【名義後援コンサート】プレインタビュー×第1回:赤松林太郎さん

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2012/03/02
第1回:赤松林太郎さん
地球の裏側で自分と同じように「土」を感じた人~ピアソラを弾く

赤松林太郎さん(正会員)

「ピティナ名義後援コンサート」では、ピアニストの想いや演奏会の隠れた魅力をコンサート前にお伝えするための「プレインタビュー」を企画いたしました。第1回目は、公開録音コンサート等でもお馴染みの赤松林太郎さん(正会員)をお迎えしました。年間50公演以上をこなす中、全て自分で選んだプログラムを披露するのは東京では4年ぶりだそうです。そこで何を表現するのか?実は当初予定していなかったピアソラの作品に、急遽取り組むことになったそうです。そのきっかけとなった衝撃の出会いとは?またピアソラを通して「自分の踏みしめている土とは何か」を考えたという赤松さん。その想いを語って頂きました。

撃的なピアソラ演奏、そして編曲家との出会い
―今回のコンサートはガーシュインから始まり、ピアソラが前半に組まれている珍しいプログラムですね。まず選曲の理由を教えて頂けますか。

山本京子先生(正会員)

赤松:実はガーシュウィンもピアソラも当初は弾くつもりはありませんでした。昨年末に聴いたクトロヴァッツ兄弟(Eduard & Johannes Kutrowatz)の演奏と、その時会場でお話した編曲家の山本京子先生(正会員)との出会いが大きかったですね。デュオ・クトロヴァッツを聴いて、まずぶっ飛んでしまいました。もともとピアノからピアノの音を出すのはつまらないと思っていたので、一人でオーケストラを奏でるのが自分の究極の課題でした。しかし、その中でのピアノすらも、彼らは軽くそれを超えていた。それで、ピアソラの持つエネルギーで何なんだろうと真面目に考えたんです。その後打ち上げで山本京子先生とお話ししている時に、「ピアソラの『鮫』が好き」と言ったら、「あなたのために編曲を書いてあげるわよ」と仰って下さり、それから1か月も経たないうちに『鮫』の編曲譜が送られてきたんです!すでに出版されているものに比べると、3オクターブくらい音域が広いんですね。

デュオ・クトロヴァッツも彼女の編曲を踏まえつつ、自分たちでアレンジを加えていますが、やはり元の素晴らしさがありますね。彼女の凄さとは、ピアソラの旋律とリズムを「舐めるように愛している」編曲なんです。年末のクリスマスカードも年賀状も返上して書いて下さった、その情熱に一目ぼれしました。今回の演奏会後に出版を考えられていると聞いているので、自分の演奏がその下敷きになるのかもしれません。全て手書きですのでちょっとした修正もありまして、昨日も電話で「僕はここはこうの方がいい」とか、そんなやり取りをしていました。

―まさにリアルタイムで編曲が進んでいるのですね。

今までもピアソラは室内楽では何度か取り上げたことはありますが、コンサートのメインに据えることはありませんでした。本来ピアノソロの演奏家にとって、ピアソラとの接点はそんなに強いものではないでしょう。でもあんなに寸暇を惜しんでピアソラのことしか考えていない方がいることに感銘を受けて、そこから「ピアソラってなんだろう」と考え始め、ピアソラの歴史や演奏者の録音、ストーリー等に触れるようになりました。

これは京子さんも仰っていますが、私たち20世紀の人間は18世紀、19世紀の音楽を古典だと捉えていますが、22世紀の人間にとってピアソラが古典になると思います。バッハと同列に扱われるはずです。その意味で私たちは「未来の古典」に触れているのです。

ピアソラを通して「自分たちが踏んでいる土」を感じる
―やはりピアソラを弾くと血が騒ぎますか?今どのような思いを持って取り組んでいるのでしょうか。
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まずこのリズムに抗いがたい魅力を感じますよね。ピアソラは1日中ずっと流し続けていても聴けるんです。そのうちに、「自分たちの踏んでいる土って何なんだろう」と考えるようになりました。彼は一時期クラシック作曲家を目指してナディア・ブーランジェの元へも行きましたが、「あなたはタンゴよ」と先生に言われ、「自分の土はブエノスアイレスなんだ」と気づきました。私自身がお花を習っているから感じるのかもしれませんが、「死んだら土に還る」と言うのは真理です。私たちがお花で何をしているかというと、まず込み藁を作ることから始まります。稲をどっさりもらい、砧でたたいて、はかまをとって一本の線にしたものを畳糸でくくり、あく抜きして干して、残ったものを土に還します。日本人はそこからはずれることはできないと思うんですね。どんなにベートーヴェンやリストを弾いたとしても、私たちの地面は日本の田んぼでしかない。

じゃあ、そこで育った日本人がどうやって音楽をやっていくのか。ピアソラのように、地球の裏側で同じ心臓をもって同じ土地の感じ方をした人の作品を「感じる」ことだと思うんです。ピアソラはバッハのように色々な楽器で弾くことを許されていますよね。そこで、ピアノ1台で弾くことは決して後ろ指をさされることではないと確信が持てた時に、今回のコンサートで真面目に取り組んでみようと思いました。コンサートではバッハやベートーヴェンを弾くべきだというご意見もあるでしょうが、お着物を着てお花をたてている自分や私たち日本人が感じたピアソラのメッセージを表現してもいいのではないか、という思いが今回の出発点ですね。

―今まで弾いてこられたレパートリーを拝見すると、民族の魂をどこかに感じる曲が多いですね。

言葉や宗教にはボーダーはありますが、魂にはボーダーなんてないと思います。私はお能も好きなのですが、例えば能の中にあるものとアルヴォ・ペルトと何が違うのでしょうか。ペルトは宇宙です。宇宙を感じるというのは、人間に共通している魂の行動ですよね。ペルトはポストモダニズムの音楽、といったボーダーでくくるのは好きではありません。
ピアソラがあるインタビューの中で「誰が一番好き?」と聞かれて「北米でいうならガーシュウィン」と答えています。ガーシュウィンはクラシックの演奏をベースにしてジャズを取り込んだ。でも自分はジャズ演奏家と組んでジャズがやりたいわけでもなく、フランス人と組んでコメディ・フランセーズをしたいわけではない。「自分がやりたいのはタンゴだ」と。私はクラシック・ピアニストという自負を持ってガーシュウィンやピアソラを演奏したいと思っています。さらにピアノをここまでもってきてくれたリストに敬意を表すというのは、私なりの儀式です。

有限な肉体で無限に挑む―その象徴が「左手」
―なるほど。それで後半はリストなのですね。その前にスクリャービン「左手のための前奏曲とノクターン」を入れていますが、その意図を教えて頂けますか。

ピアソラは「タンゴを変えることは宗教を変えるのと同じくらい困難なことだ」と言いました。同じように、ピアノが発展を遂げた短い歴史の中で、左手だけというのは冒険だったと思います。楽器が大きくなるということは大きい音楽に対応しないといけないわけですが、そこであえて左手だけで勝負するということですから。有限な肉体でどこまで無限に挑むことができるか―。ウラディーミル・ジャンケレヴィッチも言っていますが、無限を作っているのは人間です。無限を限りなく押し広げていく人間の有限さ、その尊さ、それが「左手」にあると思うのです。
自分は五体満足で生まれてきたからこそ、あえてハンディを一つ背負い、大きなものに対して向かう尊さを覚えておきたいと思います。例えば東日本大震災で被災された方々は、本来は五体満足であるにもかかわらず、環境によって何かが遮断されてしまっています。私たちは同じ立場にたてなくても、同じ目線に立たなければいけないと常に思っています。明日自分も同じ立場になるかもしれませんよね。また、限りなく自分の中の可能性や夢に対してむき出しで生きたいと思っています。矢が1本当たっただけで致命傷を負うくらいむき出しに。

―赤松さんご自身も有限の時間を最大限に使っていらっしゃいますね。本業以外にも、お花、料理、お着物、バレエ等などご趣味も多彩でプロ並みの腕前とお見受けしました。

これでも結構寝ていますよ(笑)。でも譜読みは早いですね。譜読みする前に楽譜を読みこみます。ピアノで音を出すのは最後でいいと思っていますから。
(参照:楽曲分析のブログ「赤松林太郎の楽譜回帰」

―なるほど。こうした人生への向き合い方はいつから、又どなたに影響を受けたのでしょうか。

神戸に住んでいた頃、故・芥川也寸志先生と。

幼稚園の時からですね。祖父の膝の上で男の武勇伝やロマンみたいなものを聞いて育ちました。また両親が活動していたアマチュアの芦屋交響楽団の指揮者が芥川也寸志先生で、4歳の時から先生の膝の上でスコアを読んでいました。最初に覚えたのはマーラーの交響曲第1番です。スコアの読み方はリアルタイムで覚えていったので、それをピアノで弾くのは当たり前のことでした。「ピアノからピアノではない音」というのは小さい頃からの刷り込みなんです。

―今回のコンサートは、リスト「ヴェルディの歌劇『トロヴァトーレ』の『ミゼレーレ』による演奏会用パラフレーズ」で締めくくられます。まさにご自身の人生観を反映したようなプログラムですね。ご成功をお祈りしております。

コンサート情報

赤松林太郎ピアノリサイタル 2012
330日(金)19:00開演(18:30開場)/すみだトリフォニーホール 小ホール
※チケット購入にはカンフェティの会員登録が必要です。

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