全国各地でコンペ予選が真っ盛りの6月12-13日の2日間、ひと足早く決勝大会進出を決めた14名のJr.G級参加者たちによるマスタークラスが、洗足学園音楽大学で行われました。講師には、今、世界の国際コンクールでもっとも評価されている韓国国立芸術大学からイム・チョンピル先生、親しみやすく実践的なレクチャーで人気の佐々木邦雄先生をお迎えし、マスタークラス、アナリーゼクラス、懇親会、修了コンサート、修了式と、充実した学習機会が提供されました。
|1.イム先生のマスタークラス|2.佐々木先生のアナリーゼクラス|
|3.懇親会・修了コンサート・修了式|
07ロン・ティボー2位のキム・ジュンヒ、今年のエリザベート王妃6位キム・ダソルなどを育てた名教師イム・チョンピル先生のレッスンは、情熱的でありながら、どこまでも子供たちを尊重し、ほとんどの曲を暗譜ですらすらと弾き進める圧倒的な実演をまじえながら、和やかな雰囲気で行われました。
そこではいつも、「これはあくまでも私の意見なんですが」「それをするかどうかは、あなた次第ですね」「ここをこう弾いたのには、何か特別な理由があるの?OK、そうしたいなら、こういう方法を使うともっと効果的ですよ」「どんな方法であれ、あなたが理由をもって、そうしたいと思ってやっているということが最も大事なことなんです」と、生徒の主体性を大切にしてくださいます。キーワードは、「動いて」「流れて」「自然に」「説得力のある」「高貴な」「あなたの意志で」...ノーブルで知的なイム先生のレッスンの一コマを覗いてみましょう。

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- 体の動き、それが聞き手にどう見えるか、ということは、演奏においては見逃せない要素です。私自身、過剰に体を動かして演奏するようなピアニストというのはまったく好まないですし、体の動きの見え方というのは第一義ではないのですが、体の動きというのは、時に、ピアニストがどのように音楽を感じ、考えているか、ということを自然に反映しているものなのです。この音楽がどんなに楽しいものか、全身で客席に伝えてみてください。
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- 全体に軽やかな雰囲気を出す選択肢のひとつとして、特に広いホールの場合、フォルテであっても、ソフトペダルを用いてみるという方法があります。多くの生徒は、左のペダルは、弱い音を作り出すためのものだと思っており、私も若い頃はそう思っていたんですが、多くの偉大なピアニストたち・先生たちが、フォルテのような場所でも、音色を作り出す装置としてソフトペダルを用いることを提案しています。
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- ショパンの音楽については、色々な版があり、アーティキュレーションやディナーミク、ルバートも様々です。ある箇所をソフトに弾く人もいれば、強く弾く人もいて、表現方法は多様であってよいと思います。けれど、「音楽の流れ」「構成」「リズムの形」という要素は、西洋音楽においては、普遍的でなければなりません。そこからすべて始まるのです。
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- この曲では、いつのまにか流れに乗っている、という入り方が美しいです。あなたが演奏しはじめることで流れ出すのではなく、たとえば「動く歩道」に乗るときのように、既にある「流れ」に乗る感じです。最初の音から歌いすぎずに、どこに向かっていくかを見極めましょう。
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- スローテンポで練習し、ペダルは、指でレガートできない部分だけにまず付けてみてください。本当にペダルが必要な個所はどこなのか、自分で探し出していくことが大切です。
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- 曲の雰囲気が変わる場所というのはありますが、基本的には同じ曲の中での統一感、特にテンポの統一感が必要です。そうでないと、第2楽章、あるいは別の曲が始まったように聞こえてしまいます。メノ・モッソやピウ・モッソ、ピウ・レントなどが出てきた時も、言葉通りに受け取りがちなのですが、基本的には同じ曲の性格の中での変化というのが前提です。
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- 私たちピアニストは、聴衆に「次に何が来るんだろう?」と待たせる・期待させるように演奏しなければなりません。もちろん聴いている人の中には、その曲を既に知っている人もいるでしょうが、誰もこの曲を知らないという人々に初めて聴かせるような意気込みが必要なのです。
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- ハイドンの音楽では、ひとつの部分の中で、調性が揺らいだり変化したりすることがあります。そこは音色のわずかな変化のみで表現し、あるべき調性に戻ってきたときに初めて鮮やかな効果を出すことが、演奏の一つのポイントになってきます。
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- クレッシェンドは、どこかへ向かっていく方向感を付けましょう。言いかえるとそれは、ゴールをどこに設定するかということになります。ゴールへ向かっていくときに大切なのは、ゴールまでは決して急がないということです。
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- 長いリタルダンドは、非常に注意が必要です。速度は伸縮するのですが、リズムの形、あるいは音の来るタイミングは正確でなければなりません。それでいて、自由に聞こえなければならないのです。すべての要素が自由になってしまうと、「揺れ過ぎ」に聞こえます。
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- モーツァルトのような、主題がいつも聞こえているような変奏曲と違い、このシューマンのアベッグ変奏曲は、第一変奏から全く主題から離れていってしまいます。だからこそ、主題はなるべくシンプルに、自然な流れとリズムを保った形で、提示したいのです。
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- 「ここでこの表現をしたい!」と思ったことを最も効果的に実現する方法は、似たような表現をそこに至るまでにやり過ぎないということです。いつもその効果を考えてみてください。毎回同じ表現やルバートが出てしまうと、聴き手は退屈してしまうし、なにより音楽の「高貴さ」「品格」が失われてしまいます。
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- 言うまでもなく、シューベルトの音楽を面白くしているのは、歌心だけではなく、ハーモニーの変化ですね。ただ、シューベルトにおいては、それをあまりはっきり表現しすぎないほうがかえって美しい場合があります。テンポやタイミングを変えずに、そういう予兆なしに、あくまで音色だけでハーモニーの変化を感じさせると、さりげなく、自然なシューベルトらしい美しさが立ち現れてきます。
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- この内声部は、「まるで何も弾いていないかのように」弾いてみましょう。指の重さを鍵盤の中に入れすぎなくていいです。
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- ベートーヴェンの音楽では、内に凝縮されたエネルギーを感じさせなければなりません。それは物理的な力ということではなくて、集中力のあるエネルギー・緊張感なのです。ベートーヴェンの音楽というのは、モーツァルトやシューベルトほど「美しい」わけではありません。モーツァルトやシューベルトの音楽は、とても自然で、歌心に満ちていますが、ベートーヴェンの音楽というのは、基本的にはやや「器楽的」と言えると思います。 ベートーヴェンの「密度の濃さ」「緊張感」は、例えば、ディナーミクのコントラスト、休符、リズムの一定性などに起因しています。
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- 緊張感のある音が欲しいときには、手の甲の硬さを意識することが必要です。上から押してみても手の形が崩れないような硬さを、常に感じてみてください。ただし、力を入れ過ぎると、腕がかたまってしまいます。腕はあくまでもリラックスを保って。
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- 多くの偉大な名教師たちが言っていることですが、理想的な姿勢というのは、例えば、ネズミを狙う猫のようなイメージです。猫はネズミを狙っていますが、つかまえることに力むあまり、もし体全体を緊張させていると、実際にネズミを捕まえる動作に移りづらいのです。ですから、体はとてもリラックスさせ、あくまでも頭の中で、獲物に向けた緊張感を作っているはずです。体のリラックスが、いつでもジャンプできるし、いつでも動ける姿勢を作っているのです。緊張感は、頭の中で作ってみてください。
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- ピアノという楽器の構造・特徴を良く知って弾いてみましょう。低音域、中音域、高音域、どこが一番響きますか?どこが一番音が持続しますか?どこが一番、クレッシェンドしやすい(しにくい)ですか? そういうことを実験してみましょう。





佐々木邦雄先生のアナリーゼクラスでは、4・5人が1グループになってのグループレッスン。1人1台の電子ピアノで、ラデツキー行進曲の合奏から始まります。
バッハのインベンション、ツェルニーのエチュード、今年度B級近現代の課題曲、そして特別に用意してくださった佐々木先生オリジナルの作品などを次々に初見合奏しながら、ひとつひとつの音楽作品が、どんな要素とどんなアイデアで形作られているか、テンポ良く読み解いていく授業は、2時間半という長さをまったく感じさせず、常に教室に笑顔があふれ、楽しさいっぱい。
レクチャーに使われたすべての楽譜には、アシスタントの久保祥子先生がポイントを書きこんでくださり、自分以外のグループのDVDものちほどダビングしてプレゼントされるという特典付き。子供たちへの細やかな配慮があらゆる場面に行き届いています。
「今日からはもう、ただ音符を読んで先生のところに行って、先生のアイデアをくださいという態度はやめよう。間違えても、怒られてもいいから、自分はこう思うというアイデアをもって、それぞれの先生のところにレッスンに行こう。それが音楽を勉強するってことだよ」と、熱いメッセージを生徒たちに伝えてくださいました。


12日夜には、会場近くのレストランで懇親会が開かれました。親しみやすいお人柄で、皆、先生たちの大ファンに。さっそく選曲や将来を相談したり、一緒に写真におさまったり、思い思いに交流を楽しみます。佐々木先生と携帯アドレスを交換する生徒さんもたくさん!最後は、皆で集合写真におさまり、貴重な出会いの機会となりました。
また、13日のレッスン終了後は、全参加者による修了コンサート。一人ひとりが、レッスンの内容を懸命に消化し、客席のイム先生に伝えようとしている気持ちがひしひしと伝わります。
修了式では、イム先生から、コンサートの演奏に対する直筆のアドバイス用紙が全員に手渡され、まさにマスタークラスの「修了証書」となりました。一人ひとりに、「君に出会えてよかったです。どうぞがんばって」とメッセージを手渡す光景は感動的で、14人の明るい未来が照らし出されるような、充実の2日間にふさわしい修了式となりました。
参加者たちの熱演が聴ける全国決勝大会は、8月20日(金)、第一生命ホールで行われます。






