーモン・ゼヒターに、ピアノはフンメルに師事した。その後、パリにてJ. P. プクシスとフレデリック・カルクブレンナーに、ロンドンにてモシェレスにも師事している。
2.作品とその手法
16歳の時に、最初の作品を出版している。ヴィルトゥオーソの慣習に従い、自ら演奏するために、当時のオペラのアリアに基づくファンタジアを数多く作曲した。その際、メロディーはピアノの中音域に配置し、その上下に対位声部をおいたり和声づけを施す手法が多用されている。
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「10本の手をもつタールベルク」という戯画が残されているほど技巧に長じていた。しかし、タールベルクは大仰な演奏スタイルに偏重していたわけではなく、「ピアノによるベル・カント」を志向していた。オペラのアリアに基づくピアノ教育のための作品《ピアノによる歌の装飾技法》から、そのようなタールベルクの姿勢がうかがえる。
3.ピアニストとしてのタールベルク
14歳の時に、サロン・ピアニストとして成功を収めた。1830年には、ヨーロッパ各地を演奏して回っている。1830年代中ごろには、パリで成功と名声を得た。ヴィルトゥオーソの1人として、リストと音楽上の敵対関係をもつようになり、音楽雑誌等で煽られたこともある。リストとの演奏対決はこの時代のヴィルトゥオーソにまつわるエピソードの白眉となっている。
なお、この二人はピクシス、エルツ、チェルニー、ショパンと計6人で、《ヘクサメロン変奏曲》を合作したことでも知られる。
1855年には、ブラジルとハバナも訪れ、アメリカ合衆国にも滞在。1860年以後は引退し、葡萄栽培などをして余生を過ごした。
解説を折りたたむにはこちらをクリックしてください。
■参考文献
WANGERMEE,Robert.
「タールベルク,ジーギスモント(・フォルテュネ・フランソワ)」『ニューグローブ世界音楽大事典』茂木,一衛(日本語訳),第10巻,313-314頁.
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ドニゼッティの歌劇「連隊の娘」による幻想曲/Fantaisie sur l'opéra "La fille du Régiment" (Donizetti)
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