【名義後援コンサート】インタビュー/関本昌平さん in NY

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2012/04/13
関本昌平さんインタビュー in NY

ピティナ特級グランプリ、福田靖子賞、浜松国際コンクール(2003年)、そしてショパン国際コンクール第4位(2005年)と、破竹の勢いでコンクール入賞歴を重ねていた関本昌平さん。ショパンのソナタや英雄ポロネーズ等を華麗に弾く姿を思い出す方も多いだろう。27才になった今、ニューヨークに拠点を移した彼は、今までとは全く違った面持ちで音楽に向かっていた。それは「ブラームスのような深い崇高な音楽が好きです」という言葉に集約されている。関本さんの3年間についてお伺いした。


ニューヨーク1か月目で受けた音楽的衝撃とは

関本さんがニューヨークに渡ったのは2009年9月のこと。実はその1か月後、クラリネットの名手チャールズ・ナイディック先生との出会いが、新たな出発点となる。「ナイディック先生はその当時通っていた学校の教授だったのですが、初めて彼の授業で伴奏を頼まれた時、その知識の量に圧倒されました。レッスンが終わった後、思わず握手を求めに行ってしまいました。先生の場合は知識だけでなく、演奏も神がかり的に凄いんです。両方がかみあっていて『音楽はこうあるべきだ』と150%説得された感じです。そして、これが本来の音楽家なのだと思いました。自分もバックグランドの勉強をしなければと、そこから興味が出てきました」。

関本さんは小学校2年生の時、NHKの番組でショパンの革命エチュードを聴いて衝撃を受け、それからピアノに没頭するようになったという。ニューヨークでの出会いは、それに続く第二の衝撃である。最初のレッスンで伴奏したブラームスのクラリネット・ソナタop.120を基点として、関本さん自身の中でop.119, op.118, op.117・・・とブラームスの全作品を遡る旅が始まった。一度道筋が見えたら、旅は一人でもできる。

「実は今、学校には通っていないんです。だからピアノに向かう数時間以外は、作曲家の手紙や手記、伝記を読んだり、自筆譜ファクシミリを見たり、色々な音源を聴いています。自筆譜は図書館のオンラインで閲覧できますし、音源は昔の録音やyoutubeで聴くことができます。ブラームスop.120をきっかけに人物そのものに興味が出て、彼の人生を辿っていくようになりました。シューマンやクララとの交流、一番尊敬していたベートーヴェン、そしてバッハまでたどり着きます。このop.120-1冒頭もですが、ブラームスはマタイ受難曲のテーマを引用した曲を書いています。ブラームスの全体像をとらえようとすると色々に広がっていきますね。ベートーヴェンやバッハも同じです」。

曲のバックグランドを複層的に読み取ること

演奏家は作品のバックグランドに興味を持たなくてはいけない、と関本さんは力強く言う。でも「だからこう弾くべき」という考え方では、演奏の時にかたくなりすぎるとも。作曲家本人による演奏音源も絶対のものではない。様々な角度から研究することが、解釈の幅を広げることになる。

「僕たちは200~300年前の作品を弾いたり研究しているのですが、当時の手紙や資料等を見て『彼はこう弾いたであろう』と想像するわけです。逆にドビュッシーやラフマニノフ等は自作自演が残っていますが、『彼はこう弾いているから自分もこう弾こう』という気持ちは全くありません。逆の視点も考えなくてはならないと思います。作曲家はこう弾いたであろうと知ると同時に、全く真っ白の状態でアプローチすることが大事だと思います。ただ、壊すにしてもまず知っておかないといけない。ベートーヴェンの興味深い言葉の一つに、「素晴らしいもののためなら破れない規則は一つもない」というのがあります。もちろん規則は完璧に知っていないといけないけれど、美しいもののためならば壊してもいいと言っています」。

そう潔く言い切る関本さんの姿勢は、単なる奏法論ではなく、音楽の本質に触れる勉強を始めたという自信の表れでもあるだろう。
「実際に書かれた生のものから読み取ることが大事。特にナイディック先生はレッスンの時に自筆譜を使っていたのですが、そこから引き出される音楽の力が凄いんです。僕の今の目標です」。

生の情報を読み取るとは、他者の解釈や定説と関係なく、作曲家が実際に筆を入れた楽譜や手記と1対1で向き合うことだ。それだけ今の関本さんには、自分の音楽的直感に忠実でいたいという純粋さがある。それは同じ志を持つ仲間を引き寄せていく。今特に惹かれているのはNYオライオン弦楽四重奏団だそうだ。実は2013年3月に日本で共演することが決まっている。

「音楽に対する姿勢が一番変わりました」

「自分が日本にいる時と、音楽に対する姿勢が一番変わったと思います。音楽をどうとらえるのか、音楽家の考え方として素晴らしいかどうかが大事だと思います。日本ではなかなかこのように考えるきっかけがありませんでした。音楽だけに限らず、試験に出やすいとか、問題の解き方を教えることが多いと思いますが、自分の勉強しているものの本質を勉強しているのか疑問に思うこともあります。今は小学生も忙しい時代ですが、そういう傾向にあるのではないでしょうか」。

指導者も、学校のカリキュラムも、コンクールもない「自由」という時間の中で、自分の力で何かを掴み取ろうとする毎日。作曲家のインスピレーションの源泉を知りたい、という人一倍の音楽的欲求が今の関本さんを支えている。

さて今年9月には日本でコンサートが控えている。プログラムはこちら。
「ブラームス後期作品の中でも、この小品(op.117,118,119)は人の精神の一番深いところに浸透していくような音楽です。クララ・シューマンはこの時期の作品群を『灰色の真珠』と呼んでいますが、自分の命がいつ尽きるかという深刻な状況の中で、過去の思い出を振り返っているような印象がありますね。シューマンの『色とりどりの小品』については、ブラームスはその中の1曲から着想を得て『シューマンの主題による変奏曲』を書いています。また彼は自分のコンサートでよくベートーヴェンを弾いていたので、今回自分のプログラムにも入れました(月光ソナタop.27-2)」。

久々にステージで演奏する関本さんに期待が高まる。
ところで関本さん、ピアノ指導にご興味は?
「教えるのは大好きなんです」
と屈託ない笑顔を見せてくれた。

取材・文 菅野恵理子
INFORMATION

≪7月 新譜CDリリース≫ 

  • 「ブラームス作品集」(ソニー・ミュージックダイレクト)
    3つの間奏曲 Op.117/6つの小品 Op.118/4つの小品 Op.119

≪CD発売記念コンサートツアー 2012≫

http://www.piano.or.jp/concert/support/

【速報】≪N.Y.オライオン弦楽四重奏団と共演ツアー 2013≫

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