第8回福田靖子賞選考会結果発表第8回福田靖子賞選考会結果発表

8月23・24日にレッスンが、26日に最終審査会が行われ、第8回福田靖子賞選考会が終了しました。書類選考で選ばれた優秀な中高生8名が、世界トップクラスの3名の海外招聘教授のレッスンを受け、多くの学びを得ました。結果は、第1位(福田靖子賞)森本隼太さん、第2位(優秀賞)谷昂登さん、第3位(奨励賞)桂田康紀さん・村上智則さんとなりました。全参加者の演奏ビデオと、レッスンリポートを公開します。

入賞者の全動画と入選者のダイジェスト

第8回福田靖子賞選考会に参加した8名の中高生ピアニストの選考会での演奏をYouTubeで公開しています。8人のきらめく個性を、ぜひお楽しみください!

第1位福田靖子賞
森本隼太さん(中1・京都府)

ハイドン:ピアノソナタ ニ長調 Hob.XVI/42

第2位優秀賞
谷昂登さん(中2・福岡県)

リスト:巡礼の年第2年「イタリア」S.161より「ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲」

第3位奨励賞
村上智則さん(高3・愛媛県)

デュティーユ:ピアノソナタ 第3楽章「コラールと変奏」

入選
片山響さん(中3・奈良県)

シューベルト=リスト:万霊節のための連祷 S.562-1(D.343)

入選
進藤実優さん(中3・愛知県)

リスト:「ドン・ジョバンニ」の回想 S.418

入選
吉原佳奈さん(高2・大阪府)

ウェーバー:モメント・カプリチオーソ 変ロ長調 Op.12

入選
渡邊さくらさん(高3・埼玉県)

リスト:メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」S.514

レッスンリポート

最終審査会で素晴らしい演奏を披露した8名の皆さん。それに先立ち、8月23日・24日の2日間にわたって、ジェイムズ・アナグノソン先生(カナダ)オルタンス・カルティエ=ブレッソン先生(フランス)ヘンリ・シーグフリードソン先生(フィンランド)、以上3名の海外招聘審査員を迎えて公開レッスンが行われました。その様子をリポートします。<リポート:豊田萌(東音企画Wキャリア生)>

第1位(福田靖子賞)森本隼太さん✕アナグノソン先生
F.ショパン:スケルツォ第2番 変ロ短調 Op.31

森本さんの卓越した演奏に「まだ12歳!?」と驚きを隠せないアナグノソン先生。レッスンでは、「属七とⅠの和音の関係性」や、テンポ・ハーモニー・リズムなど音楽を構成する幹の部分に基づき、どう表現するかを紐解いていきました。「属七とⅠの和音の関係性」とは、すなわち「緊張と解決」のこと。この形は音楽の基本となる部分であり、この関係性を耳がしっかり知っていることが重要であるといいます。また、リズムやテンポは厳格に、正確に。ショパンの書いた音楽が元々持っている緊迫感をなくさないことが大切だとアドバイス。そして、ショパンの作品において大事なこと、それは「シンプルに、テンポの中で歌心をもって演奏すること」だと仰いました。シンプルなつくりの中で考え計画し、細部を整えていくことで、より一層磨きのかかった素晴らしい演奏になっていきました。

第2位(優秀賞)谷昂登さん✕シーグフリードソン先生
F.ショパン:エチュード 嬰ハ短調 Op.10-4
F.リスト:パガニーニ大練習曲第3番嬰ト短調 S.141-3「ラ・カンパネラ」

超絶技巧を要する大曲に真正面から向き合っていった谷さんの演奏。レッスンは「緊張せずに、ここは実験室だと思って!」という声かけから始まりました。1つのフレーズを取り出しては、谷さんが弾き、先生が問いかける...ということを何度も何度も繰り返していきます。その様子はまさに実験室のよう。「音質は良かった?」「体の中の状態はどうだった?」など、1つの短いフレーズに対し様々な視点から探求していきます。すべてに集中できる状態(=ゆっくりのテンポ)で「完璧」な状態を積み重ねていくこと。それはすべて、「音楽を音楽として演奏する」ことを徹底するための練習でした。今回の曲のような場合は特にテクニックのことばかりに偏ってしまいがちですが、真に大切なのは常に音楽が音楽であることです。「今弾いた音が音楽的だったか、そうでなかったか」という視点を忘れずに探求を続けていくことで、みるみるうちに音楽が変化していきました。

第3位(奨励賞)桂田康紀さん✕ブレッソン先生
F.ショパン:ロンド 変ホ長調 Op.16
M.ラヴェル:「鏡」より「悲しい鳥たち」「洋上の小舟」

とても音楽的でよく考えられている演奏であっただけに、遠くへ飛んでいかず手元で止まってしまっているのがとてももったいない、とブレッソン先生。「心の内にある音楽をより遠くへ届けるためには?」をテーマに、身体の使い方や空間の使い方などを1つずつ考えていきました。自分とピアノとの関係は、決して空間が閉じることのないように、常に自由でいることが重要です。身体の使い方を変えるだけで音が解放され、手元でとどまってしまっていた音楽が遠くまで届くようになりました。その変化は見事なもの!また、イメージに基づいた体の使い方も大切というアドバイスもありました。ミステリアスで、空気が振動しているだけのような静寂の部分では、体は動かさない...などといった細かい点を整えていくだけで、説得力のある演奏になっていきました。

第3位(奨励賞)村上智則さん✕ブレッソン先生
デュティーユ:ピアノソナタ第3楽章「コラールと変奏」

楽譜への理解がとてもよくできているとブレッソン先生。デュティーユという作曲家は、残響をどう使えば良いかを熟知していた人だったといいます。そのうえで、響きをどう共鳴させるか、そしてどう解き放つかを考え、音へのイマジネーションを膨らませていくレッスンとなりました。「同じ和声の間ではペダルを変えないことで倍音を生かし」たり、「指とピアノのコンタクトを常にとること」、「音のイメージに基づいた身体の使い方」などといったことが、響きをより良いものにする手段となっていきます。 また、デュティーユは緻密な楽譜を書く人でもあったそうです。つまり、表現してほしいことは楽譜に必ず書いてあるのです。だからこそ、「楽譜に書いてあることに忠実に」、逆に言えば「書いていないことはしない(例えばアクセントなど、書いていない箇所にはつけない)」ということを徹底することがとても重要になってくるのです。

入選 片山響さん✕シーグフリードソン先生
ハイドン:ピアノソナタ 変ロ長調 Hob.XVI/41
シューベルト=リスト:万霊節のための連祷 S.562-1

「とても素敵な演奏だったからこそ、より良い演奏に仕上げるには何ができるかのアイディアを一緒に考えよう」とシーグフリードソン先生。そのアイディアとは、他の楽器からのイメージでした。たとえば歌ならどう歌う?ヴァイオリンならどんなボーイングになる?...など、音楽をより深くとらえ、生き生きと語るためのアイディアがたくさん登場しました。また、古典期に用いられたモチーフには「ため息」や「マンハイム・ロケット」などといった名前がつけられていました。個々に名前が付けられるほど、モチーフそれぞれに個性があったのです。弾き手はそれらをしっかり性格づけ、作曲家がモチーフなどの様々な要素を用いて伝えようとした、すべての表現が聴き手に聴こえてくるように演奏しなければなりません。一瞬たりとも気を抜かず、それぞれのモチーフを音楽的に演奏することで、音楽がよりハイドンらしく、ユーモアに語り出していきました!

入選 進藤実優さん✕アナグノソン先生
L.V.ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番 ヘ短調 Op.57「熱情」

強い意志とパッションを持ってベートーヴェンの傑作に向っていく進藤さんの演奏。レッスンは「ベートーヴェンの曲を勉強する際、彼のどんな作品を聴いたら良いのか」という問いから始まりました。その答えは「弦楽四重奏曲を聴く」、というものでした。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲には彼の人生のすべてがつまっています。初期と晩年では全く性格が違いますが、あくまでも「古典派の作曲家」であることを忘れてはなりません。例えば、冒頭のヘ短調から変ト長調への転調に関して。今日では現代作曲家たちが斬新な転調をするので、このようなことはあまり不思議なことではありませんが、当時では大変驚かれたことでした。だからこそ、弾き手はそれを聴き逃してしまうのではなく、常に驚きをもって演奏しなければなりません。また、ベートーヴェンは即興の名手だったといわれています。即興性を忘れずに、驚きを予兆させないことが大切です。「自分の中で"これがベートーヴェンだ"というものを弦楽四重奏や交響曲を聴いて探して」という先生の言葉でレッスンは締めくくられました。

入選 吉原佳奈さん✕ブレッソン先生
ウェーバー:モメント・カプリチオーソ 変ロ長調 Op.12
ストラヴィンスキー:エチュードハ短調 Op.7-1、嬰ヘ長調 Op.7-4

ピアノに対するまっすぐな愛情が現れている吉原さんの演奏。そんな彼女の演奏をさらに良いものにするためのキーワードは、「耳のスイッチを常にオンにすること」。旋律だけではなく和声(和声を聴くコツは「バスから聴くこと」。和声が心を表現するのです)、そして音と音の「間」を聴くことがなによりも大事だと先生は仰います。音と音の間を聴くことで初めて、音の羅列ではなく「音楽」になるのです。また、ピアニストは1人でオーケストラのすべてのパートを弾かなければならないので、それぞれの声部を魅力的に聞こえるようにするには、声部をしっかり聴き続けなければなりません。耳のスイッチをオンにした吉原さんの演奏は、ぐっと立体的に、そして色彩豊かに、大変魅力的なものになりました。

入選 渡邊さくらさん✕アナグノソン先生
J.S.バッハ:トッカータ ニ長調 BWV912

渡邉さんがこの曲にとりかかったのはなんと2週間前だったそうです!しかし堂々とした演奏に、先生は感心の様子。レッスンはかつてアナグノソン先生が聴いた巨匠たちの演奏やエピソードを交えながら進んでいきました。アンドラ―シュ・シフが一切ペダルを踏まずにゴルトベルク変奏曲を弾いたこと、ロ短調ミサを聴いてバッハに対する考え方ががらりと変わったこと...また、演奏中の姿勢に関してのエピソードもありました。ホロヴィッツやリヒテルなどは本当に素晴らしい姿勢(頭が一切動かない)だったといいます。なぜそうした姿勢で演奏していたのか、それは耳(聴くこと)に意識を注いでいたから。姿勢は耳の聴こえ方に大きく影響するのです。また、細部をより魅力的に弾くためには、「ヴァイオリニストならどう弾く?」などイメージして、「ピアニスト的」にならないようにすることが大切です。「しっかりと計画をした中で良いテンポを保ちフレーズとフレーズの関係性を整えると、途端に面白く魅力的な演奏になる」といった先生の言葉の通り、生き生きとした瑞々しい演奏に変化していきました。

まとめ

8人のレッスンを通して、3人の先生方が共通して仰っていたのは、「常に音をよく聴くこと」、そして「音楽を音楽的に演奏する」ということでした。一切の妥協を許さず完璧なものにしていく、それは深く音楽を愛しているからこその姿勢ではないでしょうか。
また、ピアノのことだけを学んでいても、それは真の音楽、ないしは芸術とはいえません。他の楽器や弦楽四重奏などのジャンルを学ぶこと、音楽の分野に限らず当時の時代背景を知ること...ありとあらゆることを学んで初めて、音楽を理解する一歩を踏み出すことができます。
音が私たちの言語です。弾き手は音で語るのです。音楽を生きたものにする、これがなによりも大切なことで、それでいて基本となるのです。だからこそ、テクニックに気を取られた「ピアノを弾くアスリート」になってはならないのです。指を動かすことは、頭で描いたイメージを音楽にするため、作曲家が音楽を通して語ろうとしたことを、聴き手に伝えるためにあるのです。 8人の受講生のみなさんはもちろんのこと、聴講された方も、先生方の音楽という「芸術」へ向かっていく姿勢を目で見て、耳で感じたのではないでしょうか。1音1音、1フレーズ、そして音楽全体に向き合っていくことが、どれほど尊いものなのかを全身で感じた、素晴らしい2日間となりました。

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